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現代ブータン 女性をとりまく生活環境

『現代ブータンを知るための60章』 女性をとりまく生活環境 ★現代主婦のかかえる様々な問題★
一般的なブータン女性は良く働く。田舎では農業の担い手や土日の野菜市場の売り子の大半は女性である。ブータンの公務員社会では女性の進出は目覚しく、全教員数の41%は女性であり、多くの学校の校長が女性である。
Global Gender Gap Index 2016によれば、ブータンは調査対象国144カ国中121位で2013年の同調査では調査対象国136カ国中93位であった。2016年度レポートによれば健康、教育、経済と政治の分野においてブータン人女性は男性より明らかに不平等な状態にあり、特に地域労働、勤労報酬、賃金平等において大きな格差があるものの、専門職及び技術職に就く女性の数が多いこと、ないし識字率においては他国よりも性差がないとしている。
「西洋の婦人の高い地位は男が尊重するから保たれている地位だが、チベット系の婦人の地位は実力で平等か、或いはそれ以上の地位をかちとっているような気がする」(中尾佐助『秘境ブータン』)
とあるように、従来のブータン社会では女性は男性と同等であった。しかし近代化をしたブータン社会では、日本社会と同様に社会で働く女性は多くのハンディを抱えている。現在のブータン社会は決して男女平等とは言えない。
2016年12月の時点で女性の大臣は1名(10名中)、関係機関の長1名(汚職撲滅委員会の議長のみ)、県知事2名(ダガナ県、チラン県)、多くの地区長(9ニダガナ県内のみ)、国民議会議員4名(47名中)、国民評議会議員3名(25名中)と政治の世界ではまだまだ女性の占める割合は少ない。
次に雇用情勢を見てみると詳しくは第11章雇用情勢にあるが、労働人材資源省の統計資料によれば、2015年度ブータン全体の労働人口(15~64歳)は約35万3000人、失業者は約8600人、失業率は2・3%である。特に都会に住む女性の失業率は28%である。
また、労働人口全体で見ると就労している女性の70・7%は自営業(農業を含む:営農者は59・3%)に従事しており、7・O%が農業以外の家事手伝い主婦を含む)、3・2%が非正規雇用、17・8%(2017PHCBでは25・O%)が定期的に収入を得ることのできる職業に就いている。
2017年PHCBレポートによれば、都市部に居住する女性労働人口の59・6%が定期的に収入を得ることのできる職業に就いており、農村部では11・8%しかいない。また自営業(農業を含む)の割合は都市部では22・8%に対して農村部では68・3%とある。このように農村部の女性の現金収入への道が開けていないことが問題として推測できる。
2014年にSNVがサムツィ県、ワンディ・ポダン県、サハドゥプ・ジョンカ県の3県にて行ったジェンダー調査レポートによれば、水汲み、家族のケア、便所掃除、子供を風呂に入れる補助、洗濯は女性の仕事とされ、家族の祖母、母、娘の日常の家事労働と位置付けられているとある。
また家庭内の意見に関して意思決定は男性(家長)が行い、地方政治の県レペル、地区レベル、村レベル、集落レベルの何れにおいても男性がリーダーシップを取地域の集会への参加率は高いものの意見はなかなか言えない状況にあるとの記述がある。
プナカの友人宅の主婦の一日を見てみよう。一日はお祈りから始まる。朝5時に起床して、食事の支度(米を焚く)事から始まる。そして仏間に行き、数十個もある聖水の交換をする。そして朝ご飯の支度とともに昼食分の弁当を作る。
食事が終れば、田んぼに出る。日中、農作業をして、夕方5~6時ごろ家に着くと、夕食の支度を始める。そして8時ごろには夕食を食べ、片付けをする。ブータンでの家事の多くは手作業のため息つく暇もないくらい忙しい。
米を炊くのも米の中にあるゴミや石、虫等を丁寧に取り除き、炊飯や洗米に使う水を外の水場から汲み、火をおこし、ようやく米を炊く。家事は一つひとつ手間が掛かるのである。
また、ブータンの女性が世帯主の割合を見てみると、多くの文献は「ブータンは婿入り婚」であると明記しているが、西と東では多少事情が違うようである。下表のようにヽ、世帯主はおおむね南部や東部に行くほど男性になっている。南はネパール系が多いことが理由として考えられるが、東に関しては、元々婿入り婚ではなかったと考えるほうが自然である。
しかしこの5年ごとに調査される統計資料においては、世帯主に関わる記載が2012年は女性が世帯主の割合が農村部では34%に対し都市部では19%、ルンツィ県、プナカ県、トンサ県での割合が非常に高いと記述するのみで、2017年にはこの調査結果は公表されなくなった。
近年問題になっていることに既婚女性に対する配偶者からのDV(家庭内暴力)がある。筆者の職場の運転手は離婚を経験しており、一緒に出張に行っても一切お酒を口にしない。その理由を聞くと「以前よく酒におぼれて妻を殴っていた。もうこんなことは繰り返さない」と言った。保健省が妊娠から出産、子育てに至る(ンドブックを作成したが、その中にも酒におぼれて家族を殴る父親の姿が描かれている。
ブータンのNGOであるRENEWの調査によれば、2016年に報告されたDVケースは312件、この内の94%が女性からの相談であった。
以前、同じ職場で働いている女性が顔を真っ赤に晴らして出勤してきたことがあり、彼女にその理由を聞くと「夫に殴られた」らしい。暴力の原因はストレスだという。閉鎖的、なおかつ階層が厳しい社会、しかも面積が狭いため(多くの町は狭い谷にある)、逃げ場がない。そのため弱者がより弱者に対してストレスの発散をしてしまいがちである。
ブータン社会は離婚に寛容で、離婚をしても社会から白い目で見られることもなく、多くの場合比較的短い期間で再婚する。ステップファミリーの比率も日本より遥かに高いのであろう。
離婚をしても家族が子供の面倒を見るので、「子供がいるから自分のやりたいことができない」ということはなく、結構自由気ままに振舞える。
ブータンの主婦は幸せなのであろうか。西洋の文明社会の視点で見ると、決して幸せとは言えない。しかし、過酷な状況の中で、彼女たちは自分で自分を励まし、笑顔で日々の労働に勤しんでいる。またその彼女たちを支える大家族があることもあって、主婦は家族の一人一人に安心感を与えることができる。

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