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なぜポップコーンは損なのに、スターバックスコーヒーは損ではないのか

『エコノミストの昼ごはん』より ⇒ スターバックスのコーヒー原価をバリスタは知っている。その上で、自分たちの役割を認識している。これがマクドナルドとの違い。

様々な食の現場を覗いてみると、こうした内部相互補助の考え方が驚くほど頻繁に姿を現す。

映画館の食べ物は不味いことが多い理由も、内部相互補助の概念を使えば説明しやすい。食べ物は映画を相互補助するが、その逆は無い。映画館に来る客にとって、映画鑑賞はかなりお得であるのに対して、映画館の食べ物を食べることはかなり損である。この話には歴史的な経緯があるので、これからそれを説明しよう。

ポップコーンがアメリカの映画館に現れたのは、大恐慌の真只中の一九三〇年代のことだった。ポップコーンの売り上げのおかげで、どうにか潰れずに済んだ映画館も多かった。一九四〇年代後半までには、ほぼ全ての映画館がポップコーンの製造機を設置していた。一九四五年までには、アメリカのポップコーンの半分が映画館で消費されるようになった。一九四九年の調査によると、映画の観客全体の六割が映画館で軽食を購入していた。ポップコーンと炭酸飲料は、利益率の高い商品としての名声をたちまち獲得した。それから長年かけて、劇場の支配人たちは、ポップコーンに大量の脂肪分や塩や油を添加することで、観客たちの需要を刺激してきた。こうした動きは一九九〇年代半ばに「ポップコーン健康不安」が取り沙汰された時だけ鳴りをひそめたが、今日でも相変わらず体に悪いポップコーンが売られている。

映画館でお得にものを食べるための特別な奇策があるわけではないが、もしもこの本が良い映画のための内部相互補助を見つける方法について書かれた本だったとすれば、ポップコーン問題に対してももう少し注意を払うだろう。大きなポップコーン売り場を探せ!

映画産業の経済学について考えると、ポップコーンを買う気はますます失せるだろう。現在の映画館は、チケットの売り上げの大半をスタジオに送り返している。映画の上映が始まる週末(その映画の歴史において最重要のイベントである)には、最大九十パーセントものチケットの売り上げが映画の制作者に対して支払われ、上映期間全体を通じてはチケット売り上げの約半分が映画の制作者へと支払われる。これは収益の配分としては合理的なものである。スタジオは映画を制作するが、ヒットさせるのは容易ではない。それに加え、スタジオは多額の宣伝費を支払わねばならない。万人受けする大衆映画の場合、この費用は特に多額にのぼる。これとは対照的に劇場は、ポップコーンの販売によって多くの金を稼ぐ。ポップコーンの売り上げは一切、制作会社に支払われることがない。

劇場側のインセンティブは、映画料金を下げ、ポップコーンの価格を上げることである。低い映画料金によって観客/食事客が引き寄せられ、劇場の収益はそれほど減ることがない。その代わりに、ポップコーンの価格を比較的高いものにする。品質を落とすこともまた正味の利掛けを上げる方法なので、売店で販売されるポップコーンなどの味は、通常あまり美味しいものではない。

この状況をさらに悪化させるのが、誰が映画を観に行くのか、ということである。映画館に来る客の多くは三十歳以下、特に十代またはそれ以下の若者や子供が多い。先述したとおり、これらのグループは、特にアメリカにおいては、きちんとした味覚を持っていない場合がほとんどだ。

映画館できちんとしたものを食べようと思うなら、一番良いのは、「独立系」の劇場に行くことだ。こうした劇場は、外国映画やカルト映画を上映し、年齢の高い成熟した観客たち、すなわち若者たちよりは舌の肥えた人たちをターゲットにしている。さらに、よくあるシネコンに比べると、独立系の劇場はチケット収入の取り分か高くなっている。独立系の劇場では、多い場合でチケットの売上の五割が劇場に入るので、劇場は客をポップコーンの消費者ではなく映画の観客として扱うことになる。独立系の映画館を食事の場所としてお勧めすることはできないが、少なくともサンドイッチやフムスやごく普通のリンゴが売られている可能性はある。重要なのは、食べ物の利益率ではなく、成熟した人々がリピーターとして足を運んでくれるかどうかである。

スターバックスにも、内部相互補助の有効な事例を見ることができる。スターバックスで売られているようなコーヒーが好きならば、特に分かりやすいだろう。創業当初、このチェーン店はアメリカにおけるコーヒーの消費に革命を起こした。スターバックスを嫌う人たちでさえ、スターバックスが当時の競合店の大半よりも濃くて美味しいコーヒーを出していることは認めざるを得ず、このチェーンは一躍有名になった。だが、やがてチェーンの規模が拡大するにつれ、以前よりも売上総額や利益率の高さが問題になりはじめた。今日のスターバックスは、何らかの形でコーヒーと関係のあるような、ミルクたっぷりの甘いドリンクを得意としている。いま私たちが目にしているのは、ミルクと砂糖がコーヒーを相互補助してくれているおかげで、コーヒーの質が維持され、何より手に入れやすくなっているという状況である。「コーヒーのイメージ」や、おそらくコーヒーの香りによって、スターバックスは甘いドリンクの新たな販路を開拓した。すなわち、これはコーヒーに対して有利に働く内部相互補助であり、コーヒー好きにとってはスターバックスでの買い物は特にお得だということになる。だが、ミルクと砂糖が好きならば、コーヒーの香り代を余計に支払っていることになる(これによって店のコーヒー風の基盤が支えられる)ので、自宅で自分好みにミルクと砂糖を混ぜたほうがいいかもしれない。そのほうがはるかに安上がりだ。
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