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今後の図書館の役割

『情報・知識資源の組織化』より

場としての図書館

 図書館は[知の宝庫]と呼ばれてきた。図書館は、人類の遺産である記録された知識の収集・保存・提供という役割を持つが故に、蓄積した知識の利用を待つだけの,どちらかというと受動的な社会的機関となってしまっている.「場」としての図書館の役割が議論される背景には、多くの人が図書館を介せずにインターネットを介して情報を入手しているという事実がある。こうした利用者の情報探索行動の変化は、図書館の役割にも影響を及ぼす。電子書籍の普及が進むなか、図書館は単なる本の提供場所から知識創造の「場」へと進化していく必要がある。

 居心地の良い場所を求めるのは人の常で、誰もが気楽に立ち寄れくつろげる「場」を求める。都市に暮らす人々には、家庭と職場に加え、第三の場所として、パブ、カフエ、書店のような「サードプレイス」が必要とされる。

生涯学習の場

 図書館は利用者が多様な情報資源と相互作用し問題解決を図ることで知識を獲得していく「生涯学習」の場である。学習は単なる個人的な営みではなく、人々が相互に影響しあうことで互いの達成度を高める協調的なものである。協調学習では、他者の考えとの相互吟味を通して自身の知識が再構築され、理解が進む。図書館はこうした相互作用を促進する場として機能していくことが望まれる。学習は社会的なプロセスであり、絶えず社会と相互作用していくことでなされる。

 状況論的学習は、個人の置かれている状況や環境と交流をもつことで、社会を認識し知識が獲得されるという発想である。そして、学習というものが社会的・文化的参加を通じて起こり、知識は個人の心の中に貯蔵されているのではなく、社会や道具との間で分散的に保持されると考える。知識は人間の生活の営みの中ではじめて十全に捉えられる。つまり、学習とは、学習や発達を可視化し焦点化する道具やその使用を含む、ある種の実践の組織化の在り方といえる。状況論的学習の目標は,外界との積極的なインタラクションをとおして、そこに本当に自分を活かせる場をつくりだし、そういう場を発見することで自分自身を広げていくことにある。

交流の場

 図書館は、資料の提供といった利用者への直接支援(タスク指向型のコミュニケーション)以外に、利用者同士のコミュニケーションを間接的に支援することも大事である。この非タスク指向型のコミュニケーションは、他人や各種情報資源との相互作用を通して個人の「意味づけ」や「意味の構築」を支援する。意味は人間行動を特徴づける本質で、情報探索行動は単に情報を見つける行為ではなく、多様な情報資源と相互作用し、自分なりの意味を見いだす行為でもある。

 コミュニケーションでは、参加者同士が共通の場に身をおき、空間と時間を共有する。ニフミュニケーションの一般化は難しいが、コミュニケーションには「共有」概念のほかに、集団のメンバーが分担責任を決めて情報や知識を分け合って保持する[分有](誰が何を知っているか)概念が含まれる。集団による情報の分有システムとして交流型記憶がある。これは、誰が何を知っているのかという点について,メンバー全員が同一の知識を持っている状態をいう。すなわち、集団における情報の分有状態に関するメタ知識を全員が共有している状態をいう。コミュニティの「分有」システムを支援してあげる役割が図書館にはある。

実体験の場

 今後の図書館は、従来のように貸出や入館者データに基づき評価されるのではなく、広範囲な教育支援、健康情報の提供、求職支援、安全で清潔な環境の提供といった、地域住民の「生活の質」をいかに高めていくかで評価される。一般にサービスは、図9-1に示すように、大きく3つの要素からなる。これまでの組織化は、モノとしての書籍を貸し出す(提供)サービス、レファレンスなどの情報提供サービスを念頭においてきた.今後はこれらのサービスに加え、体験サービスを提供していく必要がある。体験サービスは、個人的成長のための学習支援、自己実現のための情報リテラシーをはじめとする種々のスキルや能力の習得支援サービスをいう。また、社会で生きるための力や知識もこの体験サービスを通して得られる。

 Web上の情報は知識ではないといわれるように,知識の本質は体験することで得られる。また、理解する、分かる、納得するには、言語・論理世界の枠内だけでは説明できない.言葉として表現されると社会的に容易に共有できるが、論理的世界の記述では、現実世界の一部しか表現できない。知識の社会的共有過程は個人の頭の中の閉じた現象ではない。外界に開かれた構成的知能の形成として知識を捉える必要がある。
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