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日本 連続するもの

『中国が世界をリードするとき』より 日本-西洋的ではない近代

日本は、ある動きに対する反応としての近代化が起こった世界で最初の例、すなわちヨーロッパの支配と優位という趨勢の中で近代を選びとった世界初の例である。その結果日本の近代化の過程は、みずからの意思と自覚の下に、西洋化と日本化の間を綱渡りする試みとなった。とはいえ後続のアジアの近代化と比べれば、日本はかなり恵まれていたともいえる。とりわけ日本は、近代化をどのように進めるか、どの道筋をたどるかを選択することができたが、これは後続のケースでは望むべくもなかった。だからこそ、日本はきわめて興味深い事例である--既存エリート層が、国の根幹とされるものを維持せんがため、みずから計算づくのうえで西洋化を選びとった例として。

徳川時代の長い鎖国状態をものともせず、日本は明治維新という決定的な転機にあたって外国の影響をおおいに受け入れ始めた。ちょうど五、六世紀の中国との関係がそうだったように。必要とあらば外国への接近をも厭わないこの姿勢が、日本社会の強さの根底にある。日本の「本質」を保持したいという欲求は、外国思想の拒絶によってではなく、社会学者・吉野耕作がいう「われわれだけの領域」の境界を明確にすることであらわされる。つまり、日本固有の習慣・制度・価値からなるとされる領域である。吉野は述べる。

「われわれの領域」を明確にするために、おもだった差異が取りあげられ、整理される。こうして「われわれ」(日本人)を「かれら」(文化的要素を借用した外国)から差異化するわけだが、それだけでなくここでより重要なのは、「われわれだけの領域」の存在を強調すること、すなわち「われわれ」というネーションの文化的実体としての連続性を示すことである。歴史的連続感もまたこのようにして主張される。この「われわれ」の文化的領域こそ、日本人だけが所有するものなのだ。

こうして日本の独自性は二種類に分けて規定され、主張される。まずは先にふれた日本的特異性という概念で、これは日本だけがもつ真に日本的とされる要素から構成される。次に、さまざまな外国の影響が日本独特とされる要素と交わってできたほかに類をみない形として。日本的特異性の概念は、日本人の自己認識の中ではその混交性よりも上位に置かれる。日本のユニークさとは、畳や酒や相撲といったさまざまな物質的特徴を含みながらも、最終的には日本人と非日本人の振る舞い方の違い、あるいは日本人と外国人のシンボリックな境界がどこに引かれるかという点に集約される。土着と外国の要素が並び立つこの二重性は、現実に日本のさまざまな側面にみられる。二者は共存しながら亀裂を生むこともなく、しばしば外国の要素は日本の要素に吸収されて再構成され、混ざりあい、統合される。このようにして日本近代は、ひじょうに複合的で調和のとれない、ときに奇妙な現象となった。この混交性は中国の影響を受けた時期に始まるが、もっとも明確に、劇的に進展したのは西洋化の時期である。あまりに西洋化か浸透してしまったので今や当たり前となり、これが日本本来の姿なのだと感じられるほどだ。基本的な装いは洋服だが、日曜には着物姿を見かけることが多いし、自宅で和服を着用する人もいる。日本食には日本・中華・西洋の要素が混在しており、箸とナイフ・フォークがともに使われる。さらにはすでに述べたような古代の歴史的背景から、日本語は中国由来の文字と日本独自の文字とで表現される。

熱心な西洋化の時期をへて、やがて日本的要素と西洋的要素というテーマに関心が向けられ、議論されるようになった。明治以降の日本の歴史は、たしかに西洋化と日本化の間を揺れ動いている。明治維新後二〇年間は猛烈な勢いで西洋化の道を突き進んだが、一九〇〇年までには内省に向かい、日本人の本質を問う気運が生まれた。この時期の議論では、もっとも本質的な日本的特質として三つが挙げられた。天皇制、武士道精神、家族社会(天皇を父とする)である。その後、第二次世界大戦の敗戦と米国による占領をへて、再び猛烈な経済的キャッチアップと西洋化の時代があり、続く一九七〇~八〇年代初頭にあらためて日本的特異性を規定しようとする動きがあった。しかしこの時期の「日本らしさ」の概念は、一九〇〇年代のものとは大きく変化していた。一九七〇年代の「日本人論」(日本人の本質についての議論)が注目したのは、同質的で集団志向の社会と、言語表現に依らない、論理的でない民族としての日本人だった。後者の特性は米国文化との対照によって日本らしさを規定しようとした態度といえるが、このことは戦後日本にのしかかった米国の存在の大きさを考えれば理解できよう。
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