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図書館のNDCの順列

『サインはもっと自由につくる』より サインの前に--開館しても変えられる! 棚のリニューアル大作戦

あらためて考える、NDCの順列で並べるとどうなるのか

 ほとんどの図書館において、本を分類し配架するために「日本十進分類法」(NDC)を使用していると思います。

 NDCは森羅万象の主題を9区分し、1から9までの数字を割り当てーどこにも分類できないものは0に分類し一体系的に位置づけます。数字を使うため単純で簡潔な構造をもち、主題間の関係や順序がわかりやすく表現されるという長所があります。一方で、十進で展開させるという規則が優先されるため、NDCそのままに従って本を配架すると、なぜこのジャンルがここにあるの? ということが時折発生します。

 図書館に勤務して間もない頃、「孫子」の場所にっいてたずねられたことがありました。「399兵法」の棚へと案内したところ、その利用者は複雑な表情になって、どうして軍事を民俗学の横に置くのかと質問しました。振り返ると、教育学(37△)、民俗学(38△)のあとに、国防・軍事(39△)という順番で配架された棚が並んでいます。 NDCに関心がなく普通の感覚で本を探そうとする人にとっては、思いもつかない脈絡のない並びです。図書館勤務数か月だった私も、採用している分類規則に従うとこうなってしまうのですと回答しつつ、心の中では同じ疑問を感じていました。この勤務して間もない頃に感じていた「なんでこんな並び方になるの?」という違和感は大切です。同じ違和感は多くの利用者ももっていると思います。勤務経験を重ねるうちに、この違和感は薄らいで当たり前になってしまったかもしれません。

 また、NDCでは、日常的な感覚では似ている概念が、別の主題として遠く離れて分類されてしまうこともあります。たとえば、47 (植物学)と62(園芸)。4類と6類、1次区分のレベルで違ってしまうと、図書館の構造によってはそれぞれがまったく違うエリアに配架されてしまうこともありえます。

 たとえば、「蘭」について質問されたとき、インタビューを重ねて植物と園芸のどちらかの棚に、場合によっては両方の棚を案内します。けれども、特殊な栽培方法について問い合わせを受け園芸の棚で調べていたところ、結局は植物学の本に詳しく載っていたというようなことはよく経験するのではないでしょうか。自然科学としての「植物」、産業分野の「園芸」。学術的に区別される理由はわかるのですが、利用のされ方から見ると両方の本を必要としていることも多く、遠い場所に置いてあると、一緒に見ることができず不便に感じます。

 他にも、同じカテゴリーとして相互参照すると便利な主題が複数の項目に散っているケースがあります。O類と5類に分かれるパソコンとインターネット。マスメディアになると、070(ジャーナリズム・新聞)、361.4 (マスコミ)、699(放送事業)と3ヵ所の棚に分かれてしまいます。利用者にしっがりインタビューして、適切な棚を紹介してこそ司書の腕の見せどころなのかもしれませんが、そもそも分かれている分野について、1か所もしくは近くに配置して、探しやすい棚をつくるということもプロの技だと思うのです。

私たちのツール、NDCのこと

 配架を考えるにあたって、全国の図書館に普及している標準分類表であるNDCのことを避けることはできません。ここからは、もう少しまとめてNDC、「日本十進分類法」のことを触れてみたいと思います。

 NDCの初版は1929年、デューイ十進分類法の体系を参考にして、同一主題が近接するよう本を主題の体系に沿って書架上に配列するための書架分類法として誕生しました。その後、根幹にかかわる変更を加えずに時代に即した主題の追加や変更、削除が加えられて、2014年発刊の10版まで、改訂が重ねられています。

 発刊当初の1929年の世界には、スマートフォンもパソコンも、地球温暖化も遺伝子組み換えも、核兵器もありません。世界恐慌、アル・カポネ、スターリンの時代です。そのような時代に基礎がっくられた分類体系にその後、次々と発明・発見されたモノや技術や文化を新主題としてはめ込むことが可能だったのは、NDCがOから9の数字を使って展開し、桁数を増やすことで主題の階層や深度を表現できるという伸縮性のある構造をもっているためです。

 さらに、当時はほとんどの図書館で閉架式閲覧法がとられていました。利用者は現在のように自由に本を手にとることはできず、書庫に入っている本を目録で探し出し、閲覧票に記入して請求していました。そのような時代につくられた書架分類法が前提としている書架配架のイメージは、現在とはまったく異なっていたに違いありません。利用者目線を意識した、探しやすさを指向したものでないことは確かです。

 さて、その後NDCはひとつの転機を迎えることになりました。それまで書架分類として編集されてきたNDCが、1995年発刊の新訂9版からは書誌分類を指向することになったのです。インターネットを使った蔵書検索が一般的になった現在では、一館単位の配架を想定した分類よりも、ネットの主題検索で効率よく情報が得られるように詳細な分類表を指向するほうが時代に適合しているという判断があったためです。ただ、書誌分類を念頭に作成されてはいても、図書館現場の実務に影響が出ないよう根本的な変更は加えず、9版以前のNDCとの連続性は維持されています。それまで使用していた分類項目を他のものと入れ替えるような、大きな変更ではありません。

 このNDCの書誌分類への方針転換は、書架分類の重要性が低下しかためという意味ではなく、書架分類については個々の館の事情を反映させて、書誌分類をうまくカスタマイズするべきものとして捉えたほうがよいのだと思います。なぜなら、NDCは公共図書館、学校図書館、大学図書館、専門図書館、いろいろな館種で使用されています。私自身は公共図書館出身なので、どうしても「公共図書館としての使いやすさ」からNDCを見てしまいますが、館種によって「使いやすさ」の観点はさまざまなはずです。また、公共図書館だけを考えても、NDC誕生当時とは異なり、現在の図書館サ-ビスのあり方は各館多様で、それを実現するための配架もまたさまざまなかたちをとるはずです。そのうえ配架は建物の構造や棚配置など、図書館の施設的な要素に大きく左右されます。このように各館の諸条件が異なる状況で書架分類を一律に考えること自体、今や無理が生じてきているのだと思います。それよりも共通の書誌分類をベースに自分かちのサービスをかたちにする配架を実現するため、どう工夫するかを考えるほうが現実的です。

 ということで、次節からは公共図書館の現場で「探しやすさを求めて」リニューアルしているうちにNDCをカスタマイズしたらこうなったという案を紹介していきたいと思います。

 NDCは私たちの道具です。プロは道具を使いやすいよう磨かなければなりません。
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