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ジョブ型正社員とは?

『若者と労働』より 若者雇用問題への「処方箋」

振り返ってみると、伝統的な日本型雇用システムでは、成人男性を前提にしたメンバーシップ型の「正社員」を中心に置き、主婦や学生を前提にしたジョブ型の非正規労働者を周辺に配置するというやり方をとってきましたが、一九九〇年代以降「正社員」を縮小し、非正規労働者を拡大させるという人事戦略が進められてきました。こうして「正社員」システムから排除され、非正規のまま年長フリーターとして取り残されていった若者たちを再吸収すべき受け皿としての雇用形態として、本章では旧来のメンバーシップ型「正社員」ではない「ジョブ型正社員」を提起してきました。

それは同時に、労働条件の劣悪な非正規労働者になりたくなければ、職務も労働時間も勤務場所も無限定のメンバーシップ型「正社員」になることを受け入れなければならない、という在り方についても考え直すということでもあります。

日本のパート労働法第八条は、「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が……変更されると見込まれる」ことを「通常の労働者」の要件として規定しています。裏を返せば、欧米社会で「通常の労働者」と見なされる「その職務の内容及び配置が変更されると見込まれ」ないような者は、雇用契約が期間の定めがなくフルタイムで直接雇用であったとしても、「通常の労働者」とは扱ってくれないのです。実際には上述のように、女性正社員やそれを受け継いだ一般職正社員は、相当程度「その職務の内容及び配置が変更されると見込まれ」ない人々でしたが、それは必ずしも明確化されたものではありませんでした。

そこで近年、正面から職務限定や勤務地限定を明確にした期間の定めのない雇用契約を積極的に拡大していこうという考え方が政府の研究会などからも示されています。例えば、二〇〇八年七月にまとめられた雇用政策研究会報告「持続可能な活力ある社会を実現する経済・雇用システム」では、正規・非正規の二極化構造を解消し、雇用形態の多様化を目指すとして、具体的に金融業や小売業で見られ始めた「職種限定正社員」や「勤務地限定正社員」といった、業務や勤務地等を限定した契約期間に定めのない雇用形態を「多様な正社員」として推進していくことを提起しています。また二〇一二年三月の非正規雇用のビジョンに関する懇談会報告「望ましい働き方ビジョン」でも、無期、フルタイム、直接雇用に加えて年功的処遇や勤務地や業務内容の限定がなく時間外労働があることまでを満たす典型的な正規雇用だけではなく、勤務地や業務を限定する「多様な正社員」を念頭に正規雇用化を進めることを提起しています。

「ジョブ型正社員」という言葉で表現している働き方のイメージをまとめておきたいと思います。これは、『改革者』という雑誌の二〇一〇年一一月号に寄せた「職務を定めた無期契約を--『ジョブ型正社員制度』が二極化を防ぐ」という文章の一部を若干書き直したものです。なおこの文章は、児美川孝一郎氏の編纂になる『これが論点!就職問題』(日本図書センター)という若者雇用問題に関するアンソロジーの巻末に収録されました。

彼らジョブ型正社員の雇用契約は職務、労働時間、就業場所を定めた期間の定めのない雇用契約です。そのため、職務を超える配転はありませんが、その職務がある限り原則として解雇から保護されます。逆に言えば、当該職務がなくなったり、職務の絶対量が縮小すれば他の職務に配転することで雇用を保障する義務はなく、労使協議により対象者を選定することを条件に整理解雇が正当とされます。また、時間外労働や転勤に応じる義務は原則としてありませんが、その代わりリストラ時に残業削減の余地はなく、直ちに整理解雇が始まります。もっとも、労働時間を減らして賃金を分け合う本来的ワークシェアリングはありえますし、一時的な不況期にはむしろその方が望ましいでしょう。

彼らの賃金は(月単位で支給されたとしても)時間単位で投入労働量に応じて計算されます。つまり実質的には時給制です。義務のない時間外・休日労働を労働者の同意を得て行わせた場合には、高率の割増賃金を支払わなければなりません。また賃金の決定原理は当該職務に対応する職務給ですが、若年期には勤続による習熟に対応した一定の年功的昇級がなされるでしょう。さらに、教育訓練もその職務系列の上位に昇進するためのものにとどまります。

本章で強調した非正規労働者からジョブ型正社員に移行するルートを確立するとともに、自分の職務を大事にしたい、自分の時間を大事にしたい、自分の住む場所を大事にしたいと考える正社員がジョブ型正社員に転換するルートを明確化することも必要です。掛け声ばかり大きい割に具体的なイメージが曖昧なワークーライフ・バランスの一つの典型像として、雇用保障の縮小と引き替えに職務限定、時間限定、場所限定を権利として持つジョプ型正社員への移行を提示することには意味があります。その意味では「ワークーライフ・バランス型正社員」と呼んでもいいかもしれません。

当面は今までの正社員や非正規労働者から希望に応じてジョブ型正社員に移行するという形にならざるを得ませんが、どこかで雇用契約のデフォルトルールはジョブ型正社員とすることを考える必要が出てくるのではないでしょうか。
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