●キュレーションメディアの問題の本質
ASREAD 「真実を見つめ、明日を正しく読み取る」 2016/7/11 小山 晃弘
「キュレーションメディア死ね!」
この気持ちはそこそこ年季の入ったインターネットユーザーなら全員が持っていると思います。Googleのアルゴリズムをだまくらかし、パクりとコピペで記事を量産、今や検索の1ページ目はクソの吹き溜まりと化しました。
なぜこんなことが起きてしまったのでしょう。
そしてキュレーションメディアの問題の本質はどこにあるのでしょうか。
本稿では憎しみと怒りをテキストバイトに変えて、この問題について考えてみました。
そもそもキュレーションメディアとは何か?
実際のところ、この言葉は明確に定義されていない言葉です。
かつては ・Gunosy ・SmartNews
のように、ユーザーの嗜好にあわせて記事をサジェストするタイプの技術系アプリについて使われていた言葉です。
「キュレーション(転載)」の言葉通り、様々なWEBから記事を引っ張ってきて一覧化し、ユーザーの検索コストを省くというのが価値の中心でした。
しかし、最近、特に2015年くらいから流行し始めた「キュレーションメディア」はこれらとは全く異なる性質をもったメディアです。代表例は
・Naverまとめ ・nanapi・Mery
のようなサイトで、際立った特徴は「他の記事の一部を転載し、コンテンツを濫造する」という点です。
従来型のキュレーションメディアはあくまでも「記事の一覧」、つまり記事を読めば転載元のサイトにPVが行きましたが、Naverまとめ型の新型キュレーションメディアは自メディア内部でPVを完結させます。
つまり、他のサイトをパクリ、コピペし、コンテンツを大量に濫造する。そして他サイトからPVを盗む。
それが「新型キュレーションメディア」というメディアです。
なぜキュレーションメディアにPVが集まるのか?
前段で
「(新型)キュレーションメディアとはパクリとコピペでコンテンツを大量生産するメディアのことである」
と定義しました。
それではなぜ、そんなパクコピメディアにPVが集まってしまうのでしょう。
キュレーションメディアの記事には、独自性も作家性も新規性もないはずなのに…。
答えは、Googleのアルゴリズムにあります。
SimilarWebなどで調べてみるとわかりますが、ほとんどのキュレーションメディアはPVのほとんどを検索エンジンに頼っています。つまり、キュレーションメディアが検索で評価されやすい構造があるということです。
Googleは「ユーザーの価値を第一に考えている」と繰り返し明言しています。
なぜそんなことが起こってしまうのでしょうか。
これには事情があります。
いや、僕はGoogleの中の人じゃないのであくまで想像なんですが、そう遠くないのではという確信があるので聞いてください。
2010年代前半は、CGMサイトの時代でした。
「WEB2.0」の時代、ユーザーが各々の情報を持ち寄ることで、巨大な価値のあるCGMメディアを作成することが可能になりました。
そこでGoogleは恐らく「投稿数が多いメディアには価値がある」という検索アルゴリズムを強力に導入したはずなのです。
レビューが10件しかないレビューサイトと、1万件のレビューが投稿されているレビューサイトでは価値が違います。情報が集積されることで価値が生まれるメディアなら「投稿数に価値あり」と判断するのは妥当なことでしょう。
そうです。キュレーションメディアは、Googleのこのアルゴリズムを利用しました(多分)。
情報が多いことで価値が生まれるメディア・生まれないメディア
5歳児でもわかることですが、料理のレシピは多ければ多いほど価値があります。人間は毎日3食、年間1000食以上食事をするわけですから、多くの種類のレシピが必要になりますよね。レストランのレビューも同じ理由で、数が多ければ多いほど価値があります。
しかし、「情報が多いことが価値を生まない」種類のメディアというのも存在します。
例えばダイエットの情報。
1000種類のダイエット情報をユーザーに提示することに、果たして価値はあるでしょうか。ユーザーは情報の多さに惑わされるだけです。1000種類のダイエット情報を垂れ流すくらいなら、代表的な10種類くらいのダイエット方法を深く紹介してくれた方がよっぽど情報価値があります。
しかし、現在Googleで「ダイエット」と検索して出てくる1件目のサイトは、まさにその類いのクソサイトです。
ダイエット美
この「ダイエット美 」という美容キュレーションメディアは、ほぼ全ての記事のタイトルに「ダイエット」というキーワードを挿入しています。そうすることで、Googleの検索エンジンに「お、このサイトは『ダイエット』の情報がたくさんあるな」と錯覚させているわけです。
実際には数百ある記事がほぼ全てが同じような浅い内容で、従ってソーシャルリンクもほぼ全くついていません。100人が見れば100人が「情報価値が低い」と判断する類いのサイトでしょう。
しかし検索順位は高い。
「ダイエット」は超激戦キーワードです。毎日およそ67万回も検索されています。検索TOPのサイトには15~20%の流入があると言われていますから、この「ダイエット美」というクソサイトは毎日10万PV近くを稼ぎ出しているはずです。毎月の収益は数百万円をくだらないでしょう。全く情報価値のないページでユーザーの検索コストを増しWEBを汚染することで、このサイトの収益は成り立っています。
ちなみに「PVは多いのにソーシャルリンクが極端に少ない」というのはキュレーションメディアによく見られる現象です。
代表的な女性向けキュレーションメディアである「MERY」では各記事のPVを見ることができますが、数万、数十万のアクセス数を稼いでる記事でもソーシャルリンクは驚くほど少ないです。「検索エンジンに評価されればそれでいい。人間の評価などどうでもいい」というキュレーションメディア運営者の思惑が透けて見えます。
さらにちなみにキーワード「ダイエット」で検索に表示されるサイトは、1ページ目のほとんどがこの手のクソキュレーションメディアです。
「ダイエット美」「ダイエットブック」「welp」「Naverまとめ」「MERY」…
収益性の高い美容・医療系にはキュレーションメディアが群がる傾向にあるのですが、僕も最初にこれに気づいた時はドン引きしました。
明らかに2年前、3年前の方が、検索で得られる情報は良質でした。WEB検索の世界は明らかに時代の逆行が起こっています。
クソ記事が評価される世界なら、良いコンテンツの書き手は駆逐される
現在のキュレーションメディアは、Googleの「情報量が多ければ多いほどそのドメインを評価する」というアルゴリズムをハックし、クソ記事を粗製乱造することで検索流入を増やしています。そのような蛮行がまかり通るインターネットの未来は、一体どうなるのでしょうか。
ひとことで言えば、良質なコンテンツの書き手がWEBからいなくなります。
パクリとコピペで濫造した100記事が、取材と独自の視点で書き上げた1記事に勝利を収める。
そんな状況なら、誰もコンテンツ制作にコストを注入しようとは思わないでしょう。
現に、キュレーションメディアの原稿料はアフリカの最貧国かと思うほどの価格です。
「1記事500円」とかが当たり前のようにまかり通っています。そしてそれを請ける馬鹿がいます。
人気WEBライターのヨッピーさんも
「この2年くらい、新しいライターさんがあまり出てこない」
旨の発言をしていましたが、キュレーションメディアの隆盛もその遠因になっているんじゃないかと、自分としては思っています。
なぜ新しい才能がWEBに現れないかと言えば、やはりあまり儲からないから、またこちらの方が重要かもしれませんが「夢がない」からでしょう。
クソみたいなパクコピ記事で構成されるメディアが「新鋭メディア」ともてはやされ大規模な資金調達に成功するような世界では、才能ある人ほどWEBに希望を抱かなくなるのは当然です。そうしてWEBの世界から才能や若手は去っていく。
これは結構、重要な問題だと思います。
Googleなんとかしろ
しかし、いくらキュレーションメディアを批判した所で意味はないとも思います。
キュレーションメディアの運営者たちは、恐らくWEBの価値などまるで信じていません。金と、金と金と金のために検索エンジンをハックして儲けようとしているだけです。何を言ってもどうしようもありません。
この状態をなんとかできるのはGoogleだけです。
彼らが「情報が集積されることで価値が生まれるメディア」と「情報が集積されても価値が生まれないメディア」を選り分けるアルゴリズムを開発すること。それだけがこのクソ地獄を正常化します。
かつてのパンダアップデートがbotによる自動被リンク作成を撲滅させたように。
次のアップデートが、バイラルメディアを駆逐するものであることを祈ります。
余談ですが、コンテンツプラットフォームがひとつの企業に独占されているというのは、やはり健全な状態ではないですね。
単なる私企業に政府か行政のような対応を期待しなければならなくなります。
検索エンジンも二番手、三番手の企業が出てきてくれると良いなぁと、現在のGoogleの検索結果を見て思うのでした。
メディア論について書いた別の記事もご覧下さい。
・アルファブロガーから見てもブログ飯は絶対無理 |