選挙のポスター代の問題。一昨日の中日新聞は一面で、中部6県の市議選の請求データを載せた。読売は県内版でまとめた。
実態がいっそう明らかになってくる。
昇秀樹教授(地方自治)が、中日新聞に「見方によっては、ポスター費用を上限額まで請求するのは候補者のやる気を見る基準になる」とのコメントを寄せている。なんと筋違いの考え方だろう。
先日は、後房雄教授だった。そのときも指摘したが間違っていると思う。
私には、現場を知らない人たちの意見、としかうつらない。
記事では、「福井県敦賀市では、『東京のスタジオまで写真撮影に行った』という候補者もおり」とも書かれている。
確かにそういう人もいるかも知れない。が、それにも意図があるはず。
そこを理解しなくて、候補者の言い分は見抜けない。そこで、選挙の候補者の選挙準備における印刷の流れを紹介する。
選挙の現場の、しかも一部の関係者しか知らないことだろうから
私たちの選挙講座では、印刷物関係の最初の部分でお伝えすること。
続いて紹介するのは次のこと。
愛知県日進市のポスター代の請求状況がインターネットに出された。
さらに、ユニークなのは、今年4月の市議選の候補者のポスターを市民の目で品定めする企画まであること。
楽しい人たちだ。
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● 選挙の候補者の選挙準備における印刷の流れからみた公費請求の真実は?
1、 候補者が作成する印刷物
選挙において候補者が作成する通常の印刷物は「ポスター」「選挙用ハガキ」であり、先立つ選挙の準備における通常の印刷物は「リーフレット・チラシ・ニュース」(「名刺」)などである。
このうち、顔写真を使うのは、「ポスター」「選挙用ハガキ」「リーフレット」「名刺」などである。カラーが多い。
2、 候補者の写真の印刷用の「版」は共通にするのが原則
(1) 印刷のためには、写真の撮影、デザイン、版の作成が必要。
このときの第一の原則は、ポスターのように大きいサイズでもハガキのように小さいサイズでも、「同じ写真」を使うことである(無論、大きな選挙になれば「複数」の場合もあるが、理屈は変わらない)。
(2) 「同じ写真」を使う理由の第一は、候補者を知らない有権者に対して「私」という候補者をより認識させるために、すなわち共通・関連した印象を与えるために、「同じ写真」を意図的に使うわけである。古典的なイメージ作戦の一つ、という言い方もできる。
(3) 第二の理由は、一回で撮った写真の中からよい写真を選んで、基本の版を一つだけ作る。「原版」はどの印刷物も同じにすることで、デザインや版の作成費用が大きく節約できるからだ。
写真を使ったカラーの印刷物は、「印刷費用」より、「撮影から『版』の作成の費用」のほうがはるかに高額だから、この原則はアクシデントがない限り守られることになる。
良い写真から作った良い版は、多用するものだ。そのためにこそ、費用がかかってもじっくり作る。
福井から東京まででかけて写真を撮っても割に合うと候補者が考える理由の一つはここにある(政党幹部や有名人との並んだ写真のためということも珍しくないが)。スタイリストをつける人がいるのも、しかり。
(4) さらに、他の印刷物、つまりチラシやニュース、選挙公報のある場合の候補者の「顔写真」なども、この「版」の流用を基本とする。
無論、最初の撮影のスナップから、別の写真を選ぶこともあるが、そういう場合は、特別な意図であるとか、手間かけたデザインや製版を必要としない白黒印刷や簡易な印刷であるなどの事情やそれなりの理由がある。
3、 選挙公営のポスター代請求においてはポスター代に限定されているか
公費請求においてお金のキックバックは論外である。他に、ハガキや名刺、リーフレット、室内用ポスターなど規定外分などの水増しの例が明らかになっている。
では、前記、撮影代やデザイン、製版費など、選挙公営で定義されるいわゆる企画費はどうであろう。
企画費は、本来なら「ポスター代分」として按分して算出し、公費を請求すべきことは明白である。
多くの候補がポスター代の請求に全部を含めていないだろうか。
選挙ポスターの顔写真の版を、他の印刷物に使うことが多い中、そのポスター用の版の作成費用を印刷物の総経費の中で按分して請求した人はどれだけいるのだろうか。
4、 選挙費用の算出・収支報告では按分計算することとされている
(1) 実際の選挙では、選挙後に「選挙費用の収支報告」をしなければならない。
この際、例えば、選挙事務所を借地、借家・プレハブ建とした場合、その利用目的が「選挙本番」だけならその実額を報告することになる。
他方で、十分な時間をもって設置した場合、事前の後援会活動・政治活動の拠点として使われる。こういう事前利用と本番利用との合算の経費がある場合は、日割り計算するなどして「事前利用とする額」と「選挙本番利用とする額」を振り分け、後者だけを「選挙費用」として選挙の収支報告とすることが規定されている。
(2) この公職選挙法の原則を印刷費(含む企画費)に適用すれば、各候補が費消した経費を、ポスター、ハガキ、リーフレット、名刺、室内ポスター、事前ポスター・・などに按分すべきことは当然である。
候補者個人の懐の按分の問題であるなら各自の判断でかまわないとしても、選挙公営におけるポスター代の請求として税金からの補填を求める以上、きっちりすべきことは当然である。
5、 真実のポスター代作成費が請求されていないのではないか
以上のことから、私は多くの場合、企画費など按分計算されずに過剰な請求がなされているのではないかと思う。
「高いポスターにはそれなりの理由がある」と反論する高額請求の候補者らに、真実のところを訊いてみたいものだ。
ps 今、調査や再評価をしている関係者はこの「当然すべき按分計算」に基づく請求がされているか、検証すべきである。
私たちは、今、岐阜県議会議員選挙のポスター代に就いての住民監査請求を行っている。会計検査院から来た監査委員らはちゃんとやってくれると思うが、仮に、住民訴訟になればこの観点も争点とすることになる。
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● 2007年の愛知県日進市の候補者のポスター代請求状況
昨年から議会での議論や議員提案での条例改正(否決)などの流れを経ての結果としてどう評価するか。
日進市の後藤尚子さんのWebページのトツプページに掲載されました
比較データは、いずれも上記をどうぞ。
ここでは、後藤さんの「考察」を引用。
■日進市議会議員選挙(07年4月22日執行)選挙公営請求額一覧表
●考察
○2期目以上の候補者に高額の請求が多い。
○反対に新人候補者と落選者が低額の請求が多い。
○昨年、12月条例改正案作成の折に数社の印刷会社で調査したのですが、そのとき「13万」と答えた印刷会社へ発注した候補者で上限額の90%以上の請求がありました。
○私は今回は請求額で250万は節約できるかと、以前ホームページに書きました。今回と前回の候補者数が違うので、平均を用いて推計したところ220万円の節約となりました。
日進市07年 日進市03年 土岐市07年 羽島市07年 の 比較表
●考察
○日進市も昨年からの選挙公営に関する運動の一定の成果があったことは、上限いっぱいの請求者が7人から2人に減ったこと。80%以上を請求した人が03年は7割以上いたのに対し、07年は3割弱であったことを見てもわかります。
○しかし、一方、選挙管理委員会が強く公正な請求を求めた土岐市では、上限いっぱいは0人、80%以上の請求者が14%という結果であったことと比べると、今ひとつ「本当に適正な金額」で発注するという努力がなされたかどうかという違いが感じられる。
○羽島市の結果を見ると、「議会の常識は市民の非常識」とよく言われる、「みんなで渡れば怖くない」=「それが普通(常識)」という現実が見えてくる。しかし、この結果を受けて、羽島市ではいち早く市長が「適正な金額を見極め、9月議会に条例改正案を提出する」とコメントしている点は評価できる。
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<後藤尚子さんからの呼びかけ>
明るい選挙を願う市民の会」(*)のみなさんが、下記の日程で「市民の目による選挙ポスターの品定め」を開催されます。興味のある方、是非ご参加ください。
<市民の目による選挙ポスターの品定め>
日時 7月6日(金)午前10時~
場所 日進市役所1階 情報公開コーナー
何をするか?
○30人の候補者のポスターを情報公開請求で閲覧します。
○それぞれの請求金額を見ないで、どれが、いくらのポスターか、品定め。
○本当に請求額や上限額が適性なものかどうか、
実際に安い価格で作成したポスターと高い価格のものを比べ、検討します。
○市民が納得できる「適性価格」を考えます。
*「明るい選挙を願う市民の会」
昨年12月に「選挙公営の透明性を高めるために公営に関する提出書類を改正してほしい」旨の要望書を市民1400余名の署名を付して選管に提出。
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(寺町記) 日進市が、市民の情報公開請求で、候補者のポスターを公開できるということは市が各候補者のポスターを取得しているということだから、たぶん、公費負担の証拠として提出させているのではないだろうか。仮に日進市がそうでないとしても、公費負担の証拠として当該ポスターを提出させることは極めて有効な策だろう。
制度の見直しを進めている自治体は、是非、採用して欲しい。
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印刷用7月4日新聞 第16報 3ページ PDF版 1.19MB
(どの写真もクリックすると拡大。写真右下あたりのクリックでさらに拡大
● 市議選ポスター費、上限の9割超請求46% 中部6県の立候補者 中日新聞 2007年7月4日 朝刊一面
選挙ポスターの製作費を公費で負担する選挙公営制度に絡み、今春の統一地方選で中部六県の四十七市議選に立候補した人のうち、半数近くの46・5%が公費負担上限額の九割以上を請求していたことが、中日新聞の集計で分かった。一方で、二割近くの人が上限の半額未満で済ませており、請求額に大きな開きがあった。
供託金を没収された人らを除き、ポスター製作費を選挙管理委員会に請求できた立候補者は千五百十八人。このうち、公費負担の上限額を請求したのは22・0%にあたる三百三十五人で、九割以上を請求した人を合わせると全体の五割近くに達した。半額から九割までの請求者が35・9%、半額未満は17・4%だった。
上限額を請求した人の割合が最も高かったのは長野県大町市で、二十二人のうち二十人が該当。福井県小浜市と岐阜県羽島市では上限額の九割以上を請求した人が九割を超えた。名古屋市では28・5%、岐阜市では7・8%が上限額を請求した。
一方、上限額の請求が一人もいない市も、愛知県岩倉市や岐阜県土岐市など七カ所あった。同県高山市では半額未満の請求者が七割強を占めた。
ポスター製作費の公費負担をめぐっては、六月に岐阜県山県市議選(二〇〇四年四月)での水増し請求が発覚。また、羽島市が上限額引き下げの準備を進めているほか、愛知県大府、知多両市は「実勢価格に合わない」として選挙前に引き下げた。長野県岡谷市は公営制度を設けていない。
● 「上限下げを」「判断難しい」
ポスター費 選管、対応に戸惑い 中日新聞 2007年7月4日 朝刊社会面
岐阜県山県市で水増し請求が発覚した選挙ポスター製作費。今春の統一地方選の市議選候補者が手にした金額は、公費負担上限ぎりぎりから「請求なし」までと幅が広い。各市の選挙管理委員会からは「引き下げの検討が必要」との意見が出る一方、「妥当な金額がいくらかの判断は難しい」との戸惑いも漏れた。
「これくらいは必要だと言われしまうと言い返せない」。福井県敦賀市では「東京のスタジオまで写真撮影に行った」という候補者もおり、市選管は「請求額にばらつきが出るのは仕方ない」と説明する。
長野県内では、各市選管担当者の間で、請求額のばらつきが大きいことなどから「上限額を引き下げてもいいのでは・・・」との会話が交わされているという。
だが、立候補者の9割以上が上限額を請求した長野県大町市の選管担当者は「負担額は実態を反映した妥当な金額」と主張。ポスターを余分に印刷する候補者が多く、収支報告に自己負担額も報告しているため、常識的な判断としているという。
立候補者が定員より一人多かっただけの滋賀県彦根市選管は「引き下げると財力のない人の自由な立候補を妨げ、立候補者数の低調さに拍車をかけることになりかねない」と懸念の声が上がる。
岐阜県山県市の選挙ポスター制作費の水増し疑惑をめぐっては「制度上の問題であり、国になんとかしてほしい」と訴える選管担当者も。
愛知県内のある職員は「上限の引き下げより、実態と異なる請求が問題」と指摘。現実的には難しいとしながら「複数業者の見積もりを義務づけるなども考えられる」とはなした。
【監視システム必要】 名城大学都市情報学部・昇秀樹教授(地方自治)の話
見方によっては、ポスター費用を上限額まで請求するのは候補者のやる気を見る基準になる。一方で、選管や市民が詳しい内容をチェックできないのは問題。水増し請求があった岐阜県山県市と同様のケースが、他でもあり得る。
幅広く立候補者を集めるには必要な制度だが、税金を使う以上、市民が継続的にチェックできるシステムづくりが必要だ。
● 選挙ポスター製作費をを水増し 意識の低さ浮き彫り 公営制度見直しの動きも 2007.7.4 読売新聞
全国に先駆け、「選挙公営制度」を廃止して注目を集めた山県市が一転して、選挙公営を巡る不祥事に大き揺れている。2004年の市議選で、選挙公営のポスター製作費をを水増し請求したとして、詐欺の疑いで市議らが次々と県警に事情聴取され、意識の低さが浮き彫りになった。「製作単価が実情とかけ離れている」と指摘する声もあり、自治体の中には制度を見直す軌きも出始めた。(中村和男)
■山県市議会の動き
山県市議会定例会の最終日の6月29日。水増し請求した元市議の県議と市議の計5人に対する辞職勧告決議案が提出されたが、賛成したのは提出者の2人だけ。
休憩を挟んで再開された定例会では、辞職勧告を省いた「市民の信頼回復に向けての決議案」が提出され、あっさりと可決した。
「何もしない山県市議会で終わるよりはました」。市民の批判を小手先でかわそうとするような決議に対し、辞職勧告決議案を提出した寺町知正市議はこう皮肉った。
同市では選挙公営を2003年の合併時に導入。水増し疑惑がある04年の市議選では、27人の候補者のうち、6人がポスター一枚あたりの製作費上限(2747円)の90パーセント以上を請求した。
財源不足で市民に痛みを強いる市政運営の中、「無駄金だ」と言う批判から今年3月、選挙公営条例の廃止を決めたが、それと並行するように、県警も捜査に着手した。
・・・・・・・・・(途中略。本文をどうぞ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千葉大学法経学部の新藤宗幸教授(行政学)の話
「選挙企営制度は、ポスター代にしろ、『だいたい、これぐらいの金がかかるだろう』と、基準をあいまいにしたままで、決めていることが多い。しかし、税金を使う以上は、透明性を高める必要がある。地域ごとに物価水準も違ううわけだから、県選管が県全体を調査するなどして『基準値』をしっかり出し、スタイリスト代金は含めるかどうかなど、細部に渡って規定するようにしないといけない。基準値を超えたら自己負担にするというように、厳格に運用すれば、水増し請求などの不正も防ぐことができる。『誰でも立候補しやすいように』という趣旨で設けた制度であり、高級なポスターを製作するためのものではないことを、立候補者に浸透させるべきだ」
【栃木市は業者との契約白紙に】
栃木県栃木市議会では2000年4月、市議選のポスター製作費水増し疑惑を巡り、市議が印刷業者と交わしたポスター印刷の契約を白紙に戻すことを決めた。1人を除く27人の市議が、ポスター公費負担分を全額返還した。さらに、ポスター製作のうち、デザインなどの企画費の根拠が「あいまいだ」として2001年3月に条例改正し、「当分の間」は企画費を「ゼロ円」とするよう改めた。
また、京都府宇治市議選の水増し請求問題では、大阪高裁が02年10月、一審判決を支持し、製作費の上限や、それに近い候補者10人の請求額は過払い金だったと認定。「市が返還請求権を行使しないのは違法」との判決が下り、10人が計約130万円を返還した。
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