萩原健太「常に20年の時を経てリマスター盤発売ですか(笑)」
大滝詠一「『トライアングル』も答えが半分以上出てるんだけどね。これは面白い。しかも、まだ来年までに何か新しい技術なり何なりが出てくる可能性もあって。いつも言ってる通り、俺が今回の結論だって言うと、みんなそれがファイナル・アンサーのように思うんだよ。違うんだよね。私の場合はいつも仮説なんだよ。そこをみんな取り違えるんだよ。昨日あれだって言ったじゃないですかって必ず言うんだよ。でも、違うの。常に仮説なのよ。明日また、いや1時間後まったく違うことを言うかもしれない。やっぱりデジタルに未来はないとか(笑)。だからその時々の自分ね」
レコード・コレクターズ2001年4月号Vol.20 No.4
『A LONG VACATION 20th Anniversary Edition』同様、中域とボーカルがオンになり歌がまえに出てパフフルになっている。
大滝詠一のコメント
「歌がでているんですよ、グッーと。で、あの頃(1982年の発売当時)は、僕ら新しい音楽だと自分たちで思って、対歌謡曲ということで10年やってきた時期だったんですよ。で、歌謡曲はあまりにも歌が大きすぎるということで、我々は敢えて埋めたんですよね。ちょっと埋めすぎたかなー(笑)。ちょっと埋めすぎたかなーという印象が無きにしも非ずだったんですよ。で、それがねー、機械がうまい具合に中域がでたもんですから、あっ、これはいいなと思ってね、聴いたら気持ちよかったですねー。やっぱり人間の声、真ん中に持ってくるのはやっぱりいいんですね。歌謡曲はいいね」
ニッポン放送スーパーステーション枠特番「2002年ナイアガラの旅」3月16日放送より
『A LONG VACATION』は発売当時(81年)、車の中や浜辺などのアウトドアで聴くリゾート・ミュージックといったイメージがあった。プールサイドを描いたアルバム・カバー(永井博のイラスト)の印象が鮮烈で、ファッションのなかに取り込まれていったのだろう。実際にこの『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』の「夢みる渚」に、"渚のカセットはくり返すいつも LONG VACATION"という歌詞が登場しているのをみても、そうしたユース・カルチャーの一翼を担っていたのが窺がえる。
『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』にしても同じようにリゾート・ミュージック的な側面がある。「夢みる渚」もそうだけど、いきなりサビで"セニョリータ"なんて主人公がラテン系になる「週末の恋人たち」からの流れ(「オリーブの午后」~「白い港」)がそうだ。逆にいうとそこの部分だけ色濃く夏の風景画としてアルバムに飾られているようだ。
ただ「ハートじかけのオレンジ」の最後のSEが、『Pet Sounds』(ビーチボーイズ)を髣髴とさせる奇妙な歪みを露呈している。アルバム・トップの「A面で恋をして」へとエンドレスで続いてゆくかのように見えて、しかし何故だかシュールに閉じている。
『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』をめぐる時系列またはその胎動期
1980年2月、大滝詠一は須藤薫に「あなただけI LOVE YOU」を提供する。杉真理も須藤薫との関わりがあり、佐野元春も1980年か1981年に須藤薫と一緒に曲を作っていたという(結局レコード化はされなかったらしいが)。
ニューミュージックの錚々たるメンバーが参加した最初のケースが吉田美奈子だった。荒井由実や竹内まりやも似たようなケースだったが、須藤薫にもそうしたバックアップ体制があったという。この後、それぞれ作家として松田聖子に曲を提供するわけだが、もし須藤薫がその時点でブレイクしていたのなら、ポップスの歴史は変わっていたのかもしれない。
3月21日、佐野元春が「アンジェリーナ」でデビュー。
4月には松田聖子がデビュー。大滝詠一は『A LONG VACATION』のレコーディングを開始する。
4月21日、佐野元春がデビュー・アルバム『BACK TO THE STREET』をリリース。
5月1日、山下達郎がアルバム『RIDE ON TIME』をリリース。チャートの1位を獲得。
6月21日、杉真理が「HOLD ON」をリリース。
7月21日、杉真理がアルバム『SONGWRITER』をリリース。
7月28日、大滝詠一32歳の誕生日。当初の予定ではこの日に『A LONG VACATION』が発売される予定であった。完成には至らなかったが、この頃までに6割か7割できていたという。10月16日には「カナリア諸島にて」と「Velvet Motel」が完パケとなっている。
9月26日、原宿レスター会館3階で開催された大滝詠一の講習会に、佐野元春と伊藤銀次が現れる。そして10月のはじめ頃に、佐野元春と伊藤銀次が大滝詠一のレコーディング・セッションを見学。この日のセッションでは「白い港」を録音していたが、結局この日のバージョンはオクラになったそうだ。佐野元春の「Someday」のアイデアは、大滝詠一のレコーディング・セッションを目撃した時に生まれたという。
佐野元春のコメント
「とにかくレコーディングを始めてまだ間もないからね、右も左もわかんないし、バンドで録ってりゃ楽しいからそりゃいいんだけど、でも大滝さんのアコースティック・ギターが4台、アコースティック・ピアノが2台、そこにパーカッショニストがいて、もうそこで奏でられてる、生音だけでオーケストレイテッドなわけなんだよね。それでもう舞い上がっちゃってね、レコーディングはこうすりゃいいんだって思って(笑)」
「スピーチバルーン」2002年3月23日(土)放送より
12月には林義雄の「ユア・ヒットしないパレード」で佐野元春の「アンジェリーナ」が大賞、大滝詠一の「さらばシベリア鉄道」がホープ賞を獲得。その授賞式で大滝詠一は佐野元春のライヴ・パフォーマンスを観る。
1981年2月、佐野元春がアルバム『Heart Beat』をリリース。当時、佐野元春は沢田研二に「彼女はデリケート」を提供している。大滝詠一は自身が沢田研二に提供した「あの娘に御用心」(75年)との符号を「彼女はデリケート」に見つける。佐野元春と『トライアングル2』で共演するのなら、どうしても「彼女はデリケート」をやってもらわなければいけないと思っていたらしい。大滝詠一は運命論者的に、佐野元春の「彼女はデリケート」が『トライアングル2』のスタートと決めたそうだ。
■
NIAGARA TRIANGLE Vol.2 20th Anniversary Edition
チャート最高位45位
A面で恋をして
彼女はデリケート
Bye Bye C-Boy
マンハッタンブリッヂにたたずんで
Nobody
ガールフレンド
夢みる渚
Love Her
週末の恋人たち
オリーブの午后
白い港
Water Color
ハートじかけのオレンジ
Bounus Tracks
彼女はデリケート(Single Version)
こんな素敵な日には
ラストナイト
ROCK'N ROLL退屈男
ハートじかけのオレンジ
A面で恋をして(CM Version)