Life in America ~JAPAN編

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「時道中江戸芝居(タイムトラベルえどしばい)」

2013-01-05 11:59:57 | アメリカ生活雑感

昨年末亡くなった十八代目中村勘三郎を偲んだ特別番組「時道中江戸芝居(タイムトラベルえどしばい)」
を、故人を偲びつつひとり飲みながら見た。

江戸の庶民にとって最大の娯楽だった歌舞伎。
四国香川のこんぴら歌舞伎は、その江戸時代、天保6年(1835年)に建てられた、現存する日本最古の芝居小屋だ。
このこんぴら歌舞伎を復活させ初回公演を実現させたのが、勘三郎(当時の勘九郎)だった。
番組では、2009年の座頭を務めた勘三郎を密着取材しながら、彼のこんぴら歌舞伎に対する思いや、父(十七代目勘三郎)との思い出、そして二人の息子たちに寄せる期待や愛情などを映し出していた。




私がこのこんぴら歌舞伎を始めてみたのは、かれこれ20年くらい前になる。
こんぴらさんはお隣の県。桜の咲くころ、帰省を兼ねて歌舞伎好きの母と一緒に見に行った。
これぞ「芝居小屋」という佇まいの小さな木造の小屋。館内は柔らかな自然光。客席照明はろうそくの灯。
役者の息づかいや化粧の匂いまでが間近に感じられる、ライブ感覚にどきどきした。

そもそもこの金毘羅歌舞伎が復活したのは、歌舞伎俳優、中村吉右衛門・澤村藤十郎・中村勘九郎が出演するテレビ番組「すばらしき仲間」ロケが発端だった。
ロケは昭和59年7月5日、6日の2日間行われたが、3人の役者はこの「旧金毘羅大芝居」にすっかり魅了されてしまった。
「これこそ歌舞伎の原点」「是非この舞台を踏みたい」「何よりも客と一体感を感じる、舞台と客席の距離がすばらしい」と、35年ぶりに「こんぴら歌舞伎」を復活させようとの思いを強くする。
旧金毘羅大芝居での歌舞伎公演実現に向かって官民一体となって全力を注いだ結果、ついに翌年の昭和60年6月に記念すべき「第1回四国こんぴら歌舞伎大芝居」が復活した。

第一回(1985年)公演
演目:『再桜遇清水』、『俄獅子』
出演者:二代目中村吉右衛門、九代目澤村宗十郎、二代目澤村藤十郎など。

以降、28年間にわたって「こんぴら歌舞伎」は脈々と続いている。

◆ ◆

番組の中で紹介されたのは、勘三郎(当時・勘九郎)座長の2009年の第25回公演。
演目は、『俊寛』、『新口村』、『身替座禅』、『沼津』、『闇梅百物語』。
勘三郎が、二人の息子、勘太郎、七之助と金丸座で共演を果たした記念すべき公演だった。
特に、『俊寛』は勘三郎にとって特に思い入れが強かったという。

勘三郎はこう語る。
「父(十七代目中村勘三郎)は初め“金毘羅歌舞伎”に出たくなかったんですよ。あんな田舎まで行くのはいやだ。それに狭いし、って言ってね。でもそこをなんとかなだめすかして第3回(1987年)の公演に出てもらった。そしたら舞台の挨拶で感動して泣いちゃってね。またきっと出たい、戻ってきますからって。」

しかしその先代勘三郎もその翌年4月にこの世を去り、来年もう一度こんぴら歌舞伎の舞台に立つという願いはかなわなかった。
その父の生前最後の演目が『俊寛』だった。(1988年(昭和63年)1月歌舞伎座)
十七代目の当たり役としても知られている。

『俊寛』あらすじ:
平家全盛の平安末期。法勝寺の僧都、俊寛は平家打倒の陰謀を企てた罪科により、同志の藤原成経(ふじわらのなりつね)、平康頼(たいらのやすより)とともに、薩摩潟(鹿児島県南方海上)の鬼界島に流される。つらい流人生活のなかでも二人の同志を頼りに穏やかな日々を送っていた俊寛。
ある日、都から恩赦を伝える使者が船でやってくる。しかしその赦免状には俊寛の名前だけがなかった。
絶望に打ちのめされる俊寛。一人島に取り残され、船を見送りながら俊寛は最後の力を振り絞ってこう叫ぶのだった。
「未来で・・・」


未来で、とは「あの世で会おう」という意味だ。
当時、重い病をおして舞台に出演していた先代勘三郎が、振り絞るようにして発した「未来で・・」。
これを離れ行く船の上から聞いたのが、息子である勘九郎(当時)だった。
これが共に立つ最後の舞台と覚悟を決めていた息子に「あの世で会おう」と心の中で絶叫する父。
勘三郎は当時をこう振り返る。
「死は誰にもやってくる。いつか自分もこれを息子たちに言う日が来るんでしょうから」


その日はあまりにも早く訪れた。
父の当たり役、俊寛を演じるにあたって、勘三郎は楽屋に俊寛のいでたちの父の写真を掲げて毎日舞台に向かっていた。

今頃、勘三郎は天国で先代にしかられているかもしれない。
「お前の『未来で』は、まだ若すぎる」と。



2009年、金毘羅歌舞伎の「お練り」。
中村屋!








Comments (2)
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