Life in America ~JAPAN編

I love Jazz, fine cuisine, good wine

『The Reader』

2009-05-12 04:39:40 | movie
見たい映画(DVD)が続々近所の図書館に入荷してきて、最近忙しい。
しかもわざわざ図書館に行かなくても、見たい映画があるかどうかをまず図書館のHPで検索し、
貸し出し中の場合オンラインで予約を入れておくことができるので、時間も短縮できる。
さらに便利なのは、貸し出しの順番が回ってくると自動音声で電話をくれるしくみ。
これならピックアップに行って手ぶらで帰ってくる、なんてこともなし。
実に合理的。

というわけで、最近はもっぱら“本年度のアカデミー受賞関連作品”に絞ってもうかたっぱしから見ている。
というか、10作品以上予約を入れているので図書館から毎週のように電話がかかってくる。

先週末、長い長い順番待ちの末ようやくまわってきたのが『The Reader』(邦題:“愛をよむひと”)と『MILK』のふたつ。
ご存知、今年のアカデミー賞の主演男優賞(ショーン・ペン)、女優賞(ケイト・ウィンスレッド)受賞作品、そして共に最優秀作品賞ノミネート作品だけあって、
どちらも見ごたえのあるいい作品だった。
しかしなんというか、違う意味でどちらも胸がしめつけられる映画だった。

★ ★ ★ 『Th Reader』

舞台は1956年のドイツ。
15歳のマイケルは、気分が悪くなったところを21歳年上の女性ハンナに助けられる。クールでいてどこか魅力的な彼女に惹かれた彼は、以来足しげく彼女の元へ通い、ふたりは禁断の関係を持つようになる。
関係を持つたびハンナはマイケルに本を読むことを要求し、マイケルもそれにこたえて毎回いろいろな文学書を選んでは彼女に読んで聞かせることに喜びを感じるようになっていた。
ますま彼女にのめりこんでいくマイケル・・。
しかし、ある日ハンナはマイケルの前から忽然と姿を消してしまう。

8年後、法律専攻の大学生になったマイケルは、授業で見学に出かけたナチスドイツの戦時裁判で、被告人のひとりとなっていたハンナを見て息をのむ。
裁判でハンナの過去が明るみになるにつれて、マイケルはふたりの人生を大きく変えることになるある重大な“秘密”に気づくのだった。
そして、ハンナは終身刑を言い渡される。・・・


(C)Melinda Sue Gordon/TWC 2008


「この映画のテーマは何か?」と聞かれたら、とても一言では答えられない。
「愛」「正義」「罪悪感」「恥」「世代」・・・いろいろなテーマが実に複雑にからみあって襲いかかってくる。
しかしだからといって、複雑怪奇な映画でもない。
何年たっても変わることのないマイケルのハンナへの“愛”だけは、いつも語り手(“朗読者”)であるマイケルとともにあるからだ。
そういう意味では、この映画は究極の“愛”を描いていると思う。

ストーリの鍵となるのが、マイケルのみが知りうるハンナの“秘密”。
それによって彼は彼女を救うことができただろう。しかし、彼はそれを誰にも告げることなく胸にしまいこむ。
罪を背負ってでも「何か」を守り通そうとした彼女のため。
裁く側の人間になった自分のため。
戦後ドイツの「正義」のため。
その“秘密”を、墓場まで持っていこうと誓ったその日から、マイケル自身もまた生きながら死を選ぶことになる。
彼女との出会い、わずかひと夏の恋は、マイケルに一生逃れられないものを残すことになるのだった。

また、映画の重要なシーンとなるのが、戦犯の裁判だ。
戦後何十年たっても、まるで昨日のことのように戦犯が裁かれるということに対し、日本人としてまず驚く。
しかし、収容所で働いていた8000人のうち、有罪判決を受けたのはわずか19人。(記憶が確かなら映画の中ではこう言っていた)それだけ、“時間を遡って”人を裁くということは難しい。
さらに、裁きは「現在の法律」ではなく「当時の法律」によって裁かれるべき、という論理も当然ある。
また、マイケルのクラスメートの学生も言っていたが、「戦争中はヨーロッパだけで何千という収容所が存在していた。なぜ彼ら(アウシュビッツ関係者)だけが裁かれるのか?殺されたのがユダヤ人だからか?加害者がナチスドイツだからか?」
ハンナが裁かれるきっかけになったのも、あるユダヤ人の生き残り少女が書いた一冊の本だった、つまり偶然起こり得たこと。
裁かれる者がいる裏で、裁かれずに平穏に一生を終える人間もいる。その不可解さ。

本当の「正義」とは何か、が頭のなかでぐるぐると回りはじめる。
そしてもちろん、結論は出ない。

獄中で20年を過ごしたハンナが、再会したマイケルに言う。
"It doesn't matter what I feel or what I think. Dead is still dead."
(私がどう感じるか、考えるかなんてどうでもいいの。死んだ人は戻ってこない)

ハンナがはっきりと過去の罪に向き合い、償いの気持ちを口にしたとき、
それは無常にも彼女自身の死を意味することになった。



*日本公開は6月19日から。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする