shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Electric Warrior / T.Rex

2008-12-30 | Rock & Pops (70's)
 ロック/ポップスの世界は不思議なもので、時代の主流となっていた一つのスタイルが煮詰まると、周期的に一種の揺れ戻し作用のようなものが起こる。60's前半はオールディーズ・ポップス百花繚乱の平和な時代だったものが、60's後半になるとベトナム戦争やらヒッピー・ムーヴメントやらの社会情勢の変化に連動するかの様に、音楽の世界でもニュー・ロックと呼ばれる観念的で難解なロックが台頭してきて主流になってしまった。高尚になったのはいいが、その一方で初期のロックンロール/ポップスが持っていたダイレクトな衝動性が失われていったのだ。
 70年代に入ってグラム・ロックはそういった動きに対する反作用として現れた。パンク・ロックのケースも似たようなものだが、揺れ戻しとしてのムーヴメントはより直接的で性急な形で現れる。グラマラスな化粧、ロングヘアーにチリチリ・ウェーヴ、ラメがキラキラと輝くド派手な衣装、中性的なヴォーカルと、グラム・ロック・アーティスト達のスタイルはショッキングなものだった。音楽性だけでなく、そのファッションやパフォーマンスといったヴィジュアルな要素の中に潜む虚構性こそがグラム・ロックそのものだった。そんなグラム・ロックの中心的存在がT.レックスのヴォーカリストであるマーク・ボランで、71年のイギリスはT.レックスが席巻したといってもいいくらいグラム一色に塗りつぶされ、ファンの熱狂ぶりは「Tレクスタシー」という造語を生むほど凄まじいものだったという。
 彼らは元々ティラノザウルス・レックスという名前でアコースティック色の強いサウンドを売り物にしていたのだが、グループ名をT.レックスと改め、そのサウンドの本質を変えることなくエレクトリック・サウンドで武装し、パワーアップしたのがこの「エレクトリック・ウォリアー」なのだ。マーク・ボランの妖しげなヴォーカルはもちろんのこと、摩訶不思議なバック・コーラスやトニー・ヴィスコンティのインチキくさいストリングス・アレンジなど、テクニック至上主義に対するアンチテーゼとしてのセンス至上主義みたいなチープな感じが実に楽しい。
 彼らの代表曲といえる⑥「ゲット・イット・オン」はウキウキするようなテンポの良いブギーで、70'sを代表するキラー・チューン。細かいリフを刻むマークのギターが耳に焼き付いて離れない。CMソングとしてTVでも頻繁に流れているのでT.レックスの名前を聞いたことがない人でもこの曲はどこかで耳にしたことがあるかもしれない。
 それ以外にも、囁きかけるようなねちっこいマークのヴォーカルに魅きつけられる①「マンボ・サン」、シンプルなリズムの繰り返しが生み出す不思議な高揚感がたまらない③「ジープスター」、「ゲット・イット・オン」の二番煎じみたいな⑨「ザ・モティヴェイター」と、快楽中枢を刺激するようなブギーのリズムに溢れる曲が並ぶ。ジャケットもカッコエエし、疲れた時なんかに聴くと元気が出てくるようなアルバムだ。

T.Rex & Marc Bolan - Get It On (1971) HQ

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