shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Hackney Diamonds / Rolling Stones

2023-10-28 | Rolling Stones / The Who
 ストーンズの新作「Hackney Diamonds」を買った。私が初めてリアルタイムの新作として聴いた彼らのアルバムは例の傑作ライヴ盤「Love You Live」で、その後も「Some Girls」から「Steel Wheels」まで(全く好きになれない「Undercover」を除いて)新作が出るたびに買って楽しんできたのだが、ベースのビル・ワイマンが脱退して以降の「Voodoo Lounge」と「Bridges To Babylon」はどこが良いのかさっぱりわからず、“やっぱりビル・ワイマンがおらんとアカンなぁ...” とレコードどころかCDすら買わずにスルーしてきた。更に追い打ちをかけるように2021年にチャーリー・ワッツが亡くなってしまい、“これでストーンズも終わりかな...” と思っていた。そんなところへ今回の新作発表である。
 そういうわけで、初めてこのニュースを知った時は “へぇ~、ストーンズが新作出すんか... 一体何年ぶりになるんやろ???” と少し冷めた目で見ていたというのが正直なところだったが、ゴミ溜めのような今の洋楽シーンの中で彼らが一体どんな作品を生み出すのだろうという一片の好奇心から、とりあえず 1stシングルの「Angry」をYouTubeで観てみることにした。YouTubeはしつこく出て来る広告が超ウザいという致命的欠陥があるが、少なくとも手軽に音楽を聴けるという点においては利用価値大だ。
The Rolling Stones' new album, "Hackney Diamonds"


 その「Angry」だが、イントロで炸裂するキースのギター・リフを聴いて私は思わず “おぉ、コレめっちゃエエやん!” と全身に電気が走るような衝撃を受けた。これこそ我々みんながよ~く知ってる、まごうことなきストーンズのサウンドである。今や絶滅危惧種とでも言うべきロックンロールそのものである。今のこの時代、リフ一発で周りの空気を自分たちの色に染め上げて聴き手をその世界に引き込んでしまうバンドなんて世界広しといえども AC/DC とストーンズぐらいだろう。ミックのヴォーカルもエネルギーが漲っていて好調そのもの。いやぁ... 今回のストーンズは凄い、いや、凄すぎる。かつて私を夢中にさせた “グルーヴィーなストーンズ” が帰ってきたのだ。
 ビデオクリップのコンセプトも実に面白いもので、いかにもアホそうなネーチャンがオープンカーの後部シートで曲に合わせてクネクネ踊りながらロスの街中をクルージングしていくという、いかにもストーンズらしいというか、その猥雑なイメージを具現化した映像で、道路わきの巨大看板に次々と映し出されるのが過去のストーンズの様々な演奏シーンという仕掛けなのだ。「女たち」の、USツアーの、そして “水兵さんPV” の(←チャーリー・ワッツが泡まみれになるヤツwww)懐かしい映像が次から次へと出てきて、私はもうテンション爆上がりだ。今にして思えば80'sってこういう “観てるだけで楽しい” プロモ・ビデオが多かった気がする。
The Rolling Stones - Angry (Official Music Video)


 「Angry」のビデオクリップがすっかり気に入った私はすぐに YouTubeで他の曲も試聴し、それらがこちらの予想の遥か上を行く素晴らしい出来だったこともあって、アマゾンでLPを即オーダー。CDではなく値段が倍もするLPを買うというのはそれだけ内容が気に入っている証拠である。
 届いたレコードは “Made In Czech Republic” というシールが貼ってあるEU盤で、音質もすこぶる良い。シールドされた新品LPを買うのはホンマに久しぶりなので、針飛びを恐れずに最初から大音量で聴けるのが嬉しい。今回このレコードを買うきっかけとなったA①「Angry」はアナログLPサウンドで聴くとその魅力が2倍3倍と引き立つコテコテのストーンズ・サウンドで、この曲と同様に印象的なギター・リフから始まる80’sストーンズの代表曲「Start Me Up」と比べてみても楽曲のレベル/クオリティーにおいて遥かに凌駕していると思うし、それより何よりあの曲から40年(!)も経っているというのに未だにこれほどのエネルギーを放っているというのは驚異的だ。
 このアルバム最大の話題はチャーリー・ワッツが生前最後にレコーディングした2曲に元メンバーのビル・ワイマンが参加していることだろう。「Live By The Sword」と「Mess It Up」がその2曲だが、ストーンズ鉄壁のリズム・セクションの復活が楽曲に唯一無二のグルーヴを与えており、聴いててめちゃくちゃ気持ちが良い。顎が落ちそうなその “ノリ” はまさに “これぞストーンズ!!!” と叫びたくなるような素晴らしさで、ストーンズ・ファン、いや、ロックンロール・ファンなら絶対に気に入ると思う。特に「Live By The Sword」は「Angry」に次ぐお気に入りのトラックだ。
THE ROLLING STONES - Live by the sword - HACKNEY DIAMONDS (2023)


 ポール・マッカートニーが「Bite My Head Off」という曲にベースで参加しているのもビートルズ・ファンとしては重要なポイント。ネットの記事によると最初はバラッド曲で弾いてもらおうかという話だったところをプロデューサーのアンドリュー・ワットの “アルバム中で最もアグレッシブなロックトラックでポールに演奏してもらえたらどんなにクールだろう” という考えから「Bite My Head Off」に決まったというが、これを慧眼と言わずして何と言おう? それもヴォーカル/コーラスではなく、バンドの一員としてピック弾きでブンブン唸るベースを披露しているのが何とも嬉しいではないか。“ポールはまるで長年一緒にやってきた仲間のようにバンドに馴染んで本当に楽しそうだった。とてもしっくり来たよ。” とミックも大満足だったという。実際、ビートルズ・ファンの贔屓目を抜きにしても非常に出来の良いトラックに仕上がっていると思う。
The Rolling Stones — Bite My Head Off Feat. Paul McCartney (Lyric video)


 このアルバムにはポールの他にもスティーヴィー・ワンダーやエルトン・ジョン、レディー・ガガといったゲスト達が参加しているが、私に言わせれば主役はあくまでもストーンズであり、豪華なゲスト陣はそれに華を添えているに過ぎない。とにかくこれだけのクオリティーを持った楽曲を揃え、それらを熟練の技で唯一無二のストーンズ・サウンドに仕上げ、1枚のアルバムとしてまとめたところはさすがとしか言いようがない。
 プロデューサーのアンドリュー・ワットはキースに憧れてギターを始めたという生粋のストーンズ・フリークで、この新作のプロデュースを依頼された時は天にも昇る気持ちだったというが、ちょうどビートルズのアンソロジー・プロジェクトを任された時のジェフ・リンみたいなモンだろう。そんな彼の言葉を借りれば “ロイヤル・ストレート・フラッシュになる組み合わせを選び出した” のだそうだが、楽曲の配置が “ファン目線” というか、実に見事と言う他ない。「Let It Bleed」を思い起こさせるカントリー・ホンク「Dreamy Skies」や自らのルーツに向き合ったコテコテのブルース「Rolling Stone Blues」など、どこを切っても100%ピュア―なストーンズ節が心ゆくまで堪能できて、私としては大満足のアルバムなのだ。
The Rolling Stones - Dreamy Skies


 LPが全12曲収録なのに対し、日本盤のみのボーナス・トラック(←日本盤の割高感から目を逸らさせようという姑息なやり方が好かん...)として3年前にデジタル・ダウンロード方式のストリーミング・シングルとしてリリースされた「Living In A Ghost Town」が日本盤CDに収録されているのだが、私はこの曲が大好き。「Gimme Shelter」に「Harlem Shuffle」を振りかけてよくかきまぜ、レンジでチンしてレゲエ・フレイバーに仕上げました... みたいな曲想がコロナのロックダウンを歌った歌詞を引き立てていて実にエエ感じなのだ。このヒンヤリした涼感は一度ハマるとクセになる。一般的知名度は低いかもしれないが、これはストーンズにしか作れないような名曲名演だと思う。尚、デジタル・ダウンロード嫌いの私は遅れてリリースされたアナログ・シングルを入手して楽しんでいる。
The Rolling Stones - Living In A Ghost Town


ストーンズは終わった... と思っていたところへ “まだまだワシらは転がり続けるで!” と言わんばかりに凄いアルバムを作り上げたミック、キース、ロンの3人。私にとっては80年代以降の彼らのアルバムでは断トツで№1の出来だし、60年代後半から70年代の名作群と比べても遜色ない素晴らしいアルバムだと思う。2023年度の私的 “レコード・オブ・ザ・イヤー” はストーンズで決まり!だ。