蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ハクソーリッジ

2018年02月14日 | 映画の感想
ハクソーリッジ

太平洋戦争中、沖縄の浦添の高地をめぐって日米両軍が繰り広げた激戦と、その中で米軍の衛生兵(主人公のドス)が数多くの負傷兵を崖の上から後送して助命した姿を描く。

ドスは米軍に志願したものの、信仰に従って銃を持つことは拒否し、すでに訓練中に米軍内で問題児となるが、軍法会議を経て衛生兵として従軍を認められる。
この映画が事実にもとづいたものであることは冒頭で紹介されるが、それがなければ、すでにこの部分で「フィクションとしてもありえんだろ」と言ってしまいそう。
「良心的兵役拒否」という思想を持っている人が従軍を志願しすることにそもそも矛盾があり、そうかといって訓練中すら銃にさわることを拒否し、上司と同僚の執拗ないじめにあっても頑固に除隊しないのだから、当時の米軍も扱いにほとほと困ったことだろう。

さらに、事実だとは信じられないことは、部隊の損耗率が50%以上に達するような稀にみるような激戦地でドスはほとんど無傷であったことと、米軍が後退した後も高地に残って日本軍がうろつく中を数多くの傷病兵を崖のふちまで運んでロープに縛って崖の下まで降ろした、という点。
ドスは70人以上の傷病兵を助けたとして勲章を授与されたとのことだし、映画の最後には生前のドスさんが思い出を語る姿を映したフィルムも挿入されていて、いずれも事実であることは間違いなさそうだが、まさに戦場の奇蹟とよぶべき事績だなあ。
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フランクを始末するには

2018年02月14日 | 本の感想
フランクを始末するには(アントニー・マン 創元推理文庫)

ミステリというより、冷笑風というのかサキ風というのか、ひねりを効かせたオチの短編集。
わずか20数ページなのに展開が二転三転する表題作も面白いが、ユーモア短編なのかと思ったら真っ暗闇のブラックに一転する「豚」が一番よかった。
チェスの必勝法を題材にした「エディプス・コンプレックスの変種」と「プレストンの戦法」はいずれもよかったが、特に後者で、犯人の気持ちはとてもよく理解できる気がした。

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つぶさにミルフィーユ

2018年02月10日 | 本の感想
つぶさにミルフィーユ(森博嗣 講談社文庫)

エッセイを読むとき、多くの人は、著者が事実(あるいは体験)に基づいて書いていると思っているのではないだろうか。
一般の人が事実と異なる内容あるいは自身が体験したことがないことを、いかにも自分がやったように書いて発表したとしたら、非難されそうだ。
しかし、作家のエッセイの場合はどうだろうか。
全てつくりごとだとして、それが明らかになったとしても
「いや、エッセイのフリしてますけど、これは作品(小説)なんですよ」
と言われたらおしまいだろう。
新聞や雑誌の連載あるいは単行本に「このエッセイは事実(体験)に基づいています」とか、あるいはその反対のことわりがきが付いていることは、まず、なさそうだ。

森さんのエッセイを数多く(というか出版されているものはほとんど)読んできて、あまりにも世間的な常識からかけ離れている考え方や生き方が書いてあると
「どうもこの部分はつくりごとじゃあなかろうか?」
と思うことが時々ある。
「さあ、どこが事実でどこがそうじゃないでしょうか?よく読めばわかりますよ」
なんて仕掛けだったらとても楽しそうだが。

例えば、著者はしばしば転居していて、現在は寒冷地の田舎に住んでいるようなのだが、これがまるっきりウソで、実は昔ながらに名古屋の近くに住んでいたりしたら「だまされた~」なんて感じでけっこう面白い。(怒っちゃう人もいそうだが)

著者は一日一食しかとらない、というのは昔のエッセイにはよく出てきたが、本書によると今は(あるいは昔からずっと?)そうではないらしい。
庭園鉄道はおびただしい動画が公開されているので、ホントにありそう。
トーマとかシェルティも実は飼ったことがない(もしくは犬種が違う)とか?
頻出する奥様のキャラ(イラストレータ、ラノベが大好き、料理上手)もまるっきり作りごとだったりして。

さて、本書でも最も印象に残ったのは、脳梗塞?の疑いで何十年ぶりかで病院に行った経緯を書いたものだった。その後、毎日4回欠かさず血圧を測定して持っていったら医者がびっくりしたなんてエピソードがいかにも著者らしい。
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マンチェスター・バイ・ザ・シー

2018年02月10日 | 映画の感想
マンチェスター・バイ・ザ・シー

主人公のリーはボストンでアパートの管理人(というより配管等の修理をする便利屋)をしていたが、人付き合いは苦手ですぐに殴り合いになってしまったりする。
リーの兄が病気で死亡し、故郷(マンチェスター・バイ・ザ・シーというのは故郷の地名)に戻ると、兄は残された子(ジョー)の後見人としてりーを指名していた。
リーには、マンチェスターで暮らすことが難しい理由があり、ジョーを連れてボストンに戻ろうとするが、ジョーはそれを拒否する・・・という話。

カットバックが繰り返されて、リーが故郷に戻りたくない理由が説明されるのだが、その理由というのが非常に衝撃的で、誰もが「それじゃあ戻りたくないわな」と納得できるような内容で、そこが明かされるシーンがこの映画のクライマックス。

そういう事件が起きる前の、リーが幸せだった頃のシーンがもうちょっと多くてもいいかな?と思えたが、自分の殻に閉じこもってひたすらヒマつぶしだけをするような人生を送っているリーに十分共感できて、ジョーとのかかわりの中で少しずつ殻から出てこようとしている姿に希望を感じることができた。

リーがジョーの女友達の家に無理やり連れて行かれ、友達の母と二人で会話するシーンがあるのだが、リーがあまりに無口で気まずい雰囲気になり母親の方が耐えきれなくなるというシーンがあって、まるで自分の姿(リーに似ているという意味で)を見ているようで笑えた。
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紳士と猟犬

2018年02月03日 | 本の感想
紳士と猟犬(M・J・カーター  ハヤカワ文庫)

19世紀中盤、東インド会社が組織する軍の少尉である主人公エイヴリーは、イギリスの実家で居場所がなくなってインドに来たものの目標を見出せずにギャンブルなどで借金まみれ。インド中部で行方不明になったベストセラー作家の探索を命じられ、「探偵」と呼ばれ長年インドで暮らすベテラン軍人のブレイクと同行して旅にでるが・・・という話。

著者によるあとがきを見ると、登場人物の一部(東インド会社軍の幹部フリーマンなど)は実在の人物のようだし、ストーリーの中核の一つであるインドの盗賊団:サグも史実のようである。
もしかすると、イギリスの人にとっては、フリーマンとかサグというのはとても有名(日本で例えると石原莞爾、伊賀者みたいな???)で、そうした知識がある人が読むと虚実入り混じった歴史ものとして楽しめるのかもしれない。

これは独りよがりな見方だと思うが、日本人の近代の歴史観には大きな断絶ポイントが二つ(明治維新と太平洋戦争での敗戦)あって、そのポイントの前と後では全く別の国、社会、歴史が存在しているかのように認識されているように思える。
先にあげた例でいうと、明治にはいったとたんに忍者は一人もいなくなり、戦争が終われば(戦時中はモンスターのようだった)石原もただの人みたいな・・・どうも、私には、服部半蔵(維新前の人)とか乃木希典(戦前の人)って、日本人ではあっても異なる種類の日本人のように感じられてならない。
しかし、イギリスの人の歴史観には、そういう断絶ポイントはなくて、セポイの乱もアヘン戦争も2つの世界大戦も一つながりのオビのように感じられているのではないか、と想像する。
なので、東インド会社社員たちの活躍(や暗躍)も、現代に生きる自分たちと同じバックグラウンドを持つ人間の物語としてシンパシーを持ちつつ読めるのではなかろうか。

私にはイギリス支配時代のインドに関する知識の持ち合わせはないが、単純にエイヴリーとブレイクの弥次喜多道中もの、あるいは師匠ブレイクに鍛えられる弟子エイブリーの成長物語としても十分に楽しめ、分量(約550ページ)の多さもあって、ラストで二人が別れを告げるシーンはけっこうジーンときた。(もっとも訳者の解説によると、すでに本作の続編は2冊出版されていて二人はこの後もペアで活躍するようだが)

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