蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

村上朝日堂はいかにして鍛えられたか

2017年08月15日 | 本の感想
村上朝日堂はいかにして鍛えられたか(村上春樹 新潮文庫)

小説はイマイチ相性が良くないがエッセイは大好き、という作家が何人かいて、伊集院静さん(最近のはちょっとどうかなと思うが、週刊文春に連載していた二日酔い主義(だったかな?)は(特に連載初期は)よかった)、森博嗣さん(森さんの小説は自伝的な「喜嶋先生の静かな世界」と「相田家のグッドバイ」は抜群にいいのだが、ミステリはどこがおもしろいのか全く理解できない。しかしクールなエッセイは(ほぼ同じネタなのに)出版されるたびに買ってしまう)などが頭に浮かぶ。

村上さんのエッセイはそれほどの数はなく、読み始めたのは割と最近なのだが、(小説はさほど楽しんで読めないのと対照的に)どれも抜群に面白い。笑えるという意味でも、興味深い話題が多いという意味でも面白い。

エッセイだからといって事実に基づいて書かなければならないという縛りはないので、本書も「これは創作なのでは?」と疑いたくなるようなものがいくつかあって、全裸で家事をする主婦の話題なんて読者からのお便りも含めて全部つくりものなのでは?と思えたし、巻末のレストランへの苦情の手紙(これが何というか(クレームなのに)端正で「日本語の手紙の書き方」という本があったら最高レベルの教材になりそうなもの)もあまりに出来すぎているので架空の話なんじゃないかと思えた。

一番笑えたのはヘンテコなラブホテルの名前で、さすがにこれは読者の投書によるものだと思うが、もしももしもこれが創作だったらすごいぞ。

村上さんの写真を見ると「いかにも(大家にふさわしい)気難しそうな人だな」と見えてしまうのだが、エッセイを読むととても気さくでやさしげな人に思える。しかし、本書で紹介されている文学全集の話や映画のエンドロールの話を読むと、やっぱりそれなりに圭角のある人なのかな、とも見えるのだった。


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