蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ごはんのことばかり100話とちょっと

2013年08月06日 | 本の感想
ごはんのことばかり100話とちょっと(よしもと ばなな 朝日文庫)

食事に関するエッセイ。自宅での料理の話と外食の話が半々。いや後者の方がちょっと多いかな。

よしもとさんはベストセラー作家なので、お手伝いさんを雇ってしまうほど忙しいみたいだし、外食もそれなりにお値段が張りそうなお店が多い。そういう人が書く食味エッセイなのだけれど、イヤミな感じや俗物的ないやらしさはあまりなくて、爽やか?に読めてしまうのは、テクニックなのか、もともとそういう人なのか。

よしもとさんの小説、エッセイをそんなにたくさん読んでいるわけではないけれど、読むたびに感心するのは、一見、誰の生活にも当たり前のようにある小さなエピソードをうまく掬いだして、「あーそういうことあるよね。そういう見方・描き方をすると感動につながるんだ」といった感じに提示できることだ。

例えば次のようなところ
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その家には大きな犬がいて、テーブルの上のものを食べてしまったりはしないのだけれど、じっと、じっと見ている。なにかくれそうな人のわきにじっとすわって、手の動きをずっと見つめる。
うちにもこのあいだまで大きな犬がいたので、その圧力が懐かしかった。
赤ん坊がいて大変なときは、その大きな犬がいつでもよだれをだらだらたらしながら膝にあごを載せてきて、ぐいぐい押して食べ物をねふぁるので、「ああ、育児で疲れているのにな、もう少し落ち着いて食べたいな」と思った。いつでも服のひざのところがよだれだらけで、毎回拭くのが大変だよ、と思ったこともあった。
でも、犬が死んで、よそのうちの犬が全く同じ感じで精神的にも距離的にも圧をかけてきて、その熱い鼻息がかかる感じも同じだったとき、私と夫はとても懐かしく思い、もう一度でいいからあれをあの子にやってほしいな、と思った。(P79~80)
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