蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

さよなら渓谷

2013年07月14日 | 映画の感想
さよなら渓谷

俊介とかなこは、山奥の小さな町で二人で暮らしている。
隣家で子供が殺され、その母親が逮捕されてマスコミが押し掛ける。
母親は俊介と浮気していたことをほのめかし、やがてかなこもそれを認める証言をして、俊介は逮捕される。
俊介の過去をさぐっていた雑誌記者の渡辺は、俊介が大学の野球部時代、事件をおこしていたことをかぎつける・・・という話。

ゆれる」みたいな、ミステリっぽい映画を想像していたのだけれど、かなり純文学系というのか、見る人によって感じ方が相当に分かれる作品だと思った。

俊介の大学時代の事件のために、本人もその被害者だったかなこも人生を狂わされる。
白眼視する世間から逃れて山奥の渓谷に逃げ込んだ二人の、異常なしかしそれゆえに純粋な愛を描く・・・というのが普通の見方なのかなあ・・・とも思ったが、以下は私の勝手な解釈。

***
寄る辺ないかなこは、心の底から後悔して謝罪しているように見える俊介を許していっしょに暮しているかとも思えるが、すべては彼女の復讐の一端にすぎなかった。
ところが、彼女のうその証言のせいで逮捕されても、なお、俊介は彼女を全く責めない。
結局、俊介はかなこを愛しているのではなく、懺悔のために彼女の傍にいるにすぎないことが明らかになる。
愛していると見せかけて裏切った彼女の行動が、俊介に何のインパクトも及ぼさない(どころか彼の贖罪意識に貢献している)ことがあからさまになって、彼女はこれ以上俊介と暮らす意味を見いだせなくなり、別離を決意した。

ラスト近く、かなこが俊介と別れる理由として言った
「このままだと幸せになってしまいそう」(→うろ覚え)というセリフは、
「このままだと俊介が幸せになってしまいそう」
という意味なのだと思う。
***

正直にいって、楽しさとか救いとかがある
映画ではなかったし、前評判ほどの出来とも思えなかった。
主役二人のセリフは聞き取りづらい。
でも、謝罪のために俊介がかなこを追いかけるシーンは、ちょっと「砂の器」の放浪シーンを思い出させる、重みみたいなものがあったし、見終わった後もしばらく、かなこを行動をどう解釈すべきか考え込んでしまったので、そういう意味では印象に残る、見た甲斐がった映画だったのかもしれない。

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