蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

卵をめぐる祖父の戦争

2014年08月11日 | 本の感想
卵をめぐる祖父の戦争(ディビッド・ベニオフ ハヤカワ文庫)

ドイツ軍に包囲されたレニングラードに住み主人公は、夜中に街をうろついているうち、ソ連軍に捕まってしまい、軍紀違反でつかまったコーチャとともに、ソ連軍高官の娘の結婚式に卵を調達してくるように命じられる。飢餓に苦しむ市内に卵があるはずもなく、二人は郊外の農場、あるいは、ドイツ軍から調達することを目論む。
郊外ではドイツの親衛隊部隊やパルチザンが暗躍し、二人はやがて腕利きのパルチザンの娘といっしょにドイツ軍にとらわれてしまう・・・という話。

飢えに苦しむレニングラード市内の悲惨な情景や、親衛隊のなぐさみものとして農家に閉じ込められた少女たち、といった目をそむけたくなるような場面ばかりが次々に展開されるが、深刻な感じにならないように、どんな窮地にあっても陽気なコーチャの軽口などを交えて、悲惨な話を楽しめるエンタテイメントに変換させることに成功している。かなりの長尺だが、読み始めると中断するのが難しいほどの面白さだった。

卵を手に入れる方法も印象的だったが、冒頭の、主人公がリアタイア後にアメリカで暮らす様子を描いた部分もとてもよかった。
あと、主人公達が、レニングラードの愛称として使う「ピーテル」(ペテルブルグの略?)という言葉の響きが素敵だった。
(読んだのは2012年10月頃)
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元気でいてよ、R2-D2。

2014年08月11日 | 本の感想
元気でいてよ、R2-D2。(北村薫 集英社)

後味の悪い、陰のある短編ばかりを集めた本。

戦慄を覚えるような強烈なものはなくて、ふだん隠されている人間の悪意(というか、底意地の悪さ)がチラッと見える、といった感じの筋が多かった。

その中で、「微塵隠れのあっこちゃん」は、取引先の傲慢な担当者の扱いに手こずっているOLの話。今どき、こんな露骨な下請けいじめみたいなことをする人はいないだろうな、とは思うものの、ラストで、今の状況と昔の思い出がリンクするあたりはとても良かった。
(読んだのは2012年12月頃)
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弱くても勝てます

2014年08月11日 | 本の感想
弱くても勝てます(高橋秀実 新潮社)

日本一の進学校:開成高校の野球部に取材したノンフィクション。
同部はグラウンドを使った練習ができるのが1週間で数時間のみ。このため練習効率が悪いと監督が思っている守備練習にはあまり時間をかけず、ひたすら打ち勝つ、しかも1イニングで大量点を取ってコールド勝ちを狙う、というユニークな方針を持っている。
と、いった感じの、「マネーボール」的な、従前のセオリーに逆らった頭を使う野球をする話なのかと思って読み始めた。

しかし、前述のようなこと以外は特別の戦術があるわけではなく、練習に特別な工夫があるわけでもない。本書の主眼は、日本一の進学校の生徒と(開成出身で東大出の)監督のちょっと変わった考え方や行動を描くことにあるように思えて、ちょっと残念だった。

開成高校生の考え方は、思ったより、突飛なものではなく、まあ、多少は理屈っぽいかな、という程度。
一方、監督の方はかなりの変わり者(失礼)という感じ。指導とか作戦とかも思い付きとかフィーリングに頼っているような気がした。というか、そんなに真剣にやっているわけでもないんだろうなあ・・・(またもや失礼)

これで、開成高校野球部が謎の快進撃をするような話だったら盛り上がったんだろうけど、そういうこともなくて、尻すぼみの終わり方だった。
(読んだのは2012年11月頃)
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盤上のアルファ

2014年08月11日 | 本の感想
盤上のアルファ(塩田武士 講談社)

花形の社会部から文化部の将棋担当へ左遷された新聞記者の秋葉は、いきつけの飲み屋で、奨励会の編入試験を受けようとしている真田と知り合う。真田は元奨励会員だが、規定年齢までにプロになれず退会していた。近年できた編入制度を利用して再挑戦を目論んでいるが、失業中で、住んでいたアパートも追い出され、秋葉のマンションに転がり込む。すべてをかけて真田が将棋に没頭している姿を見て、失意の中にあった秋葉も立ち直る・・・という話。

新人賞を受賞した作品で、一部の書評でも好評だったらしいが、ちょっと予定調和がすぎるというか、ステレオタイプというのか「きっとこういう展開だろうな」という通りに終わってしまった感じ。

重苦しい話にならないように、おそらく意図的におちゃらけたエピソードを交えているのもイマイチかな、と思えた。
クライマックスの場面は盤面図を入れてくれないと、私のような素人には、逆転の一手がどれくらいすごかったのかを理解するのは、ちょっと厳しいと思う。
(読んだのは2012年12月頃)
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そして生活はつづく

2014年08月11日 | 本の感想
そして生活はつづく(星野源 文春文庫)

著者は、「生活」がとても苦手だ。
自身への劣等感が強く、そこから逃げ出すために、芝居や音楽、マンガなどに夢中になる。でもいざ普通の生活に戻ると、やはり虚無感に襲われてしまう。そこで仕事の予定をいれまくると、今度は過労で倒れてしまう。
何とか日常生活を楽しもうとするが、やっぱりうまくいかない。でも生活は続く・・・といったパターンの、いろいろな悪循環をテーマにしたエッセイ集。

仕事どころか日常生活もしっかりと充実させて楽しみたい、というのは著者が完璧主義者だということだろう。そういう人なのである程度斯界で成功していても劣等感が消えないのだと思う。

冒頭の、電話代をつい払い忘れてしまう、口座振替にしようとしても手続きが面倒くさくてできず、また払い忘れになってしまうという「料金払いはつづく」というエッセイが面白かった。
私は著者とは正反対に、何か請求書的なものが来たらすぐに払わないと気持ちが悪くてしょうがない、というタイプなのだけれども、こうした面にズボラな人の心の動きが興味深く読めた。

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