蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

変わった世界 変わらない日本

2014年08月14日 | 本の感想
変わった世界 変わらない日本(野口悠紀雄 講談社現代新書)

●世界はどう変わったか?
80年代以降、社会主義経済の失敗が明らかになり、市場経済モデルが復活した。PC、インターネット技術に代表される分散型ITの進歩がその優位性をさらに高めた。
一方、新興国の工業化が進み、工業製品価格の低下が起こり、先進国においては製造業の規模の縮小が生じた。
このような変化は特に英米にとって有利に働き、ITサービス業、金融サービス業を大きく発展させた。これにより金融取引技術も発達したが、かえって高リスク投資を助長してバブルの生成と崩壊をもたらした。
バブル崩壊に対応するための金融緩和や中国の景気刺激策の影響が残っている。

●日本はどこが変わっていないのか?
製造業の新興国への移転は避けられないのに、その温存にエコカー減税等の補助、TPP、法人税減税等の様々な政策的手段を用いている。
一方、製造業は雇用を減らすことで対応しようとしたため、雇用が賃金の低い業種に流れ全体の所得が落ち、経済の停滞をもたらしている。
製造業にかわる新産業が発展していない。

●日本はどうすべきか?
製造業に代わる新産業を育成しなければならない。次にどのような産業が伸長するのかは政府がコントロールできないから民間にまかせるべき。
助長する手段として人材育成と人材開国をすべき。異質なものが現状を変える。

●所感
英米あるいは新興国に比べて日本はうまくいっていないのは確かだけれど、これは経済発展の段階の違いであって、時間が解決する問題のような気がする。例えば、最近の中国の経済社会状況は、高度成長期の日本によく似ているのではないだろうか。日本の高度成長期を、インフレや高失業で苦しんでいた英米から見ているようなものだ。
アメリカが製造業や一次産業の保護をやっていないかというと、もちろんそんなことは全くなくて日本より露骨で大規模ではなかろうか。それでもITや金融が盛況となったのは、ダイバーシティというか、異質なものを受け入れる間口の広さが日本よりかなり大きかったせいかと思われ、この点では本書の結論は妥当なものであろう。おそらく、日本も、かつて英米が苦しみながら歩んだように、外国人を含む多様性のある人材活用を進めていくことを強いられるのだと思う。
そうしたことを意図的に避け続けるとすれば、日本は、時間ですらも解決できない本当の袋小路に迷い込んでしまいそうだ。
多分(希望的観測もふくめ)日本の指導者層も、(いわゆるアベノミクス的手法は長期的には意味がないことはわかっているけど、何もしないわけにはいかないから人気取りもふくめて時間稼ぎをし)女性や外国人の活用、財政・社会保険改革といった本丸をこそ攻めようとしているのだと信じたい。
コメント
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