蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

菜の花の沖(四~六)

2014年08月16日 | 本の感想
菜の花の沖(四~六)(司馬遼太郎 文春文庫)

一~三巻の感想で、この物語にはいじめの場面が頻出する、と書いたが、四~六巻でも主人公の嘉兵衛は、かつての恩人で豪商の北風家にいじめられる。

しかし、次第にテーマは男と男の信頼関係(友情とはちょっと違うけど、それに似たもの)に移っていく。

幕臣で北海道の開発管理を任じられた高橋三平、冒険家の最上徳内、そしてロシア船の船長リコルドといった人々と嘉兵衛は心を通い合わせる。

特に囚われの身でありながら、リコルドから厚い信頼を寄せられるまでになるまでのプロセスが感動的だった。
二人の友情が描かれた次の場面(北海道に幽閉されていたロシア人のゴローニンの手紙がリコルドの許に届いたことで彼の無事がわかりリコルドが喜ぶ場面)が印象に残る。
***
リコルドは、嘉兵衛のいう焼酎(ウオッカ)を用意させ、全員に杯をもたせ、
「タイショウに感謝の意をあらわそう」
と、杯をあげた。歓声が、クナシリ南部の山々にこだまするほど高く湧きあがった。
そのあと艦長室で嘉兵衛が、自分のことを話し、とくに箱館の友人が僧になったことについて物語ったとき、リコルドは、お前さんはいい友達をもってこの上もない物持ちだ、といった。
嘉兵衛は、
「それも二人!」
といった。むろんリコルドをふくめたのである。
「二人も!何と沢山の友達だろう!」私は思わずつぶやいた。
と、リコルドは書いている。
***
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