蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

国際メディア情報戦

2014年08月13日 | 本の感想
国際メディア情報戦(高木徹 講談社現代新書)

「目の前にある情報が、なぜいま、このような形であなたのもとに届いたのか、情報源からあなたまでの間にどのような意志と力が働いたのか、それを推察し見抜くことで、世界がまったく違う姿となってたち現れてくる」(P6)

著者は、「戦争広告代理店」では、ボスニア紛争でアメリカのPR会社の協力を得て、ボスニア側に有利な世論を導いたプロセスを明らかにした。上記の引用のように、本書でも、国際的なメディアの操作・誘導工作を描いている。

2012年4月に中国で反体制家の亡命騒動が起きた時、CNNは見事な演出を見せた。北京からの中継映像で、サブ画面にCNNi(中国国内で放映されているCNNの国際版)の画面を写し、反体制家亡命のニュースになると、途端にCNNiがブラックアウトしてしまう瞬間を見せて、中国当局の露骨な報道規制ぶりを如実に伝えた。

冷戦が終わって世界情勢が複雑化した。限定的な地域での紛争が起こっても、それを国際社会にアピールしていかないと、世界の人は何が起きてどちらに正当性があるのか判断できない。
ボスニア内戦で多用されたバズワードは「民族浄化(エスニック・クレンジング)」。これはアメリカのPR会社が作って意図的に流布させたものだが、象徴的はフレーズとして「セルビア側に非がある」というイメージを世界中に植え付けた。アメリカのPR会社いわく、彼らが行っているのは「どうすれば味方の主張を効果的に伝えられるか」という、「メッセージのマーケティング」。

オサマ・ビンラディンは、「国際メディア情報戦」を最大の武器とした。その中心は「アッサハブ」という組織で、いまや世界的なメガメディアとなったアルジャジーラを最大限に活用した。
一方、次世代アルカイダは、ネットマガジンまで作っている。見た目は相当に洗練された作りになっているが、内容はテロの具体的な方法が書いてあったりする。アメリカ国民を含む世界中の同調者に語り掛け、扇動する。これを「オープンソースジハード」と呼んでいる。

ビンラディン殺害時のホワイトハウスのシチュエーションルームの写真が公開された。大統領をはじめする政権中枢の人々の不安そうな表情が、国民と極限の緊張感を共有しようとしているとして、かえって好感を持って受け止められた。オバマ政権は写真の効果を重要視しており、ホワイトハウス内ではメディアのカメラマンをほとんど入れず、専属カメラマンのみに撮らせている。

「私たちは「重要な情報」とは水面下にあるもので、外交官やスパイや、誰か特殊な人たちだけが扱えるもの、自分たちのどこか遠くにあるもの、と考えがちなのではないだろうか。
今の世界ではそうではない。すべての情報は公開されるべきものだ。それが民主主義の基本だ。
そうであるなら問題の解決は、私たち一人一人情報の受け手に託されている。自分のもとに届く情報が、どこまでにどのような「情報戦」をくぐりぬけてきたかを考える。その視点を持ち、情報の裏にある意識と、そこに存在したのが誰であるかを見抜く。それを続けていれば、自分なりの真実と世界観を自分の中に形成できるようになる。それをまた他の情報と比較して検証してみる」(P258)

マスメディア業界においては、人材の流動性が高い方が質の向上を図ることができる。流動性が高いということは転職(社)が容易ということであり、そうするとジャーナリストは所属する社の方針におもねることなく、自分の主義や良心に基づいて報道することができるから・・・という視点が印象に残った。
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