殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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現場はいま…しばしの平和か・2

2022年05月28日 16時39分13秒 | シリーズ・現場はいま…
地元貢献発言から少し経つと、永井部長は何かと用事を作って

何度か会社を訪れた。

M社を使い始めたことは、松木氏から報告を受けているだろうが

自分の目で確認するためだと思われる。

M社のダンプを見て満足げだった…夫は笑いながら、私にそう言った。


そして1ヶ月後の先月、永井部長からアクションが。

やはり請求書で、だまされたことを知ったのだろう。

しかしそのことには全く触れず、彼は松木氏を介して伝言してきた。

「M社はやめて、D産業を使え」


「…D産業?」

松木氏からその名を聞いた夫は、開いた口がふさがらなかったという。

だってD産業は、愛媛県の島にある会社。

県外やん。

あれほどワーワー言うとった地元貢献はどうなったんじゃ。

しかし、それが永井部長なのだ。

直接言いに来たら反論されると考えて、松木氏に言わせたのだ。


そのD産業だが、お初の会社ではない。

取引の実績はある。

藤村が所長だった頃の話だ。


M社と癒着して小遣いを手にした彼は

さらなる利益を得ようと、次男から配車の仕事を取り上げた。

しかしいざやってみると、ダンプは集まらなかった。

当然である。

腹を立てた次男は、親しい同業者に連絡を回していた。

「藤村からチャーターの依頼があったら、断ってもらいたい」

連絡を回した複数の同業者は、横柄な藤村を嫌っていたため

ことごとくが賛同。

その結果、藤村の配車ではダンプが集まらず、次男に泣きつくことが続いた。


やがて彼は、遠い都市部にある同胞の業者に

高速料金を上乗せして仕事を依頼するようになった。

もちろん大赤字。

河野常務から大目玉をくらい、その会社との取引を禁止された。


頼みの綱が切れた藤村。

あちこち当たって最終的に行き着いたのが、愛媛県にあるD産業。

しかし何しろ島から呼ぶので、藤村は日当にフェリーの運賃を上乗せしていた。


いくら藤村でも、フェリーの運賃まで面倒を見ていたら

また大目玉を食らうのはわかる。

大型車のフェリー運賃は、高いのだ。

このままでいいはずは無い。


そこでフェリーの運賃を渋り始める一方、D産業との専属契約をちらつかせ始めた藤村。

専属契約と聞いて、燃えるD産業。

藤村とD産業の癒着は、ここから始まった。


島しょ部にある運送系の会社は、交通の便とフェリー運賃がネックとなって

規模拡大などの飛躍は難しい。

つまりD産業は小さい。

ダンプを抱える小さい会社は、仕事が途切れるのを一番恐れる。

仕事があっても無くても人件費はかかるし

3ヶ月毎の点検と毎年の車検が義務のダンプは

じっとしていてもお金のかかる乗り物だからだ。

藤村に数万円の小遣いを与えるのと引き換えに

安定した仕事がもらえるのなら、言うことを聞く。


D産業はさっそく、ダンプ置き場とプレハブの休憩所を本土に設け

そこに運転手を交代で泊まらせて出勤させることにした。

藤村からフェリー代の悩みを取り除けば

専属契約に王手をかけられると考えたD産業の設備投資である。


が、専属を狙うには場所が遠過ぎた。

フェリー乗り場に近いということで決めたらしいが、うちからはものすごく遠い。

市外のF工業よりもずっと遠い、大市外。

ほぼ隣の県だ。


しかし藤村にとって、そんなことはどうでもいい。

専属契約をエサに、D産業から小遣いをもらうことのみが彼の目的。

これを複数の会社で行えば、彼のフトコロは潤う寸法である。

そのために彼は何としても、次男から配車を取り上げる必要があったのだ。


そして以前お話ししたように、やがて藤村は

自分がスカウトした女性運転手へのセクハラとパワハラで訴えられ

営業所長の肩書きを外されて本社に戻った。

これは本社の措置というより、ハラスメントで労基に訴えられて内容が認められたら

降格処分などのわかりやすいペナルティーに処すのが決まりなのだ。


藤村と縁が切れた即日、夫はM社とD産業を切った。

我が物顔で事務所に出入りしていたM社とD産業の社長や運転手たちが消え

我々は溜飲を下げたのだった。


そして3月、永井部長はそのM社を使えと言い出し

それが不発に終わると今度はD産業を使えと言う。

藤村と癒着していた二社の名前が出たからには、背後にヤツがいるのは明らかだった。

小遣いが入らなくなって、はや何ヶ月か。

一度吸った蜜の味を忘れられない彼が

永井部長をたきつけているのは手に取るようにわかる。


夫は永井部長の命令を断るよう、松木氏に言った。

本土の休憩所がまだあるのか、あるいはたたんでしまったのかは知らないが

いずれにしても遠過ぎて、現実的でないという理由からだ。


松木氏も納得し、その旨を永井部長に伝えた。

すると永井部長、今度はこう言った。

「D産業を使いこなす自信が無いんだろう。

藤村ならできるから、そっちへ行かせて配車をさせよう」

永井部長の最終目的は、これだったようだ。


これには夫でなく、松木氏が激しい反応を見せた。

せっかく藤村より上の次長という肩書きで、こちらへカムバックしたというのに

再び藤村が出入りするようになったら自分の立場が危うくなるからだ。

怒り狂う松木氏に、夫は言った。

「藤村が復帰するなら、俺は退職する。

あいつと一緒に仕事をする気は無い」


藤村といい松木氏といい、つまらぬコモノほど

普段から「辞める、辞める」と口にするので耳タコだが

夫が辞意を表明したのは、この時が初めて。

彼もF工業から誘われているもんで、なにげに強気なのだ。


驚いた松木氏は永井部長だけでなく、本社の上層部にもこのことを伝えた。

藤村の復帰を阻止したい気持ち半分、夫の退職を推進して対岸の火事見たさ半分で

尾ひれをつけて触れ回った様子だが、その結果、夫を引き留めるために

藤村の復帰は消滅した。


しかし、永井部長はD産業をあきらめなかった。

「1台でもいいから、使ってほしい」

今度はした手に出て、頼んでくる。

何かあると思った夫は、いつもの親友、田辺君に調査を依頼した。

《続く》
コメント (4)
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