殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

うらやましい

2018年01月09日 15時36分42秒 | みりこんぐらし
夫と二人、会社の近くにあるスーパーで買い物をしていた。

このさびれた店は、私のお気に入り。

駐車場はスカスカ、レジで並ぶこともないからだ。


狭い店内を夫婦で徘徊していると、一人の女性に声をかけられた。

夫の知り合いらしい。

年は私より10才くらい若そうな美人である。


「おっ!愛人か!」

ここでそう思うのは初心者。

夫の愛人は、ブサイクと決まっている。

『美人は100回褒めても振り向かないが

ブスは1回褒めればすぐ落ちる』

夫の座右の銘である。


「◯◯社の事務員さんだよ」

夫が紹介する。

会社が近所にあり、仕事で毎日のように出入りしている所だ。


「あら〜!いつもありがとうございます」

「こちらこそ〜、お世話になっております」

彼女は明るく挨拶を返し、そして言う。

「優しい旦那様で、うらやましいです」

「あら〜、そんなこと〜」

一応、謙遜。


「ご主人、本当に優しいんですよ。

ガサガサした男が多い職場でしょう。

ご主人の柔らかい話し方に、すごく癒されるんです。

会社の女子社員も、みんな言ってるんですよ。

奥様がうらやましいって」

「え〜?」

「そうなんです。

どんな奥様かしら、お幸せねって、よく話しているんですよ」

「それはそれは‥」

「お会いできて、嬉しいです」

「こんなので、ごめんなさいましよ」

「いえ、想像していた通りの方でした」

どんな想像をしていたやら。

そして彼女は「うらやましい」を連発しながら去って行った。


私は彼女に申し上げたかった。

優しい旦那様には、親もセットで付いてくるんじゃ、と。

親の面倒を見させるためには、優しくするしかないんじゃ、と。

が、言わぬが花よ。

夫のこれまでの行状を知らない人類が、増加しているのだろう。


家に帰って、息子たちに報告。

「人様から、うらやましがられるなんて初めて。

びっくりしたよ」

いやほんと。

きついと評判の舅、毎日帰って来る娘、浮気亭主の三点セットにより

「あすこの嫁にだけは、なりとうない」

そう言われることは多々あったが、うらやましいと言われたことは

長い結婚生活で一度たりとも無かったのだ。


すると息子たちは口を揃えて言った。

「そこは“やるで?”じゃろ!」

それからくどくどと怒られる。

「何で言わんかったん?」

「受け答えが、なってない!」

「やるで?の後は、バアさんも付けるで?じゃろ」

「ここは、そう言うところでしょうが」

厳しい指導である。


「驚いたけん、とっさに出んかった」

言い訳する私に、指導は続く。

「何年ワシらの親、やりょうるん?」

「軽く、サッと出んとダメじゃろ」

「つまらん!」

「修行が足りん!」


以後、気をつけるように‥と言われて許されたが

次があるかどうかわからない。

あんまりうらやましがられると、身の置き場がないことはわかった。
コメント (6)
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