電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く

2009年03月21日 06時37分07秒 | -室内楽
このところ、東北の地もぐんぐん春めいてきています。ここしばらく通勤の音楽として聴いていた、ドヴォルザークのピアノ三重奏曲ですが、本日は第1番変ロ長調Op.21を取り上げます。

ブラームスにとって、ローベルト・シューマンが恩人であったのと同様に、ドヴォルザークにとってはブラームスがいわば大恩人でした。1875年に、ウィーン楽友協会に作品(*1,2)を提出し、審査にあたったブラームスらに認められてオーストリア政府から年収の倍以上にあたる額の奨学金を受けることができ、貧しい作曲家であったドヴォルザークは、以後五年間にわたり経済的援助を受けながら、次々に作品を生み出していきます。ドヴォルザークの「ピアノ三重奏曲第1番」は、まさにその頃、1875年の春、3月~5月にかけて作曲された作品です。

第1楽章、アレグロ・モルト。ソナタ形式。ヴァイオリンが歌う、ドヴォルザークらしい優しい旋律や、中低音部を受け持つチェロの雄弁な旋律が魅力的で、時に強く、時に弱く、対比を示しながらピアノが活躍します。弦が休んでいるときにソロを弾くピアノなど、実に素晴らしい!
第2楽章、アダージョ・モルト・エ・メスト。メスト(悲しげに)の指示が示すように、ピアノが呟き、チェロが嘆き、ヴァイオリンが泣き顔で語るような始まりです。でも、若いドヴォルザークの音楽は、あくまでも慎ましく控えめで、相手の迷惑お構いなしに自分の嘆きだけを訴えるふうではありません。
第3楽章、アレグレット・スケルツァンド。この楽章は、いかにもドヴォルザークらしい、スケルツォというよりはむしろポルカふうな、チェコの民族音楽を感じさせるものです。後年のドヴォルザークは、この道をまっすぐ進んで行ったのですね。
第4楽章、アレグロ・ヴィヴァーチェ。ソナタ形式。踊るようなリズムがおもしろい。時に陰りを帯びた激しさを見せながら、充実した、躍動感を持った音楽です。

この作品は、特に第4楽章などを中心に作曲者自身が改訂を行っているそうですから、厳密には作曲当時のままの作品とは言えないわけでしょうが、それでも若い作曲家ドヴォルザークによる旋律が魅力的な音楽だと思います。シューベルトやシューマンの流れをくむ、演奏時間が30分を超える立派な室内楽作品です。

1977年4月、チェコのプラハにある、スプラフォンのドモヴィーナ・スタジオにおける初期デジタル録音。DENON がヨーロッパ録音を始めて間もない頃でしょうか、後のホールトーンを生かした名録音ではありませんが、スプラフォン社の協力を得ながら意欲的に自社録音に取り組んでいた時期のものでしょう。当時のデジタル処理の技術的な制約もあり、やや硬質な印象は受けますが、十分に鮮明な録音です。ディレクターはヘルツォークと結城亨、録音エンジニアはSykoraと穴沢健明の各氏、手持ちのCDは、第2番が併録された 33CO-1409 という正規盤ですが、今は Crest1000 シリーズにデザインも元のままで入っている模様。演奏はスーク・トリオで、ヨセフ・スーク(Vn)、ヨセフ・フッフロ(Vc)、ヤン・パネンカ(Pf)という顔ぶれです。とりわけ、パネンカのピアノが実に見事です。



参考までに、演奏データを示します。
■I=14'11" II=8'57" III=6'59" IV=6'32" total=36'39"

(*1):ドヴォルザーク「交響曲第3番」を聴く~電網郊外散歩道
(*2):ドヴォルザーク「交響曲第4番」を聴く~電網郊外散歩道
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