電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『紅椿ノ谷~居眠り磐音江戸双紙(17)』を読む

2009年03月02日 06時32分43秒 | -佐伯泰英
今津屋吉右衛門とお佐紀の祝言が近づき、磐音・おこんの間に影を落としていた白鶴太夫が出羽山形の最上紅花商人前田屋に相思で落籍されるという展開に、このあとどんな話が続くのかと期待の第17巻。佐伯泰英著「居眠り磐音江戸双紙」シリーズ『紅椿ノ谷』は、なんと磐音・おこんの婚前旅行のお話でした(^o^)/

第1章「十三夜観音」。今津屋吉右衛門とお佐紀の祝言の一部始終です。古典的な座敷での祝いの席には、最近とんとご縁がありませんが、かつて子供時代に祝いの酒を注いだ経験有。客間、次の間、控えの間をぶちぬいた三間通しの宴だったような。あんな感じで今津屋吉右衛門・お佐紀の二人が並び、速水左近や大名家老職、また江戸の豪商たちが並んだのでしょう。居並ぶ席次などを明記しなかったのは、作者が無難を選んだに相違ないと思われます。
第2章「鰻屋の新香」。今津屋の祝言の後日の風景が描かれますが、その中に豊後関前藩の様子を知らせる中居半蔵・正睦の手紙やら今津屋への祝いの品やら、佐々木道場の改築計画やらが話題となります。ただし、実際にはおこんの気落ちの様子を見て、中川淳庵に相談するあたりが、後の章への伏線として重要なところでしょう。若い松平辰平の悩みも伏線の一つ。鰻屋のお新香のように、後から出てくる主料理への伏線となる章という位置づけなのでしょう。
第3章「冥加樽の怪」。あまり後味の良い章ではありませんが、それでも深夜の道場で対決した佐々木玲圓の剣の残心の姿が見えるようです。おこんの傷心ぶりもずいぶん甚だしく、白鶴太夫が出羽山形に去った後、おこんが悲劇のヒロインに転じるような雲行きです。
第4章「ふたり道中」。織田の桜子との結納を済ませた桂川甫周の診立てによれば、おこんの虚脱感はそうとうに重いとのこと。心の病が重症にならないうちに、磐音と二人で湯治に行け、とのアドバイス。名医の診断ですから、娘の婚前旅行も雇い主・父親ともに二つ返事で承諾です。しかし、江戸から群馬県水上町法師の湯まで、中山道・三国街道経由で42里の旅です。1里が4kmとすると、およそ168km。これを5~6日で歩くとなれば、1日あたり30km以上を歩くことになります。連日8時間も歩き続けるのは、これはたいへんなことですよ。なぜそんな遠いところへ?と思い、はたと気がつきました。そうか、作者は混浴の湯治場を探したんだ(^o^)/
第5章「法師の湯」。上野・越後・信濃3国の国境である三国峠にほど近い法師の湯に到着した磐音とおこんの二人は、温泉につかってのんびりと心と体を休め、仲良く結ばれます。まあ、自然ななりゆきでしょう。おこんを雪の下に咲く紅椿にたとえた作者は、無粋な刺客を描くのはうまいが、失礼ながら色っぽい場面を描くのはあまり得意ではなさそうです(^o^)/



ちなみに、写真は最上紅花商人前田屋とともに白鶴太夫が向かった出羽山形の桜のトンネルに咲く椿です。当地では、花の時期が重なると、時にこのような景色が楽しめます。ほんとに春が待ち遠しい今日この頃です。
コメント (8)