電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く

2009年03月29日 06時01分58秒 | -室内楽
通勤の音楽として、第1番に引き続き、ドヴォルザークのピアノ三重奏曲第2番、ト短調作品26を聴いています。週末に、自宅のステレオ装置で、音量を上げて楽しみました。
Wikipedia(*)の「ドヴォルザーク」のページにある作品一覧では、第2番を変ロ長調と記していますが、これは誤りと思われます。ト短調という調を持ち、聴くものに悲しみを感じさせる音楽です。

1873年に結婚したドヴォルザークは、74年に長男誕生を喜びますが、75年9月に生後2日で長女を喪います。産後の妻の嘆きは30代半ばの夫にも共通のものであり、家庭に悲しみの影を落としたことでしょう。1876年の1月4日から20日という短い期間に作曲されたこの曲は、明朗な第1番と比べて、翳りを帯びた音色や、嘆き・悲しみを特徴とする音楽になっているのは、おそらくこうした事情によるものと思われます。

第1楽章、アレグロ・モデラート、ソナタ形式。弦による鋭い始まり。ピアノも激しい感情をぶつけます。たしかに、喜ばしかるべき愛児の誕生が一転して悲しみの始まりになる、運命の理不尽さへの怒りや嘆きの感情は、誰にぶつけることもできない。曲中、もっとも長い楽章です。
第2楽章、ラルゴ。祈りのような美しいチェロの旋律に重なるヴァイオリンとピアノ。おっぱいを含ませるべき子を失った、産後の愛妻を慰めるものか、それとも亡き子を悼むものか。なんともいえず真率な、素晴らしい音楽です。
第3楽章、スケルツォ:プレスト。速いテンポで、涙を振り払い立ち働くように活動的な前半部。中間のトリオはテンポを落とし、やわらかく踊るような音楽です。再現部では、はじめの急速なテンポに戻ります。
第4楽章、アレグロ・ノン・タント、ソナタ形式。第1主題のリズムが、舞曲のような特徴的なものです。悲しみの影から、明るさや希望の光が差し込むような、そんな音楽です。まだ若いのだもの、いつまでも嘆き悲しんでいては、生活ができません。時がすべてを癒してくれるかのようです。



30代半ばのドヴォルザークは、基本的に結婚生活には恵まれたものの、子供を次々に失っています。カトリック信仰から、産児制限のようなことはできなかったのでしょうか、次々に子供が生まれては死んで行きます。当時、結婚している女性の最終出産年齢は40歳くらい、平均して2年に1回は出産している(*2)とのこと。子を持つ家族であれば、愛らしい子供の死は時代や国境を越えた普遍的な悲しみです。ドヴォルザーク夫妻は、このあとさらに長男と次女も失うのですね。あの「スターバト・マーテル」の悲哀感は、半端なものではありません。ほんとうに気の毒です。稀代のメロディメーカー、あの屈託のなさそうなドヴォルザークの音楽に潜む、嘆きと悲しみの影の出発点になった曲といえるのかも。

演奏は、スーク・トリオ。ヨセフ・スークのヴァイオリン、ヨセフ・フッフロのチェロ、ヤン・パネンカのピアノです。1977年4月、プラハにあるスプラフォン社のドモヴィーナ・スタジオでデジタル録音されたもので、DENON の 33CO-1409。録音は、初期デジタル録音らしく高域にやや固さを感じる部分もありますが、全体にバランスの取れた明瞭なものです。第1番が併録され、今は Crest1000 シリーズに入っており、安価に求められるようになっているのがありがたい。

演奏データは、次のとおり。
■スーク・トリオ盤
I=12'37" II=6'16" III=6'19" IV=6'29" total=31'41"

(*):Wikipedia~「ドヴォルザーク」の記事
(*2):記録に見る出産数~マリア信仰の形成(7)・ザビ神父の証言より
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