萬蔵庵―“知的アスリート”を目指すも挫折多き日々―

野球、自転車の旅、山、酒、健康法などを徒然に記載

インドを走る!第14話「仏陀の生誕地を訪ねて」

2007年06月27日 | 自転車の旅「インドを走る!」

<ルンビニからバイラワへ向かうバスの屋上にて>

※「インドを走る!」について

 ネパールと言ってもインドとの国境を越えて二、三百メートルのところであるから日中は結構暑い。午前中百ドルを換金しに最寄の銀行へ行く。インドと似たような札であったが、デザインにエベレストが施してあるのにはさすがにネパールだと感じ入る。古い札の左端はボロボロである。これはインドでもそうであったが、銀行で札を束ねるのにホッチキスを使う為である。日本では札を九枚数えて十枚目を横にして巻きつけ十枚の区切りとするが、こちらでは十枚数えたらホッチキスで留める。なんと大雑把というかおおらかというか、繊細なお国柄の我々には考えつきもしない手法である。

(金は天下の回り物であり大事にする必要はない。ましてや人間様がそれに縛られてはいかんのだ。)

と、このボロボロの札は物語っているようで愉快な気分になる。

 午後になって、ルンビニへ行く。ルンビニとは仏教の開祖、仏陀の生誕地である。このバイラワの町からバスが出ているのでそれを利用する。バスターミナルではすぐバスに乗れるが、さていつ発つかわからぬ。聞けば三時という。三時半を回っても動かない。四時近くになってようやく動き出す。ルンビニまでの道は、インドよりも日本的な田園風景が続く。

 ルンビニに着く。村というより集落である。まずはチャイでも飲もうということでチャイ屋に入る。そこを出て少し歩くとバスが止まっているので発車時間を聞く。あと十分後に今日の最終が出るという。あわててアショカテンプル(仏陀生誕の碑がある所)へ行く。

 こじんまりとした建物の入口に番人がいて履物を脱げという。裸足で中へ入る。階段を何段か降りると中はせいぜい二畳ぐらいの広さで薄暗い。正面に仏陀の両親らしき人と中央に赤ん坊(これが仏陀だと思う)がおる。凸面が削られ、のっぺらぼうでかなり汚れた碑である。その両側にも何かの碑があったが、これも削られていてよくわからない。イスラム教徒がこの国を治めた時に仏教の遺跡を破壊したらしいがこれもその爪あとであろうか。

 左手に賽銭箱があり、5パイサ(約一円五十銭)入れ、交通安全の願いをする。M君は一ルピー(三十円)入れていろいろとお祈りをしていたようだ。

 アショカテンプルを出るとすでに十分は経過していたが、バスはまだ発車していない。帰りのバスは屋根の上に乗る。日本では出来ないことである。中の狭い座席より余程楽で涼しい。仏陀生誕の地ルンビニをこの三百六十度視界可能な屋根から眺められるのは非常に好運である。

 数個の藁葺きの家。広々とした大地に広がる区画のはっきりしない田。時々すれちがうヤギや牛の群れ。遠くにかすんで見える山影。アスファルトの道路と電線を取り除けばこの景色は千年一日の如く変わっていないのであろう。

 仏教の源泉。ここで生まれた一人の男が築き上げた思想、宗教が中国、朝鮮を経て東の果て日本にまで伝わり、大きな影響を与えるに到ったのである。バスの上から見るルンビニの大地が荘厳この上なく見えた。

 まもなく、陽は西に沈もうとしている。バスが停留所で止まる。道端を見ると、陽の沈む方に向かって三人の男が両膝をつき両手をまっすぐ伸ばし地面にひれ伏している。イスラム教徒であろう。はるか西の彼方メッカに向かって祈祷しているのに違いない。宗教というものの雄大さ、人間に与える重大さというものを感ぜずにはいられぬ午後であった。

 ホテルに戻るとE君がゴラクプールからバスで来ていて、ドイツ人の旅行者と話をしている。彼、インド、ネパールを十四ヶ月間も旅行していると言う。サイクリングもしたが、インドの自転車だったのでパンクが多かったと苦々しい経験として話す。

 夜、E君との再会を祝し三人でウィスキーを飲む。ネパールの方がインドよりも酒類は手に入りやすい。氷も水も無く、ウィスキーを回し呑みする。ME両君二口ほどしか飲まず、後は私がいただく。久しぶりの酒で気分が良くなったところにホテルのボーイで十六歳のアシックが部屋に遊びにきた。日本のことをいろいろ聞きたかったらしいが、我々がアシックを肴代わりにからかったので、彼、酔っ払い相手に長居はたまらんという体で早々に立ち去る。悪いことをしたと三人で反省するも、いい気分でベッドに入る。

 夜半、蚊の猛襲。三人とも目が覚める。さてはアシックの復讐か。


                           つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ウオッヒーで撃沈! | トップ | 酒の注ぎ方 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

自転車の旅「インドを走る!」」カテゴリの最新記事