12日、会津若松のホテルで目ざめる。窓の外には薄くパウダーを撒いたような雪。今日は朝の列車で喜多方に向かう。急行型のボックスシートだ。昨日乗った東武鉄道の6000系もよいが、やはりゆったり感はこちらのほうが上手かな。
喜多方に来たのは、学生の時以来13年ぶりくらい。その時はラーメンを食べて、蔵も少し見たはずだがそれほど印象に残っていなかった。だから的には初めて訪れるようなものである。駅のパンフレットに、喜多方の「老麺会」のパンフレットが置いてあったので、これを手に歩き出す。この「老麺会」には60軒ほどが登録されているとのことで、早い店では朝の7時から開いているという。讃岐のうどん屋もそうだが、ほんと、喫茶店代わりやね。そこで、まずラーメンを攻略して、その後で蔵めぐりをしようというプランにしたのだ。
駅から歩くこと15分、昔ながらの路地の一角にあるのが「坂内食堂」。「喜多方ラーメン坂内・小法師」は東京や大阪にもある店だが、こちら坂内食堂はその「のれん元」というところ。昼間ともなれば行列のできるこの店が、朝からやっているのだ。さすがに朝なので行列はできていなかったが、のれんをくぐると観光客半分地元のオヤジ半分という構成で結構席が埋まっている。本当に食堂といった雰囲気だ。
ここはカウンターで注文をして代金先払い方式で、名物の「肉そば」をいただく。厨房でてきぱきとこしらえており、すぐに出てきた。この、丼の表面が全てチャーシューで覆われている一品。いや、朝からガツンとくるな。肉→肉→ラーメン→肉→ラーメン・・・という順番でいただく。麺も太すぎず細すぎず、あっさり系のスープとの相性がよい。さすが、人気ある一品である。
一軒では惜しいので、もう一軒、路地を歩いてたどり着いたのが「あべ食堂」。これも朝から開いているうちの一軒。こちらではオーソドックスな中華そばがおすすめ。とんこつをベースにしつつも、煮干しのダシを加えた一品ということで、いかにも「ラーメン」というよりは「中華そば」という名前がしっくり来る一品。ラーメンの古典の作品かな。
で、喜多方ラーメンめぐりは朝の2軒で終了。讃岐のうどん屋だと、それこそ一日に何軒でも回れるのだろうが、やはりうどんとラーメンでは違う。それにしても思うのだが、「老麺会」の屋号を見ると、「○○食堂」というのが目立つ。ラーメン屋というと「○○軒」とか(確かにその屋号も結構あるが)、妙に哲学的な屋号が多いのだが、何せ「食堂」である。その来歴についてはもっと詳しい方がいらっしゃるだろうからここでは私の推測だが、やはり元は本当の食堂だったのかな。意地悪な見方をすれば、食堂ではやって行けないからラーメン屋に転業したのかなとも思う。いやそうではなく、喜多方では主食は中華そばで、米を食べるのはハレの日のことで、贅沢極まりないことなのかとか、いろんなことを邪推する。(おそらくどっちもむちゃくちゃな偏見で間違っているだろうが)
さて、腹もふくれたところで町歩きである。喜多方は蔵の町として名高いが、その蔵を単に収蔵用のスペースとして用いただけではなく、商家の建物や蔵座敷としても大いに活用したことが特徴である。寒い気候には却って蔵造りのほうが居住には適していたのだろうか。その蔵座敷として有名なのが、甲斐本家蔵座敷。江戸時代からの名家で、酒造りをはじめ味噌・醤油などの醸造で栄えた甲斐家の座敷である。この蔵座敷は大正時代に建てられたものだが、外見の黒は岡山の烏城をイメージしたものという。
その後、市内に点在する蔵を見物した後、やってきたのが小原酒造。やはり蔵ときいてしっくり来るのが酒蔵かな。建物自体雰囲気がよさげで、「どうぞご見学ください」という案内もあったのでおじゃまする。「今仕込みをやってるんですが、よかったらどうぞ」と案内されて、その現場に入る。冬といえば酒造りのシーズンで、米を蒸すなどの作業で立ち回っている最中だ。さすがにカメラを向けるのは気が引ける。
この蔵の特徴は、酒の酵母にモーツァルトを聴かせていることだ。音楽を聴かせることで酵母がよりよく発酵するとのことで、演歌やジャズやらベートーベンなど、いろんな実験をした結果、モーツァルトにたどり着いたとか。仕込蔵の中でかすかにオーケストラの演奏が聞こえる。そして出来たのが、この酒造のブランドである「蔵粋(くらしっく)」。酒蔵見学後、子音もとい試飲させてもらったが、何だかスーッと来る。いいやね。酒のクラスによって「オーケストラ」「シンフォニー」「マエストロ」「クラシック」「コンサート」「セレナーデ」などの商品が分かれており、ここは大衆的に「クラシック」とついた特別本醸造の四合瓶を買い求める。
ここで店の人から聞いたのだが、喜多方は冬の寒さ、そして水のよさが、酒とラーメンという二大名物を産む要素だという。しかし、やはりこの冬の暖冬は異常なほどで、「喜多方にも蔵元が多いのですが、暖かいと酒造りも上手くいかないようですね。温度調節が上手くいかなくて苦労している蔵元さんも多いようですよ」とのこと。いつも冬の寒さで苦労しているというイメージを北国の人に対して持っており、そりゃ寒いより暖かいほうが過ごしやすくていいのではないか、という思いもあるのだが、自然とともに生きる産業にとってみればそれが必ずしも歓迎すべきことではないということだろう。酒も土地のめぐみと気候風土によって産まれるもの。難しいものだ。
四合瓶を土産に喜多方を後にし、会津若松に戻る。そろそろお昼どきである・・・。(続く)
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