大相撲名古屋場所9日目の観戦記の続き。時刻も昼ほどとなり少しずつ場内の客も増えてきた。ここでまた場内の探索とする。入場口も人が増えており、公式グッズ売り場には先ほど引退した豪風改め押尾川親方の姿もあり、子どもたちの記念撮影に応じていた。
一角の窓に面して人垣ができている。別に売店に行列しているわけではなく何やら外を見ているようだ。方向としては地下鉄市役所駅から歩いてドルフィンズアリーナに入ってきたほうだ。確か建物の手前に関係者用の駐車スペースがあったようだが。
見ているのはまさにその駐車場。というのも、力士・関係者の出入口がこちらにあるそうで、取組を終えて歩いて建物を後にする力士や、出入りする親方たちを見ることができる。駐車スペースはカラーコーンに名前を書いた紙を貼って区分けしており、建物にもっとも近いところは八角理事長のクルマのスペースのようだ。また関取もここまでクルマを乗りつけるようである。
過去の他の人の観戦記を見ると、名古屋場所はアリーナの前の広いスペースを利用して力士の「入り待ち」ができるとあった。しかしこの日来てみると、熱中症予防のために「入り待ち」は取りやめているとのこと。力士も直接クルマを乗りつけるということで、その場所を窓越しに見ようという人が集まっているのだ。
通路に出てきたのは13時から行われるちゃんこ鍋の販売。一杯400円で日によって味付けが変わるそうだが、この日は出羽海部屋レシピの醤油味。それを待つ行列がアリーナの2辺にわたって延びている。普段、何か外食するのに並ぶのを嫌う私だが、この日だけは特別である。災害に遭って配給の炊き出しに並ぶようだが(それは考えすぎか)、40分くらい並んだか。その間に館内から大きな歓声と拍手が起こった。元大関の照ノ富士(現在は幕下)が勝ったようである。
そしていただいたのがこの一杯。食べるのは外のバルコニーでというので気分転換にもなる。
場内に戻ると幕下も後半で、この頃になるとプロとして年数を重ねて一つの「相撲の型」になっている力士同士の取組が続く。やはり序ノ口、序二段のぎこちない相撲とはスピードも違うが、これでもまだ「力士養成員」、つまり給料の出ない番付である。
幕下の上位5番。次代に期待される納谷(大鵬の孫、貴闘力の子)、豊昇龍(朝青龍の甥)が相次いで登場し、それぞれ美ノ海、千代鳳という関取経験者に勝利した。(ただ場所が終わると二人とも負け越しという結果で、さらなる精進ということになった)
朝の8時すぎから同じ建物にいると時間の感覚が変わって来るのか、十両の取組になると塩をまいたり仕切りの回数が増えたりするが、それほど時間も長く感じない。
そして幕内の土俵入り。人気力士の時はより一層拍手が大きくなる。ただ東方の最後に出てきたのは関脇の御嶽海。東方2大関の休場によるものだから仕方ないが、やはり物足りない。
一方の西方の土俵入り。こちらは最後に髙安が登場して大きな拍手が起こる。前日の中日まで1敗で、そこまで全勝の両大関を追いかけていたが、前日の玉鷲戦で相手の小手投げで左腕を痛めた。そのため出場が危ぶまれたがテーピングをして土俵に上がってきた。まあ、そこはあの元横綱がいる部屋だからかな・・・。
横綱の土俵入り。横から見るというのも現地観戦ならではだが、やはり見事だ。鶴竜の正統派の雲竜型と、白鵬のオリジナルな仕草も混ぜた不知火型の二つを堪能する。両方に「日本一!」と飛ばす声援も聞こえる。
幕内の前半は小兵力士が沸かせる。豪快な塩まきでも人気の照強はベテランの栃煌山を見事寄り切り、7勝2敗の好成績。照強はさらに勝ち星を積み重ね、一時は「幕尻優勝」の可能性も残すほどだった。最終的に12勝3敗で敢闘賞を受賞、3敗は優勝した鶴竜に次ぎ、白鵬に並ぶ「準優勝」である(大相撲には「準優勝」の制度がないのだが)。
そして今や角界でトップクラスの人気と言ってもいい炎鵬。この日は長身の貴源治相手に正面からぶつかり、そのまま寄り切った(最後は足を取っていたようで、決まり手は足取り)。これで6勝3敗。翌日にも勝って幕内初の勝ち越しに王手をかけたがそこから3連敗。勝ち越しが厳しいかと思ったがそれを乗り越え、最終的に9勝6敗で技能賞を受賞した。
またこの日は尾車部屋の力士への声援も大きかった。向正面の一角に尾車部屋のタオルを持ったファンが大勢いて、部屋の矢後、友風に対してコールを送っていた。友風(トモカゼ)は言いやすいのか、私の後ろのイス席にいた外国人の観客も「トモカゼ!トモカゼ!」と一緒にコールしていた。尾車親方・・・そういれば津市出身の元琴風である。この人たちは津からの応援団なのかな。このうち矢後は敗れたが、友風は輝に勝ち、7勝2敗とした。友風はその後も好調をキープし、大関不在ということもあり13日目には結びの一番で鶴竜に初挑戦することになった。そしてはたき込みで鶴竜に今場所唯一の黒星をつける初金星を挙げた。最終的には11勝4敗で殊勲賞を受賞した。
その後も遠藤、朝乃山など注目力士の取組に歓声が挙がる。場所の雰囲気、熱気を直接味わうのは貴重な体験である。
ご当地という点で一番人気と感じたのは御嶽海。力士タオルが出る数は圧倒的に多い。それにしてもタオルを掲げるようになったのはいつ頃だろうか。プロ野球の応援でも選手ごとのタオルが売られており、球場に行くと「いったいこの人は1試合に何枚持ってきているのやら」と思わせるファンも見かけるが、考えれば手軽な応援グッズだと思う。もっともそうした場合のタオルはあくまで掲げるもので、汗や手を拭くものではないようだが・・・。で、肝心の御嶽海は阿炎に投げられて敗け。
そして3大関休場の中、最後の砦で1敗をキープする髙安が登場。相手は正代で、まあ普通に取れば髙安が勝つかなと思う中、負傷の左腕も使って前に出る。しかし土俵際で逆転の突き落としを食らって敗れる。これには場内からは「やはり厳しいのかな」とのため息が出る。
髙安は翌日勝って勝ち越したものの、その次の白鵬を前にして休場。4大関全員が休場という初めての事態となった。取組中の負傷が原因だからある程度仕方ないが、結果だけを見れば大関陣に喝が入ることになってしまった。
いよいよ最後の両横綱の登場である。まずは全勝の白鵬。この日の対戦は逸ノ城である。こちらも過去の対戦からして白鵬が無難に勝つのかなと思った。
しかし立ち合いで正面から当たると、逸ノ城がそのまま巨体を活かして前に出る。白鵬に油断があったのかもしれないが、そのまま西土俵に寄り切って逸ノ城の勝ち。座布団が何枚か飛んだ。白鵬はこの後14日目に琴奨菊に敗れるのだが、いずれもパワー相撲の力士相手に正面から寄られての敗け。一部記事ではそのことをもって白鵬の衰えを指摘するものもあった。さて、どうだろうか。
そして迎えた結びの一番。ここまで大関、横綱が相次いで敗れて鶴竜もどうかという雰囲気も少しはあったように思うが、相手は初顔の明生。動き回って少し粘ったが、まだ前頭上位に上がりたての力士で、さすがに鶴竜を破るだけの力はまだなかった。流れを見れば鶴竜が危なげないという感じで寄り切って全勝をキープ。鶴竜は先に書いたように13日目に友風に敗れたが、それ以外は安定した相撲で14勝1敗で名古屋場所を制することになる。
弓取式は春日龍。弓取式も場所に来ないと最初から最後まで見ることはできない。NHKの中継も、結びの一番から18時の中継終了まで何分かは時間があるが、弓取式を映すことはあまりない。やはり結びの一番の解説や、横綱のコメントを出すことで手一杯なのだろう。ただ最後の儀式なのだから、画面の隅でもいいから映してあげればいいのにとも思う。
波乱もあった9日目もこれで打ちだしとなり、終いの太鼓の音に送られながら大勢の人とともに外に出る。なお名古屋城の外では、投票を6日後に控えた参議院議員選挙の活動が行われて、選挙区、比例の2人の候補者本人が支援を呼びかけていた。相撲観戦帰りで数千人の客が出てくる時間帯は選挙活動の貴重なチャンスなのだろう。連日、候補者が代わる代わる出ているのかもしれない。
名古屋駅まで順調に戻り、予約していた近鉄特急の指定席を変更して早い時間の列車に乗る。当初は、名古屋駅近辺で軽く一杯やってから大阪に帰ろうかと思っていたが、ドルフィンズアリーナの中で十分飲んだのでもう早く帰ろうということもある。さすがに座席の埋まり具合もよく、デラックスシートの通路側しか空いていなかったがそれでも快適である。そのまま順調に大阪に戻った。
さて、大相撲の本場所は大阪場所、過去の東京場所に続いて、名古屋場所を初めて観戦することができた。となると残すは九州場所・・・となる。まあ今年は予定しないとしても、福岡は福岡ならではの面白さがあるだろうから、いずれは観に行きたい。後は、どこかの巡業かな・・・。
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