熊本で一夜を過ごし、朝を迎える。窓の外の路面電車のモーター音が朝の営みを感じさせる。
この日は夕方までに博多に出る予定であるが、それまでどうしようかというのは決めていなかった。九州新幹線の乗車と、熊本城見物というメインの目的が初日で終わったこともあり、あとはのんびりしようというものである。
朝食後、ホテルのロビーにて鈍な支障さんと落ち合ってこの日の予定を検討。前日は鈍な支障さんが「朝から雨が降るようだったら、いっそのこと熊本を新幹線で出発してヤフードームにでも行きましょうかね」などと言っていたのだが、とりあえずは青空が広がっている。ということで、屋外の選択肢がぐっと広がる。私は三角線に天草航路などという大胆なプランも持っていたのだが。
結局「せっかく熊本に来たのだから、市内のスポットに行きましょう」ということで、路面電車に乗車。向かうのは水前寺公園である。前日に乗った低床車両とは異なる、板張りの床が並ぶなかなか年代物の車両である。これで市街地部分を走るが、区間によっては路盤に芝が植えられており、街の美観形成に一役買っている。こういう路面電車の走る街というのは何となく雰囲気がよいように見える。
30分近く揺られて水前寺公園に到着。日陰では涼しいのだが日差しはきつい。大阪で感じる蒸し暑さとはまた違ったギラギラした暑さである。
その中にあって目の前に広がるのは緑鮮やかな芝に、透き通った水面の池。特に池の透明度は素晴らしい。
中では優雅に鯉が泳ぎ回るが、ここまで水がきれいだと却って棲みにくいのではないかとも思ってしまう。
前日訪れた八代の松浜軒の池と堀の水もきれいだったが、水前寺公園はその上を行く。ここは殿様(細川家)と家老(松井家)の格の差かな、と思うが、熊本の公園の水のレベルの高さに感心するばかりである。周りの景色とも調和しており、落ち着いた一時を過ごすことができる。
再び路面電車に乗車して熊本駅に戻る。ここで熊本を後にするが、新幹線には乗らず在来線で大牟田・銀水行きに乗車する。ロングシートの2両編成で、かつての特急的役割を果たすということか「快速くまもとライナー」を名乗っている。
道中、携帯電話で「県民百貨店」というキーワードをチェックしてみる。なぜ、あの一等地にそのような名前の百貨店があるかというのだが、その歴史はなかなかうならせるものがある。詳細はウィキペディアをご覧いただくとして、元々は「岩田屋伊勢丹ショッピングセンター」という、九州に広がる岩田屋と伊勢丹の合弁だったそうだが、経営不振により伊勢丹が撤退、最後は累積赤字も100億円に及んだことから岩田屋も閉店ということになった。
その動きの中で、地元経済への影響も考えて「何とか百貨店を再生しよう」ということで官民で取り組んだ。その受け皿会社としてつけられたのが「県民百貨店」という名称で、さまざまな支援要請の結果、阪神百貨店の誘致に成功。阪神百貨店が得意とする食品売り場や有名菓子店の強化や、ちょうどタイガースが優勝したことによるセールも追い風となって復活の機運を見せた。その後、経営が軌道に乗ったこともあり阪神百貨店の商標の使用は終了し、店舗の名前もそのまま「県民百貨店」ということになった。現在は高島屋を中心とする「ハイランドグループ」に入っているが、阪神百貨店からの出資は継続されており、九州で唯一の「タイガースショップ」がある。
こう書くといかにもさらりと経営移管できたかのように見えるが、当事者の奔走ぶりというのはどうだろう、プロジェクトXの一本分くらいできるのではないだろうか。これからも地域に根差した百貨店経営ということでがんばってほしいものである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます