5月2日、出雲市から観光列車「あめつち」に乗る。今回の札所めぐりにおけるイベントの一つである。
キハ47の改造車両で、「あめつち(天地)」というのは「古事記」の書き出しの言葉である。出雲をはじめとした山陰は神話にも多く取り上げられている地域で、列車名にも奥ゆかしさを感じる。
入線から発車までは2~3分しかなく、慌ただしく写真を撮って乗車する。そして発車。
2両編成の列車は、いずれの車両も海側を向いたカウンター席、4人掛けのテーブル席、そして山側は2人向い合せのテーブル席が並ぶ。テーブル席はグループ、カップル客がいるかと思うと、1人で占領しているところもある。2両見渡して、テーブル席でも知らない客同士が会い席になっているところもなく、それぞれゆったり過ごしている。
で、私が割り当てられたのはカウンター席。これはいいのだが、目の前は縦に細長い窓。これは元となったキハ47の窓枠がそのまま反映されている。元車両で座席だったところは上下に仕切られた窓が残っていて、1両に2ヶ所ついていたドアの1つのところも座席にしている。元々ドアだったところは広い窓がつけられ、展望もよくなっている。そしてその横、元々戸袋だったところ・・・が私の割り当ての席だ。
そして、改造車両につきものだが、座席と窓枠の位置が合わないところも多い。席によって当たり外れの差が多いのではないかと思う。
それを補うわけではないだろうが、車内のいたるところで鳥取、島根両県の産品や工芸品があしらわれている。テーブルに埋め込まれたタイルは石州瓦、窓枠には隠岐の松や智頭の杉が使われている。洗面所の手洗い鉢は鳥取の岩井窯だったり。
この列車のプロデュースには出雲出身の映画監督・錦織良成氏も携わっており、車内には錦織氏による「あめつち手帖」という小冊子が置かれている。沿線の魅力について独自の視点で触れられている。この先、この冊子も読みながらの車窓である。
出雲市を出て斐伊川を渡る。まずはここで徐行。先ほどもこの川べりをバスで通って来た。ヤマタノオロチ伝説の元になったとされ、また上流の奥出雲ではたたら製鉄がさかんだったということで、出雲の歴史的な川である。この先でも車窓のいいところでは徐行運転をするという。
発車直後に車内販売員が回ってきて、一人ずつ食事の予約の有無を確認する。実はこの列車に乗るに当たり、車内での食事プランを予約していた。出雲市発の便には「山陰の酒と肴」、「松江の和菓子詰合せ」の2種類がある。これらはJRの窓口やネット販売では扱っておらず、日本旅行のサイトでの事前受付となっている。今回、「山陰の酒と肴」を買い求めており、事前に自宅に送られていた引換券を販売員に渡して、運ばれるのを待つ。
出雲市の次の直江で20分ほど停車する。山陰線は一部を除いて単線で、その中で特急も走る区間である。列車の行き違い、追い越しの合間を縫って走る「あめつち」だが、長く停車する駅でも扉は開かない。その間はじっと待つことになる。
そのタイミングで車内にはサックスとピアノの軽快なBGMが流れる。「あめつちのテーマ」という、地元島根のシンガーソングライター・浜田真理子さんの作品である。この時はボーカルなしだったが、この先の徐行区間では歌声も入る。歌詞には「駆け抜けよう」という言葉が多く使われている。山陰は山陰でも「SUN-IN」をイメージさせる感じだ。
直江を出たところで「山陰の酒と肴」がやって来た。私の乗った1号車では他に2~3組が注文していた。そして、目玉が「あめつち」のオリジナルラベルをあしらった「豊の秋 花かんざし」の1合瓶(地ビールとの選択制)。飲食店での酒の提供停止を要請している東京や大阪の知事が見たら怒り狂うやろうな・・。
器は小ぶりだが、島根牛、大山鶏、長芋、穴子、出雲そばの素揚げ、四季の野菜など、島根、鳥取両県の名物がふんだんに盛り込まれている。酒のアテが並ぶと言えるし、ミニ会席とも言える。別に飲んだからといって騒ぐわけでもなく、カウンター席の隣のご夫婦も静かに召し上がっている。
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