ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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仏教148~東洋人による西洋人の啓発

2021-05-05 08:34:13 | 心と宗教
◆東洋人による西洋人の啓発

 19世紀後半、欧米人によるインド学・仏教学が進むなかで、インド人や日本人が直接、欧米人にインドの宗教・哲学や日本の仏教・思想を伝える活動を始めた。
 インドからは、ラーマクリシュナの弟子、ヴィヴェーカーナンダが、1893年に米国のシカゴで開催された世界宗教会議に参加した。彼が、この会議で講演を行うと、予期せぬほどの大反響を呼んだ。その内容は、ラーマクリシュナの教えに基づくものだった。
 ヴィヴェーカーナンダは、講演において、次のように説いた。「ヒンドゥー教のブラフマン、ゾロアスター教のアフラ・マズダ、仏教のブッダ、ユダヤのヤーウェ、キリスト教の天の父は、同じである。世界には様々な宗教があり、それぞれ道が定まっており、それを混ぜ合うことはできない。しかし、目指す方向は、みな同じである。あらゆる宗教の人々は最高の目的に向かって協力すべきである」と。
 このような思想は、欧米人にとって初めて聴く思想であり、人々に強い感銘を与えた。シカゴでの講演は、編集されて出版され、欧米の知識人に広く読まれた。
 ヴィヴェーカーナンダは、世界宗教会議後、1897年まで、欧米各地で講演を続けた。彼の雄弁で理路整然とした話は、聴衆を魅了し、啓発した。「すべての宗教の理想はひとつ、自由を得ることと、不幸のなくなることである」「人類の究極目標、すべての宗教の目的はただひとつ――神との、つまり各人の本性であるところの神聖との再結合である」と。
 ヴィヴェーカーナンダによって、欧米の知識人の一部に、インドの宗教・思想は、有色人種の劣等な民族の文化ではなく、敬意をもって接すべきものという認識を生みだした。
インド学や近代欧米的な仏教学を学ぶためにヨーロッパに留学した日本人は、そこで仏教の紹介をした。南条文雄は、1876年(明治9年)からイギリスに留学した際、英文で書いた『大明三蔵聖教録』(南条目録)をオックスフォード大学から刊行した。高楠順次郎は、1890年(明治23年)からイギリス、ドイツ、フランス、イタリアに留学した際、『観無量寿経』、義浄の『南海寄帰伝』等を英訳した。
 続いて、岡倉天心は、1903年(明治36年)に英文で書いた『東洋の理想』を、イギリス・ロンドンの出版社から発行した。岡倉は、本書でインドの仏教、シナの儒教・道教に代表される東洋の思想を西洋人に紹介し、それらを生んだ東洋の精神の偉大さを強調した。岡倉は、欧米人に東洋の理想、日本の美術の素晴らしさを伝えるとともに、海外の人々が仏教への関心を持つようになるきっかけを与えた。また、1906年(明治39年)には、やはり英文で書いた『茶の本』をアメリカ・ニューヨークの出版社から刊行した。本書は日本の茶道を欧米に紹介することを目的とし、茶道を仏教、特に禅、また道教、華道との関わりからとらえ、日本人の精神文化や生活観を解説している。英米人に読まれただけでなく、本書はスウェーデン語、ドイツ語、フランス語、スペイン語に翻訳されて、欧米で広く読まれた。
 さらに本格的に仏教を欧米に伝えたのは、鈴木大拙である。鈴木は、1897年(明治30年)に渡米して、出版社に編集員として勤め、哲学者ポール・ケーラスを助けて東洋学関係の出版に従事した。そのかたわら、1900年(明治33年)に『大乗起信論』を英訳して同社から出版した。1907年(明治40年)に英文で『大乗仏教概論』を書いて、ロンドンの出版社から発刊し、翌年にオープン・コート社からも出版した。名著『禅と日本文化』の英文の初版は、1938年(昭和13年)に鈴木が主宰する東方仏教徒協会から出された。本書は1941年(昭和16年)にオットー・フィッシャーによるドイツ語訳版がシュトゥットガルトの出版社から刊行された。
 こうしたインド人、日本人の活動によって、欧米人にインドの宗教・哲学や日本の仏教・思想がより正確に、またより深く伝えられていった。

 次回に続く。

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