ほそかわ・かずひこの BLOG

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アイヌ施策推進法11~民族と先住民族の定義

2019-05-31 09:32:07 | 時事
●民族と先住民族の定義

◆民族の定義
 アイヌ協会は「アイヌの血を引くと確認された者」等をアイヌとする。またアイヌに関する法律は、アイヌを民族と呼んできた。だが、そこには、民族の定義はない。そもそも民族とは何か。
日本語の「民族」には、(1)国民国家の国民(nation)、(2)国民国家内部におけるエスニック・グループ(ethnic group)、(3)国民国家を形成する以前のエスニック・グループや部族等の集団――という3つの意味がある。
 アイヌを民族と呼ぶ場合、上記のうち(1)の国民の意味は当てはまらない。国民とは、日本国籍を持つ者をいう。アイヌは日本国籍を持つ人々の集団であるから、日本国民とは別の集団ではない。アイヌ系日本国民である。民族と呼ぶとすれば、(2)のエスニック・グループの意味となる。
 では、エスニック・グループという意味での民族とは、どういう集団か。
 知恵蔵は、民族について次のように解説している。「文化、言語、生活様式などの特定の要素を絆として共有し、「われわれ」という意識を持った人間集団。(1)文化、宗教、言語、生活様式、肌の色など身体的形質を標識として、他集団との相違を確認できる客観的な側面と、(2)歴史意識、利害関心、未来志向などを介して、集団に共属しているという意識や感情の主観的な側面がある」と。
 これは、民族には客観的な側面と主観的な側面があるという説明である。
 ブリタニカ国際大百科事典は、より詳しく、次のように解説している。
 「一定地域に共同の生活を長期間にわたって営むことにより、言語、習俗、宗教、政治、経済などの各種の文化内容の大部分を共有し、集団帰属意識によって結ばれた人間の集団の最大単位をいう。文化の共同体としての意味合いが強い点で、種族,部族の概念とは異なるが、しばしば混用されてきた。人類学では、種族、部族を地縁集団の最大単位とするのに対し、民族はそれよりもさらに統合レベルの高い、人口や領域規模の大きい単位として、さらにしばしば国家を形成する単位として区別されることが多い。しかし実際には、人口規模あるいは社会的勢力の小さい集団を少数民族と呼び、また言語や帰属意識などを共有しない集団も含めたりすることから、民族はきわめて包括的な概念であるといえる」と。
 基本的には「言語、習俗、宗教、政治、経済などの各種の文化内容の大部分を共有し、集団帰属意識によって結ばれた人間の集団」という規定であり、前半は客観的側面を示し、後半は主観的側面を述べている。だが、最後の一文に「言語や帰属意識などを共有しない集団も含めたりする」と書かれているように、言語、習俗、宗教等の文化要素や集団的帰属意識を欠いている場合でも、ある集団を民族と呼ぶことがある。それゆえ、民族には基準があってないようなところがあり、文化要素を欠いていても、ある集団が民族を自称することができたり、また帰属意識を欠いていても、第三者がその集団を民族とみなすこともできてしまうということである。
 それだけに、法律に日本国がアイヌをエスニック・グループとしての民族と認め、これを保護する対象にするとすれば、何を以って民族と判断するかを明示する必要がある。アイヌを自称するアイヌ系日本国民の主観的な意識の尊重に傾き、客観的な要件を軽視すれば、アイヌの認定の現状は正されない。

◆先住民族の定義
 法律上、アイヌを民族と規定することと、これを先住民族と規定することは別である。
2007年の国連宣言も2008年の国会決議も先住民族とは何かについての明確な定義がない。2019年のアイヌ施策推進法は、アイヌを先住民族と規定したが、民族についても、また先住民族についても、定義がない。
 国際労働機関(ILO)は、1989年(平成元年)6月27日に「独立国における原住民及び種族民に関する条約」を採択した。ILO条約第169号と呼ばれる。日本はこの条約を批准していない。ここで原住民とはindigenous peoples、種族民とはtribal peoplesの訳である。2007年の国連宣言における先住民族は、indigenous peoplesの訳だから、これとILO条約第169号における原住民は、英語では同じ言葉である。
 ILOの原住民種族民条約は、第1条にて、適用対象を次のように定める。
 「(a) 独立国における種族民で、その社会的、文化的及び経済的状態によりその国の共同社会の他の部類の者と区別され、かつ、その地位が、自己の慣習若しくは伝統により又は特別の法令によって全部又は一部規制されているもの
 (b) 独立国における人民で、征服、植民又は現在の国境の確立の時に当該国又は当該国が地理的に属する地域に居住していた住民の子孫であるため原住民とみなされ、かつ、法律上の地位のいかんを問わず、自己の社会的、経済的、文化的及び政治的制度の一部又は全部を保持しているもの
2 原住又は種族であるという自己認識は、この条約を適用する集団を決定する基本的な基準とみなされる」。
 日本はこの条約を批准していないが、アイヌがここにいう原住民(=先住民族)に当たるかどうかは、「征服、植民又は現在の国境の確立の時に当該国又は当該国が地理的に属する地域に居住していた住民の子孫であるため原住民とみなされ、かつ、法律上の地位のいかんを問わず、自己の社会的、経済的、文化的及び政治的制度の一部又は全部を保持しているもの」といえるかどうかによる。
 アイヌの歴史の項目に書いたように、北海道におけるアイヌは、ここにいう原住民(=先住民族)には当てはまらない。和人が北海道に入る前にアイヌが先住していたとは断定できず、むしろ和人のほうが先住していたと考えた方が合理的である。

◆公的認定制度が必要
 先に書いたように、アイヌは民族であるかどうかの判断のもとになる民族の定義のないまま、アイヌは法律上、民族と規定されてきている。また、アイヌを先住民族とみなし得る歴史的な事実はない。それにもかかわらずアイヌは、この度、新たな法律に先住民族と規定された。
 最大の問題は、ある人がそのアイヌであるかどうかを認定するのが国や地方自治体ではなく、北海道アイヌ協会だということである。法律にアイヌは一個の民族だと規定するのであれば、その集団の中に誰が含まれるのかを認定する者は、公的機関でなければならない。
 アイヌと認定された者には、保護のために税金がつぎ込まれる。その税金が適切に使われるためには、国や地方公共団体等による公的認定制度が必要である。そして、公的機関が認定するためには、アイヌであるか否かを判定する基準が必要である。
 アイヌ協会は、「アイヌの血」を引くかどうかを確認しているとし、家系図、戸籍、除籍謄本等を判断資料としているというが、それらを判断資料とする場合は、公的機関による検証が必要である。また、先祖の誰かにアイヌがいれば、何代かの間に非アイヌと結婚を繰り返した子孫でも、アイヌとみなすのはおかしい。両親がアイヌの子供までとか、父親がアイヌの子供までとかに限定すべきである。そうした一定の基準を設けるべきである。

 次回に続く。

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