ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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「改憲阻止」が国民の命より重要か~百地章氏

2020-02-29 09:37:47 | 時事
 本年1月、中国で新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大するなか、中国・武漢市から政府のチャーター機で帰国した邦人のうち2人が当初、検査を拒否した。これをきっかけに、国民の権利を一時的に制限してでも公益を守る必要性を唱える声が上がった。
 日本維新の会の馬場伸幸幹事長は、「『このようなことがあったから緊急事態条項を新設しなければならないのだ』という議論を活発に行えば、国民の理解も深まるのではないか」と、1月28日の衆院予算委員会で言及した。安倍晋三首相は「緊急事態条項を含め、国会の憲法審査会で与野党の枠を超えた活発な議論が展開されることを期待する」と答えた。
 自民党の伊吹文明元衆議院議長は、二階派の会合で、発症前の経過観察に強制力がないことに触れ、「公益を守るために個人の権利をどう制限していくか、緊急事態の一つの例として、憲法改正の大きな一つの実験台と考えた方がいいのかもしれない」と語った。
 これに対し、自民党の石破茂元幹事長は、2月3日、BS-TBS番組で、与野党の一部から憲法改正による「緊急事態条項」創設を訴える意見が出ていることについて、「これに悪乗りして、憲法(改正)に持っていくつもりはない」と述べた。
 2月4日、衆院予算委員会で国民民主党の後藤祐一氏は、石破茂氏が「悪のり」と発言したことなどを挙げ、安倍首相の見解をただした。首相は、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにした緊急事態条項新設に関する憲法改正議論について「国民の命と健康、平和な暮らしを守るために何が必要かということは、憲法との関係性があるかないか関わりなく検討していくべきだ」と述べた。
 一方、公明党の山口那津男代表は、記者会見で「現行法でできる限りのことをやり、対応できないときは立法措置を検討するのが議論の順序だ」と述べ、改憲論を牽制した。
 わが国では、憲法改正に関する議論をすると、野党の多数が議論自体を封じようとする。また、与党の一部を成す公明党は、消極的な姿勢を示す。そのため、まともな議論が進まない。東日本大震災では、憲法に緊急事態条項がないため、現行法の規定に縛られて、速やかに適切な対応が出来ずに多くの犠牲者を出した。このことの反省から、緊急事態条項を新設すべきという議論が起こった。共産党以外は、賛成した。ところが、しばらくすると、のど元過ぎ得れば熱さ忘れるで、この議論も止まってしまった。大震災から9年を迎えようとしている現在、南海トラフ、首都直下型大地震等に備えて、憲法に緊急事態条項を設けようという議論は、国会では進んでいない。
 自民党は、改憲4項目の一つに緊急事態条項の新設を挙げている。憲法学者の西修氏によると、1990年以降に制定された世界各国の104の憲法のうち、緊急事態条項を欠いている憲法は皆無である。感染症についても、エチオピア、ホンジュラス、ヨルダン、ネパール、台湾、トルコなど、少なくとも18カ国・地域の憲法に「一定の地域に予想を超えて発生する感染症」(エピデミック)、「世界的に流行する感染症」(パンデミック)が、戦争や内乱、大規模な自然災害などとともに、「国家的緊急事態」のなかに包摂されている。ネパールでは、2015年の新憲法で「重大な緊急事態」にエピデミックが挿入された。またトルコでは、2017年の改正により、憲法にパンデミックが加えられた。
 1月27日新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大の中、中国・武漢市からチャーター機で帰国した邦人のうち2人が当初、検査を拒否した。法律上、検査を強制できないので、2人は自宅に帰った。当局が説得を続け、ようやく検査を受けてもらうことができた。
 この問題をきっかけに憲法に緊急事態条項を設けるの対応をめぐって国会で改憲論議が起きた。現行憲法では、公緊急事態であっても、法律に定めること以外は、益を守るために国民の権利を一時的に制限することができない。感染症の場合、一部の人々の権利を守ることにより、大多数の国民の生命と健康を危険にさらすことになる。
 国士舘大学特任教授、日本大学名誉教授・百地章氏は、産経新聞令和2年2月12日付の記事で、新型コロナウイルス問題に関して、法律では対処できない想定外の事態に備えて、先進国ではすべて認められている憲法上の緊急権について、積極的に議論を始める必要があるという意見を述べた。
 「今後、想定外の事態が発生した場合、現在の法律だけで本当に国民の生命や安全は守られるのか、憲法改正も視野に入れて法整備を行うことこそ、改憲の発議権を有する国会に課せられた重大な責務ではなかろうか」。
 今回、政府チャーター機による帰国邦人の件以外に、横浜港に着岸した英国籍大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の一時的隔離も問題になった。百地氏によると、現在の感染症法では、2類感染症に指定された新型コロナウイルス肺炎の発症者については、1類感染症のエボラ出血熱などと違って強制的な隔離は認められていない。そのため、万一、無理やり施設や船を離れようとする人が出たとしても、現在の法律ではそれを阻止できない。また、強制的に隔離を続けようとすれば、憲法の保障する「居住・移転の自由」(22条1項)や「人身の自由」(31条)との関係が問われることになる。
 百地氏は、「法律の定めも正当な根拠もないまま強制的に隔離することは憲法違反だが、例えば重篤な感染者が無理やり施設から離脱しようとしたときはどうするのか。このような場合、公益つまり多くの国民の生命と健康を守るため、明確な法的根拠はなくても離脱を阻止せざるを得ないケースも出てこよう」と指摘している。そして、「国会は速やかに現行法制度の不備や欠陥の是正に取り組むべきである。さらに、法律では対処できない想定外の事態に備えて、先進国ではすべて認められている憲法上の緊急権についても、積極的に議論を始める必要があると思われる」と述べている。
 先般掲示した西修氏の提案とともに、国会議員はこうした専門家の見解をよく理解して、国家・国民のために務めを果たしてもらいたい。
 以下は、百地氏の記事の全文。 

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●産経新聞 令和2年2月12日

国民の命より「改憲阻止」が先か 国士舘大学特任教授、日本大学名誉教授・百地章
2020.2.12

 2月10日現在、新型コロナウイルスの感染者は中国本土で4万人を超え、死者も増え続けている。死者数は17年前の重症急性呼吸器症候群(SARS)を超えた。
 このような中で、新型肺炎の発生地、中国・武漢市からチャーター機で帰国した邦人のうち2人が当初、検査を拒否したことなどから、緊急事態の対応をめぐって国会で改憲論議が起きている。

≪緊急事態論ずるは悪乗りか≫
 自民党の伊吹文明元衆議院議長は二階派の会合で、発症前の経過観察に強制力がないことに触れ、「公益を守るために個人の権利をどう制限していくか、緊急事態の一つの例として、憲法改正の大きな一つの実験台と考えた方がいいのかもしれない」と語った。
 これに反論した立憲民主党の枝野幸男代表は記者会見で「拡大防止の必要な措置はあらゆることが現行法制でできる。憲法とは全く関係ない。人命に関わる問題を悪用しようとする姿勢は許されない」と断じた(毎日、2月5日付)。
 また、自民党の石破茂元幹事長も、この問題で与野党の一部から憲法改正による緊急事態条項創設を訴える意見が出ていることについて「これに悪乗りして憲法(改正)に持っていくつもりはない」と述べたという(ネット版「産経ニュース」2月3日)。
 もちろん、枝野代表の言うように現行法律の枠組みですべて対処できればそれで良かろう。例えば、先の「検査」や「強制入院」については、その後政府が新型肺炎を検疫法の「検疫感染症」、感染症法の「指定感染症」に指定したことから可能になった。
 しかし、発症していない感染者は対象外であり、一時的な「隔離」にしても現行法では強制できない。となると、現行法の枠組みそのものを見直す必要はないのか。
 にもかかわらず議論することさえ許さず、頭から「悪乗り」と決めつけるのはいかがなものか。国民の命よりも「改憲阻止」を優先しているといわれても仕方あるまい。今後、想定外の事態が発生した場合、現在の法律だけで本当に国民の生命や安全は守られるのか、憲法改正も視野に入れて法整備を行うことこそ、改憲の発議権を有する国会に課せられた重大な責務ではなかろうか。

≪「隔離」と居住・移転の自由≫
 今回、特に問題となったのが、武漢から帰国した邦人の一時的隔離の問題であった。現在の感染症法では、2類感染症に指定された新型コロナウイルス肺炎の発症者については、1類感染症のエボラ出血熱などと違って強制的な隔離は認められていない。そのため、本人の同意により、民間のホテルや国の施設に収容されたのだが、長い隔離に不満を持つ人はいるという。
 また、横浜港に着岸した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でも、新型コロナウイルスの感染者が出たため、乗客・乗員約3700人が14日間も船内待機を要請されたが、法律上、強制的隔離はできない。そこで検疫法に基づき診察のための停留という形を取ったようだ。
 となると、万一、無理やり施設や船を離れようとする人が出たとしても、現在の法律ではそれを阻止できないだろうし、もし強制的に隔離を続けようとすれば、憲法の保障する「居住・移転の自由」(22条1項)や「人身の自由」(31条)との関係が問われよう。
 天然痘などの「法定伝染病」(現在の1類感染症)に罹患(りかん)した者を強制的に隔離することは、従来法律で認められており問題ない。しかし、発症前の者まで経過観察のため隔離すべきかどうか。米国、フランス、オーストラリアなどでは、中国・武漢からの帰国者について経過観察のため国の施設などに隔離したと報道されており、わが国でも改めて検討する必要があろう。
 もちろん、法律の定めも正当な根拠もないまま強制的に隔離することは憲法違反だが、例えば重篤な感染者が無理やり施設から離脱しようとしたときはどうするのか。このような場合、公益つまり多くの国民の生命と健康を守るため、明確な法的根拠はなくても離脱を阻止せざるを得ないケースも出てこよう。

≪憲法上の緊急権論議も始めよ≫
 この点、現行法制ですべて対応できるとし、議論そのものに反対している人々は、どうするのだろうか。
 まさか、「超法規的措置で」とは言うまい。英国や米国のように不文の法(ロー・オブ・ネセシティー=必要の法)の認められていないわが国では「成文法」の根拠なくして強制措置など取れない。もしそれでも強行すれば憲法違反となり、「立憲主義」を踏みにじることになるはずだからだ。
 それ故、国会は速やかに現行法制度の不備や欠陥の是正に取り組むべきである。さらに、法律では対処できない想定外の事態に備えて、先進国ではすべて認められている憲法上の緊急権についても、積極的に議論を始める必要があると思われる。(ももち あきら)
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関連掲示
・拙稿「憲法に感染症対応を含む緊急事態条項創設の議論を~西修氏」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/4272d2fca38656e33340b0b7126434c8

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