ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

出版から5年

2016年08月17日 | ストレスフリーの資産運用

  リオでは嬉しいメダル獲得がつづいていますね。でも何故か銅メダルコレクターなのがちょっと残念!

   それでもメダルはメダルだし、世界に誇れると思うのですが、銅メダルを取った日本選手の多くが泣きながら「申し訳ありません」というのがちょっと気になります。

   それにしても台風一過の暑さは尋常じゃありませんね。4年後は今より暑くなっているでしょうから、とても心配です。リオよりもっと深夜に競技をやればいいのではと思ってしまいます。


   私の著書が出版されてから今月で5年が経ちました。購入していただいた方に、お礼申し上げます。

  その間の出来事を簡単に振り返りながら、著書に書いてあった林の見立てはどうだったのか、検証してみることにしました。

  著書のタイトルは「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」という長たらしくて、ちょっとヘンなタイトルでした。私の案である「ストレスフリーの資産運用」は却下され、ダイヤモンド社がつけてくれたタイトルです。もっとも出版後は、刺激的だし満足できるタイトルだと思っています。

  資産運用対象としてアメリカ国債というのは世界標準の代表的リスクフリー資産なのですが、5年前の日本ではそういう認識はほとんどなかったようです。みなさんは最初どう思われたでしょうか。

   再三申し上げますが、私は日本が大好きな日本人で、この先も日本から出て海外に暮らすつもりなど毛頭ありません。ただ、このお粗末な日本政府とは心中したくない。そのための方策としてアメリカ国債の投資が安全でよいと、みなさんにお薦めしているのです。

  「備えあれば憂いなし」、ストレスフリー投資の神髄が米国債への投資です。

  著書の主旨に対して最初に巻き起こった議論は、「アメリカはこの先何十年も本当に安全なのか」という議論でした。不安の理由の第一は、アメリカがまだリーマンショックから立ち直る最中だと見られていてたということです。

   2011年、世の中では「アメリカにも日本と同じ失われた10年が来る」という意見が支配的でした。私がそれを聞いて思ったのは、「バブル崩壊以降の日本の凋落を悔しく思っている人たちが多いな」、ということでした。バブルの後始末で後れをとっている日本をしり目に、アメリカは先端技術やIT分野で世界をリードし先進国では珍しいほどの成長を遂げていました。ところが、いい気になってサブプライムの証券化商品でバブルを作ってしまい、それがはじけた。言葉は悪いですが、ざまーみろ、なのでしょう。

   そこに拍車をかけたのが理由の第二、いわゆる「財政の崖」というアメリカ議会内の「政争」です。それが日本から見ると単なる政争ではなく、アメリカ財政が深刻な危機を迎えていると誤解されたのです。その後も何度となく崖はやってきて、アメリカは落ちる寸前に回避しています。あたりまえです。財政問題なのではなく、共和党と民主党の政争にすぎないからで、何度か崖の淵を見た後は、さすがに単なる政争だと市場も理解したようです。

  現在は、アメリカ経済が失われた10年の中にいるとか、財政の崖から落ちるかもしれない、などと言う人はいなくなりました。

   そうした見当違いの議論がどこから起きるのかと言いますと、私が常々申し上げているように、金融・経済問題を数字で見ていないで、好き嫌いの感情や当て推量だけで見るからです。リーマンショックのマグニチュードも財政の崖問題も、数字でしっかり検証していれば深刻な問題などでないことはすぐわかったはずです。

   もっともリーマンショックはいまだに「100年に一度の」という枕詞がつく大金融恐慌だったという論調が支配的です。1930年代の大恐慌時の失業率は25%、リーマンショック時は10%。数字だけみれば、半分以下でしかありません。しかもリーマンショック後は、わずか数年で5%という絶好調レベルに回復しています。大恐慌のときは10年後、第2次大戦がはじまる寸前まで15%程度の失業率が続いていました。だから真正100年に一度の大恐慌なのです。

   では、アメリカはこの先も本当に安全なのでしょうか。今一度検証してみましょう。

 著書では将来を見るのに、以下の点をもって日本よりアメリカの方が遥かに安全だと言っていました。

 1.日本の安全保障はアメリカに依存

これはトランプが大統領にでもならない限り、ずっと有効です。彼は日米安保の主要目的の半分は、日本がアメリカに刃向かわないための歯止めだということを知らないのです。凶暴なアベチャンと核武装が持論の防衛大臣コンビの恐さを知らないのです。

 2.国債の格付け ムーディーズとS&P

アメリカ Aaa、AA+ で変化なし。  日本は11年時点でAa3、AA-であったものが、現在はダウングレードされてA1、A+。要するにダブルAがシングルAになってしまった。ちなみに累積債務の対GDP比率の5年間の変化はOECD統計によると、

      11年  16年

アメリカ  108%  111% +3

日本   209%  232%    +23

日本のひどさは留まるところをしりません。

3.日本の人口は減り、アメリカは増加

こんなことを言うと嫌われそうですが、少子高齢化対策が最高うまくいったとしても、効果が出るのは30年後、それが数字から見える不都合な事実です。

4.日本の若者の就職人気企業ランキングは1973年も2011年も、2016年もほとんど変化なし

あきれるほどの保守性を若い人が持っているのは、嘆かわしい限りです。

5.産業の未来を占うベンチャーキャピタル投資額の日米較差  

著書にある08年の調査では、日米のひらきは60倍と推定された。現在も継続する別の調査(Field Management Capital)では11年時点での30倍が、14年の時点では50倍にひらいている。投資額の数字は定義によって異なるため正確な比較はできませんが、同調査の08年では20倍のひらきがありましたので、それがどんどん広がっています。

6.アメリカ人は英語を話すが日本人はダメ、という状況に大きな変化はない


   こうした比較は実に単純な比較ですが、将来の経済成長力や安全性を予見するには有効です。それでもアメリカより日本が安全だという方がいらっしゃれば、どうぞコメント欄でご指摘ください。数字で議論しましょう。


  では、11年時点の将来見通しと決定的に違った、あるいは私が完全に見通しを誤った事項があるかないかを見てみます。

   自己申告しますと、11年時点で私が最も予想できなかったことは、12年年末の「アベノミクス」導入です。その結果が円安と株高につながりました。これについてはもちろん誰もが予想はできなかったし、新たな要素なのですが、問題はその後の展開です。

   私は導入当初は長続きしないと思っていましたし、異次元の金融緩和などという無謀な緩和策は打上げ花火の効果だけで、長期的に続けられないし日本財政の破たん時期を早めるだけと思っていました。

   確かに政策目標であるデフレの克服はできなかったし、今後もできそうにありません。しかし、円安が株高を呼び込んだため大歓迎され、財政は金利低下のお陰で長持ちしています。

  もちろん財政問題は解決したわけでもなく、ひたすらマグマを溜め込んでいるだけなので、破たんの威力は大きくなるのですが、今はその端緒も見えてきていません。

 以上がたぶん最も間違った部分だと思います。

 つづく

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12 コメント

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Unknown (Owls)
2016-08-19 12:21:23
こんにちは

仮に数字で理論的に考える人を良識派と呼称しますと、
良識派の最大の弱点は言ってることが正論でも意味がわからんことでしょう。

例えば、異次元緩和を円安にもインフレならんし効果が無いと批判します
それでいてハイパーインフレに備えてドルを持て言います
普通の人なら少しのインフレにならんのにハイパーインフレになんてならんと思います
緩和をしても円高になるのならドルなんて持てば危ないと思うでしょう
第一印象は何だか矛盾したことを言ってるように思われるのです

インフレにならんことを批判しながらハイパーインフレを
心配するのは多くの人には謎の理論展開なのです
多くの良識派の方々は残念ながらそこら辺の説明はほとんど上手く出来ていません。
例え正論でも意味が伝わらなければ間違いと思われてします

アベノミクス・異次元緩和の支持者の説明は簡単です
大規模緩和をしなければもっと円高になって大変なことになった
日銀が国債を大量に買っても何ともなかったじゃないか
現実を見ろと説明すれば間違いであっても多くの人に納得を得られます

ここら辺がアベノミクス・異次元緩和が支持されてる理由なのでしょう
返信する
早いもので、もう5年ですかー (Genrecht)
2016-08-19 21:16:00
林さんの著書を読んで、4年半になろうとしています。色々投資の本を読みましたが、ストレスフリーの米国債(ナマ債券)をきちんと推奨する一般向けの本は、林さんの著書と、1〜2年前出版された本の後半部のみでした(書名を忘れてしまいましたが、裕福層はなにより安全性を求めて米国債を持つので米国債を持とうという内容でした)。
それ以外では、たまに雑誌でゼロクーポン債を候補のひとつに推奨するFPがいるくらいですが扱いが小さいです。ファンド・ETFの方がいいと言い切っている人の方が多い。それくらいにまだまだやはり認知されていない!?

日本人は、仕事はローリスクを望む人が多いですが、投資はハイリスクを望む人がそれなりにいそうなところが笑えませんか?(世界分散インデックス投資がハイリスクかローリスクかは別に置いておいて。)

さて、ご著書はありがたいご教示だったのですが、自分が米国債を買い始めた時よりも、さらにさらに金利が下がってくるような事態になろうとは、さすがに予想していませんでした。その時の、ダンベル型ポートフォリオをそのまま維持していればどんなに良かったか(爆)。

金利の大きなサイクルは、数十年単位と指摘している人がいました。20年以上かけて金利が下降してきていますので、これからまた何年〜数十年かけて金利が上がってきたにしても、一進一退で、満足のいく(昔のような)イールドで複利効果が得られる前に引退を迎える人が多いんじゃー!?と危惧しています。

と言うことで、MMFのみでかなり金利が上がるのを待つ(今は待ってます)よりも、待機資金を比較的短期で確保して→強制的に毎年超長期を買うダンベル型ポートフォリオにするべきか、と悶々とする今日この頃です。いかがでしょうか?
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Owlsさんへ (林 敬一)
2016-08-20 15:05:17
Owlsさんのご意見、そのとおりですね。

ハイパーインフレと今日のデフレを、整合性をもって説明するのはとても難しいですね。

私はアメリカシリーズの次には日本経済と財政金融政策について書くつもりにしていますので、Owlsさんの指摘されている部分についても私の見方を書くようにします。
納得できる説明ができるかはわかりませんが。
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Genrechtさんへ (林 敬一)
2016-08-20 15:11:50
>ストレ スフリーの米国債(ナマ債券)をきちんと推奨する一般向けの本は、林さんの著書と、1〜2年前出版された本の後半部のみでした
  
そうですか。
いまだに認知度は低いですね。
基本的に売る側に儲けが少ないので、そうなるのでしょうか。

>MMFのみでかなり金利が上がるのを待つ(今は待ってます)よりも、待機資金を比較的短期で確保して→強制的に毎年超長期を買うダンベル型ポートフォリオにするべきか、と悶々とする今日この頃です。いかがでしょうか?

このご質問はこれから終わろうとしている世界的低金利の話に関連しています。

金利の的確な見通しなど不可能だと考えリスクを分散するなら、Genrechtさんが書いているような、

1.超長期債を毎年計画的に買う

もしくは、

2.待機資金に金利を付けるために、数年程度の満期の債券を、償還期限をずらして買っておく。満期が来るごとにまた考える。

といったこともありえると思います。

返信する
早いですね・・・。 (Jake Jack)
2016-08-20 19:36:42
もう、5年になりますか。
林先生のご著作に出会ったのは、東日本大震災後の超円高で、外貨買おうかなと思っていた時期なので、ほとんど出版直後だったと思います。
題名が元のままだったら、多分、読んでなかったでしょうね。出版社の方々に感謝です。
当時、安全資産といえば、円預金とゴールドだと思っていました。ただ、日本については将来に不安を感じていたので、外貨を買おうと思っていました。ゴールドについては、ここの掲示板で皆様のご教示をいただく前は、安全資産と思っていましたが(笑)。

ご著作を読んだ後に、ドル転したのはよかったのですが、そのドルで買ったのは米国株や、ハイイールド債のETFやブラジル株のETFなど・・・。その時に素直に米国債を買っていれば、と思います。
その後に、林先生のブログも読むようになったので、今までの売買で、利益は一応、出せています。林先生には本当に感謝です。

今後の世界経済についてですが、個人的に、デフレからインフレ、金利も上昇していくと考えています。ただ、日本や中国経済のハードランディングが起こった場合は、どうなるか全くわからないです。

是非とも、林先生のご見解をうかがいたいです。
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必要な情報とそうでない情報を見分ける力 (ぽんぬき)
2016-08-21 13:08:34
こんにちは。著書を発行されて5年になるのですね。私は3年ほど前に購入し、その後米国債に興味を持つようになり「ストレスフリーの資産運用」というスタイルが自分にとってベストであると気付きました。
大手証券会社のセミナーに参加したり、HPの金利や販売価格をチェックするようにアンテナを張り出したのも、林先生のご著書のおかげです。
私は名古屋の大きな書店などに時折出向く事がありますが、どちらかというと本は置いてない場合のほうが多いです。7:3ぐらいの割合でしょうか。金融本コーナーに立ち寄るの人達も、たまにサラリーマン風の人か退職前後の方だろうなという人達ばかりです。私が初めて見た時は、一際輝くタイトルがありパッと手に取った覚えがあります。そこには、数字と根拠で示された世界が、今時めずらしく著者の損得なく書かれている印象を受けました。
私がご著書を購入後、アベノミクスの円安株高が本格的に始まり日銀の金融緩和や米金利上げの発表と世界が目まぐるしく変わり、債券の販売価格高騰のためなかなか米国債購入というタイミングに出会えてはいません。米国債の金利も、地政学リスクの引き金と米国経済の同行によってゼロに近づく可能性も否めませんし、ひょっとして米国1人勝ちという状況が今後も20年30年と続く可能性も否定できません。ただ、長期戦略として米国債保有という視点は5年前でも現在においても個人におけるベストに近い選択眼であると、ただ敬服するばかりです。
11月の米大統領選挙で一荒れするとは思いますが、一つのタイミングかもしれないと、先生のブログを拝見し引き続き勉強させて頂きたいと思います。長文失礼しました。
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Jake Jackさんへ (林 敬一)
2016-08-22 10:55:29
コメント、ありがとうございます。

早めに私の著書に出会ってよかったですね。
米国債投資にまで至らなかったのは残念ですが・・・

>今後の世界経済についてですが、個人的に、デフレからインフレ、金利も上昇していくと考えています。ただ、日本や中国経済のハードランディングが起こった場合は、どうなるか全くわからないです。

はい、私なりの見通しを今後書いていくようにします。
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ぽんぬきさんへ (林 敬一)
2016-08-22 10:56:38
コメント、ありがとうございます。

3年ほど前に読んでいただいたとのこと。

そのあたりから以降、米国債投資になかなか踏み切れないのはしかたないですね。

>そこには、数字と根拠で示された世界が、今時めずらしく著者の損得なく書かれている印象を受けました。

ありがとうございます。

この方針は今後もしっかりとキープするつもりです。

返信する
いつもありがとうございます! (なんだかんだ)
2016-08-22 16:22:59
林さん、皆さん、
こんにちは。
いつも欠かさず拝見しています。こんなに長きに渡りブログを頻繁に更新して下さり、本当にありがとうございます。ためになる情報、ホッとする話題、思いがけない気付き…などなどブログを訪れるのが楽しみですが、運営される林さんはとても大変だろうと思います。いつもありがとうございます。
私も数年前にご本に出会い、ドル転したまではよいのですが、米債購入待ちの状態です。今後の林さんからの金利についてのお話を参考にして、運用を定めようと思います。
今後ともよろしくお願いします。
返信する
なんだかんださんへ (林 敬一)
2016-08-23 22:00:37
いつもブログを熱心にお読みいただき、ありがとうございます。

>ためになる情報、ホッとする話題、思いが けない気付き…などなどブログを訪れるのが楽しみですが、

そう言っていただけるのを励みにブログを更新しています。

>運営される林さんはとても大変だろうと思います。

大丈夫ですよ、楽しんで書いていますので、どうぞご心配なく。

自分のライフワークだと思っています。
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