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日銀包囲網

2016年08月10日 | 日本経済コメント

  それにしても暑い。きっと「こんなに暑い日は外に出ず、オリンピックでも見ていろ」ということなんでしょうが、お仕事のある方はそうはいきませんよね。

  おとといは5時前に起きて、男子の体操団体競技を見ました。目をこすりながら順位を見ると、えっ、サイテー。やっぱり予選の通りかと思いました。ところがコーヒーを準備して飲むころから日本チームはどんどん順位を上げ、あと二つを残して1位に立つという驚きの追い上げ。観戦に力が入ってきて、着地が成功するたびについつい選手と一緒にガッツポーズをしてしまいました。

   「金メダル、オメデトウー!」

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  さて、今回は日本です。日銀に包囲網が築かれつつあるようです。凶暴なるクロちゃんも、今年に入ってからは手を打つたびに市場から逆襲され、さすがに打つ手がないことがバレつつあります。いったいいつまでファイティング・ポーズを取り続けるのでしょうか。残念ながら彼は進むことも引くこともできず、最後は弁慶のような立ち往生以外に道はないと私は思っています。

  マイナス金利を導入して以来、経済団体のトップ金融関係者、そして学者・研究者などからも日銀に対する批判の声が大きくなってきています。そうした意見は政権内部日銀内部でも出ていることが、漏れ伝わってくるまでに至りました。

  そして今朝のニュースでは個人もマイナス金利の恐ろしさを感じマインドが委縮しているとのこと。マネックス証券による最近のアンケートによると、去年より消費を抑えている人が昨年同時期の4倍にも上っているとのこと。批判の声を上げているのは著名な有力者や団体だけでなく、声なき個人や中小企業も日銀のマイナス金利に悪影響を受け、ネガティブな反応を示しているという報道がなされていました。

  一方、当のマスコミでも日銀批判が次第に顕在化しつつあります。どちらかと言えば大政翼賛会寄りの日経ですが、8月7日朝刊トップ記事のタイトルは「ほころぶ鉄の三角形」で、政府・日銀・銀行間に築かれた鉄のトライアングルが崩れてきていることを記事にしていました。

   根本原因は黒田日銀総裁の「2年、2倍、2%」の宣言通りにことが進まないからですが、今回の批判のきっかけは1月のマイナス金利導入宣言以降、これまでとは逆に株式や為替相場が言うことを聞かなくなったこと、そして銀行収益が悪化したことです。さらに銀行界からの反発を象徴しているのが三菱UFJ銀行による国債入札プライマリー・ディーラー返上です。

  記事には三菱UFJ側の返上理由が詳しく述べられています。かいつまんで述べますと、三菱は会計士から「マイナス金利の国債を引き受けてはすぐ日銀に売却し損失を回避しているが、すぐに売るというのは短期保有であり、長期保有の会計処理とは異なる処理をする必要がある」。つまり保有国債の値洗いをする必要があると指摘されたのです。

  国債を償還まで保有するのであれば、途中の相場変動は会計上無視できますが、短期保有だと金利が上昇すると評価損を計上しなくてはいけないのです。だからといって、マイナス金利の国債を償還まで保有することは損失が確定してしまうため絶対にできません。

  プライマリー・ディーラーであるかぎり強制的にマイナス金利の国債を買わなくてはならず、一方では会計上損失を計上する可能性が生じる。その板挟みで出した結論が「資格返上」というごくまともな反応でした。

  会計処理は三菱UFJだけでなく、他のメガバンクを含め銀行一般に言えることで、今後こうした動きが他行でも出る可能性があります。

  この三菱UFJに対し財務省は猛反発して、日経記事の小見出しには財務省側のコメントとして「入札資格返上は裏切りだ」とまで書かれています。

  アベノミクスを金融面で支えてきた政府・日銀・メガバンクの運命共同体とも言うべき「鉄のトライアングル」にほころびが生じたというのが記事の主旨です。

  もちろんそのとおりですが、私は三菱UFJはすでに数年前から生き残りをかけたポートフォリオの見直しをしていたため、今に始まったことではないとみています。彼らは長期国債の金利が低金利になり始めたころから、国債のポートフォリオを残存期間が短いものにシフトしてきました。短期化ということは国債の信用力に疑義を感じ価格の暴落に備えていたということです。

  もちろんこうした自己防衛の動きは他行にも見られることです。別の報道によれば、みずほやりそなは、保有国債の3分の1を4-6月の3か月間で売却したとのこと。貸し出しや証券業務の収益力に自信のある比較的大手の銀行は国債から距離を置き始め、国債以外に大きな収益源のない地銀などは国債と心中を決め込んでいるというのが現状です。

  その国債も少なくとも金利がプラスでないと、すべての銀行にとり新規保有する意味はありません。経済性だけでなく、ガバナンスの観点からもマイナス金利国債の保有は株主に説明がつかないものになっています。しかし国に頼る以外に道のない地銀などはどうするのでしょう。

  最近、地方にお住まいで商売をされている方からひどい話をうかがいましたので、警告の意味でそれを書いておきます。その方の会社の税理士から聞いたそうですが、「地銀がもうけを確保するために、中小企業に株式などのファンドに投資するための資金を融資している」というのです。融資でもうけ、ファンドの販売手数料でもうける、一粒で2度おいしい商売です。

   しかし顧客にリスクの高い商品を借り入れで買わせるということは、結局相場が崩れると自分にはねかえることになります。バブル時代の二の舞です。80年代の終わりころには、中小企業だけでなく個人に対しても、株式投資やワラント債投資というとてつもない高リスク商品の投資用に、都銀が融資をすることがはやりました。

  日銀がマイナス金利などと言う無理な政策を押し進めると、大手銀行からは見放され、地銀はとんでもない融資にのめりこむことになり、意図したデフレの克服などには一切つながりません。マイナス金利は国債に頼るゆうちょ、かんぽや民間の生損保などの収益も直撃します。

  日銀は7月末の決定会合でETFの買い入れ額倍増という追加緩和策を発表しました。しかし直後に為替は円高に大きく振れ、肝心の債券相場は日銀の意図に反して暴落し、市場関係者は肝を冷やしています。今度からは日銀の決定会合ごとにカラウリをしておいて儲けましょう(笑)。

  一方政府はそれと同時期に公称28兆円規模の経済対策を発表しています。それらに対する海外メディアなどの主な反応をお知らせしておきます。まず政府の経済対策については、

ブルームバーグ;日本政府の対策は「Just the same old thing」 単なる使い古した策だ。真水は4分の1以下しかない

ロイター;90年代から行われ続けた政府の経済対策の真水と公称分をしっかり示し、「これまで続けてダメなものは今後もダメ」

  そして日銀の追加策に関しては、

ブルームバーグ;日銀の黒田氏は「はだかの王様だ」

日経;市場は追加策に国債の暴落で応えた。日経センターが行った計算によると、日銀が16年一年間で買うマイナス金利の国債の損失が10兆円になるとのこと。そのツケはいずれ国民に回ると指摘している。

  日銀は今回の発表の中で、9月の政策会合で現在の緩和策の「総合的な検証」を行うと表明しました。日銀包囲網が敷かれている中でのこの発表が、様々な思惑を呼んでいます。

  日銀を巡る話題については、「ヘリマネ」に関する話題とともに、アメリカシリーズの後にじっくり書いてゆくつもりです。

 

  明日は初めての「山の日」ですね。みなさんはすでに夏休みをお取りですか。それとも山の日やお盆にかけてでしょうか。うちは今年は夏の間に長い旅行はしません。以前お知らせしたとおり家内がキャット・シッターという仕事を始め、夏が一番の書き入れ時のためです。

  私自身は自分の頭を休め読書をするために、すこしばかりブログの更新をスローダウンさせます。どうかご承知おきください。

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