ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金利見通しについて、その6最終回

2014年12月26日 | 2014年の資産運用
  アメリカの金利見通しに関する議論も最終回を迎えました。

  まず前回のおさらいからです。金利を左右する要素を上げて、その中で大事な点を「大きな」という形容詞で強調しました。再掲しますと、

① FRBの米国債買いがストップ(36兆円、金利には大きなプラス

② 来年なかばにFRBの政策金利上げ開始(金利には大きなプラス

③ 海外投資家のうち産油国からの買いが減少する可能性があり売りに回ることもありうる(ロシア保有分12兆円、OPECなどの保有分31兆円、金利にはプラス)

④ 連邦予算の赤字削減による国債新規供給の減少(10兆円、金利にはマイナス)

⑤ 雇用の順調な増加(金利には大きなプラス

⑥ 物価の落ち着き(金利には大きなマイナス

⑦ 世界の中央銀行の政策、日本は緩和継続か増強、中国は緩和、欧州も緩和策増強見込み(おしなべて金利にはマイナス)

そしてまとめとしては「何と言ってもFRBの政策スタンスと雇用そして物価」と述べました。


   では、上記のおおまかな要素を踏まえて来年の長期金利のレベル感をさぐります。

FRBの利上げを年の中ごろと想定して、私の10年物金利の予想レベルは15年中は上が3%前後です。

  今年の予想は、量的緩和終了が不確定だった中で3.5%だったのと比べると、すでに量的緩和策が終了し、利上げがかなりの確度で開始されそうなのに、ずいぶん慎重です。一番の理由は⑥の物価の落ち着きで、それがFRBの政策スタンスにも影響すると思われるからです。

  世界経済はいまアメリカ頼りになっています。来年を概観します。

・ 欧州は底は打っても大きな回復は望めない。むしろさらなる減速リスクから一段の緩和策(国債買い取りなど)がいつ実行されるかに焦点が移っている

・ 中国も間違いなく成長ペースが鈍り、むしろ不動産価格の下落スピードが増すと大きくスローダウンするリスクがあるため、人民銀行が金利引き下げを繰り返す可能性がある

・ 資源国はこれまで述べてきたように産油国であるロシア、中東、中南米、そして石油以外の資源国である南米、オーストラリアなども回復が見込めない

・ 日本は14年が年間通してもマイナス成長となるのはほぼ確定。物価上昇率も毎月低下が継続し、本日発表の11月実績は消費税分を除くとコア指数で前年比がわずか+0.7%まで低下。来年3月に2%には絶対にならない。15年の夏には成長戦略などカラ念仏だということがバレて政策手段が尽きる。もっともバズーカクロちゃんだけは国債ネタが尽きると株を買いまくる暴挙に出て国際的非難を浴び、格下げの主犯となる。財政問題を抱えることから大きな財政出動はできずに、結果として成長率はゼロ近辺に終わる可能性が大きい。
 
  物価を上げて成長を促すはずが、ここまで物価は0.7%しか上がらず成長率はマイナスで「アベノミクスとはなんだったのか」となっている


  要するに15年は頑張るアメリカの足を世界の大どころがみんなで引っ張る図式です。そして上記の見通しには天変地異を始め、国際紛争など様々な外部リスクは加味していません。何故加味しないかの理由は、それらが起こる確率は上昇する一方ですが予測が不可能であること、私が投資を推奨している投資対象が悪材料に反応しやすい株式などではなく、世界が真っ暗になればなるほど光を放つ米国債だからで、世界のリスクなど計算に入れる必要がない投資対象だからです。

  アメリカの金利に戻ります。アメリカだけに頼る世界経済では資源価格を筆頭に一般物価も大きな上昇は望めません。アメリカの物価上昇を抑えているもう一方の国内要因は賃上げの低さです。失業率は大きく改善し、7-9月期のアメリカのGDP成長率はなんと改定値が5%に乗りました。しかしいくら経済が順調だとしても、物価見通しに過熱感が出ないと利上げは急ぐ必要がありません。たとえ6月に利上げが開始されても、その時点で半年後・1年後にかなりの物価上昇が見込まれないと、連続してどんどん上昇させる必要はないのです。政策スタンスがその程度だと、長期金利も簡単には上昇しないと思われるので、私の結論は3%前後がせいぜいだろうと見込んでいるのです。

  
  このところ中央銀行の役割が大きく誤解されています。どこの中央銀行もインフレを煽る役割ばかりが期待されていて、本来の役割である「物価の番人」、つまり物価上昇リスクを早目に抑え込むという最も大事な役割が忘れ去られています。それほど物価が落ち着いているということです。しかし長期ではそうした安易な物価扇動策は裏目にでる可能性は非常に大きいのです。

  以上がアメリカ金利に関する私の見方と、世界の中央銀行への警鐘です。

コメント (9)
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