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アメリカの金利見通しについて、その3

2014年12月13日 | 2014年の資産運用
アクセス数は100万回まであと1,000を切りました。我こそは100万回目だという方、是非名乗り出てください。

  さて市場は為替の大変動に続き原油の暴落ですね。

  アメリカの金利の話が途中ですので続けます。原油の暴落も重要な要素です。

  12月5日の記事「その2」で私は以下のようなまとめを書いています。来年に向けての世界経済、米国経済を見通す上でも大事なポイントですので、まずはそのおさらいをします。

引用

・世界経済の動向・・・欧州経済が低迷気味で、物価上昇もゼロ近辺。中国の成長鈍化。IMFの世界経済予測も今年より来年の成長率鈍化を見込む。これらはリスク資産か安全資産かの選択に影響し、米国債への選好は継続しそう

・ドルをめぐる為替動向・・・経済の好調から株も買われ、世界経済のリスク回避から債券も買われる。通常は一致して買 われるより、片方が買われ片方は売られるが、投資家が世界に及ぶため、このような動きになっている。ドルの選好は米国債需要につながる。ユーロは今後さら に緩和策が実施されるため、対ドルでは弱含む。安全通貨と言われた円は危険通貨になりドル高の流れに変化なし

・資源価格の動向
・・・価格低迷は資源国の成長を鈍らせ、オイルマネーなどの先進国への還流が鈍化し米国債への需要を減らす。ファンダメンタルズ的には資源消費国アメリカの経済を潤し、他の先進国もプラスの影響を受ける。しかし物価の低迷につながるため、金利を抑制する

  次にアメリカ国内の要素の先行きを見てみます。

  金利の上昇要因であるはずの物価と雇用のうち、雇用は堅調さが持続することが見込まれますので、こちらは問題なし。一方物価はどうでしょうか。アメリカは貿易赤字国ですから、米ドルの強さは輸入価格の低下を通じて物価の抑制要因になります。その上世界の商品相場、特に原油価格の下落は物価をさらに押し下げる要因です。

金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろうと私はみています。

引用終わり

  最後の文章で金利上昇の最大のリスクは物価だと述べていますが、リスクと言う言葉は危険の意味ではないことにご注意ください。

  この記事を書いた時点の原油価格はWTI先物で70ドルを若干下回ったくらいだったのが、なんとたった1週間で60ドルを下回る価格をつけてしまいました。これは下落傾向だった価格が堰を切って暴落してしまったというほどの衝撃的下落です。金利にも大いに関係しますので、しっかり見ておきましょう。

  では、現在世界を震撼させるほどになっている原油価格の暴落をどうみたらよいのか。私の見解を簡単にまとめます。私が書こうとしているのは超あたりまえのことですが、明日にでも世界経済がおかしくなるというようなコメントが多いので、警鐘の意味も込めます。

1.原油価格下落の最大の被害者は産油国であって、消費国ではない。つまり中東・ロシア・ベネズエラ・ナイジェリアなど

2.原油価格下落の最大のメリット享受国はアメリカ、EU、日本、中国の経済大国をはじめ産油国を除く全世界

3.経済問題以外で最悪の紛争解決に神風が吹いてきた。世界の火種である中東、ロシアの力を削ぐ神風が吹き、民主的諸国の力が増大するのは日本・アメリカ・EUを始め自由諸国にとって最高のプレゼント


  これがまとめの見解です。

  そして次に原油価格の各国経済へのインパクトを見通す数字がありましたので、みなさんの参考になると思い並べてみます。8日のウォールストリートジャーナルの記事です。原油価格が65ドル程度で1年継続した時の各国GDPに対するインパクト(%)です。大きく分けプラスに働く国々とマイナスに働く国々があります。

プラスの国; 韓国2.4  インド1.8  日本1.2  ドイツ0.8  中国0.8  アメリカ0.5

マイナスの国; クウェート18.1  サウジ15.8  イラク10.2  ナイジェリア5.4  ロシア4.7

  拙速で計算したものと思われ前提条件などの詳細はありませんが、当たらずしも遠からずというところでしょう。

  ロシアなどは資源モノカルチャーでそれ以外の有力な製造業などほとんどなく、財政も中東産油国同様資源依存度が高いので、このマイナス4.7%程度のインパクトで済むのか疑問です。

  またアメリカのプラスがたった0.5%と小さいように思えますが、これはシェールガス・オイルの生産にとってはマイナスに働くからということではなく、アメリカ経済全体の産業の厚み、消費の大きさに対して原油の下落など小さいことだ、という意味にとったほうがよいと思います。中国や全く資源ゼロの日本も同様で、全体が大きいのでインパクトは小さい。逆に韓国は経済規模が小さいのでインパクトが大きく出るのでしょう。

  原油価格がさらに下落したらどうなるのか?

  しょせんプラス国のプラス幅が大きくなり、マイナス国のマイナス幅が大きくなるということで、世界経済が恐慌になることなどありません。2度に渡るオイルショックにより世界経済が大きく落ち込んだことを思い起こせば、今回の暴落はその逆だということです。もちろん原油の暴落とは関係なくすでに世界経済はスローダウンしはじめていますので、メリットはスローダウンの緩和になるということでしょう。

  ここまで原油価格の下落のインパクトを見てみました。次回は金利へのインパクトをみることにします。

コメント (7)
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