ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金利見通しについて、その1

2014年12月02日 | 2014年の資産運用
  今年もあと一カ月になりました。日本国債の格付けはムーディーズによって1ランク格下げされシングルA1になっています。理由は消費税の先延ばしとアベノミクスが日本財政と経済の先行きに不確実性をもたらしているというものです。フィッチ・レーティングスも格下げが見込まれます。格下げのたびに格付け会社に非難が集まることが多いのですが、いくら批判しても彼らは一定の影響力をもっているため、あなどってはいけません。  

  さて、世界経済のスローダウンをしり目に、アメリカ経済は順調に回復基調をたどっています。コメント欄でお約束したアメリカの金利動向が本日のメインテーマです。

  アメリカは雇用が大方の予想以上の回復を見せ、それが消費の堅調さを裏付けています。耐久財消費を代表する車の売れ行きは絶好調。住宅投資も順調です。アメリカの場合、この二つのセクターは金利動向に大きく左右されます。金利が低いままで推移していることが雇用回復と一体になりアメリカ経済を順調に推移させています。

  何人かの読者の方から金利について質問が寄せられていますので、私の見方をお伝えします。私は常々金利や為替を的確に予想することなどできませんと言いながら、みなさんの要望に応える形で予想をしてきました。今年の金利については「FRBの政策転換の半年前くらいには市場が先走る形で金利の上昇があるだろう。アメリカのエコノミストのコンセンサスの上限は3%程度だが、私はそれより上の3.5%も可能性あり」という予想でした。

  この予想は予想通り当たりませんでした(笑)。私の予想が当たることを期待されていた方には申し訳ありません。ではまず何故予想が当たらなかったかにについて自分なりに検証してみます。

  アメリカの金利を見通すのに私がなによりも重要な指標として見ているのは「物価と雇用」だと申し上げてきました。物価はある意味目標値である2%を若干下回っていますが、10月の1.7%は悪い数値とは言えません。雇用は順調に回復し失業率は6%を切っています。そして経済全体も7-9月期のGDPは実質でプラス3.5%ととても順調です。日本のマイナス成長とは大違いです。

 では金利を低下させるインパクトを与えているものはなんでしょうか。アメリカを除く世界成長の鈍化は重要な要素でしょう。それが原油価格に代表される商品相場を低迷させています。特にここにきて原油価格の下落の激しさは、リーマンショック後の暴落を想起させるほどになっていて、「シェール革命危うし」の声まで上がっています。ですが私はアメリカ経済にとって原油価格の下落は大きなプラスだと思っています。消費増大の最大の貢献者だからですが、その話題はまた機会を改めます。

  世界経済の低迷は日本を始め欧州、中国、ロシアと大所が軒並み予想に届かず、世界にとって大きなリスクと認識されるほどになっています。そして中国はすでに緩和に踏み切り、欧州もさらなる緩和が検討されています。しかしドイツなど一部には底打ちから若干の回復の芽も出てきました。この世界経済の低迷がアメリカの金利に対してどの程度のインパクトを与えるか、数字的に検証するのはとても難しいのですが、少しだけヒントになる数字があります。それは米国債保有者のうち、国外の保有者が保有額を増加させているか否かの数字です。海外投資家が自国株式を中心とするリスク資産から安全な投資先にシフトさせているか否かの示唆が得られるからです。

  アメリカの財務省は毎月の数値を集計して公表しています。11月末に9月までの数字が発表されていますので、1年前と比較します。比較としてアメリカの連銀FRBの保有額の変化も一緒につけます。

                  13年9月   14年9月   前年比    対前年増加額
海外保有額(10億㌦)    5,653      6,060     +7.2%   407・・・約48兆円
FRB保有額           2,154     2,461    +14%    307・・・約36兆円


 海外投資家は1年で400億ドルも保有を増やしています。FRBの保有額も予定通り順調に増えましたので、金利を押し下げる効果は大いにあったでしょう。しかしここに来てFRBはこれ以上の買い取りを停止しています。両者の合計額の4割にもなる買い手がいなくなるのですから、相当なインパクトがありそうに思われます。しかしFRBはこれまで徐々に買い取り額を減らし、10月には停止しています。この半年あまりの助走期間、そして完全停止後もその効果が金利上昇として表れていないという現実がありますので、FRBの買い取りだけでは金利低下を説明できません。

  コナンドラム?

 この金利低迷は、説明がつかない不思議な現象=コナンドラムなのでしょうか。

  いいえ、そうではありません。私がこれまで大きな要素に入れていなかった大事な数字があります。それは米国債に対する需要側ではなく供給側の数字、つまり財政の赤字額です。

  アメリカと日本どちらが安全かの議論をした時に、私はアメリカの財政見通しについて説明しました。その時、アメリカは単年度主義ではなく、年度をまたがって将来の見通しをコミットする形で予算を立て、赤字額も天井があって十分にコントロールされているというお話をしました。

  どうやら米国債に対する需要の大きさだけでなく、供給側である財政赤字の計画的削減が、金利上昇をはばむ大きな原因の一つのようです。

つづく

コメント (5)
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