ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金利見通しについて、その2

2014年12月05日 | 2014年の資産運用
  円ドルレートは遂に120円台をつけましたね。おっちょこちょいのななしさんから私が以前書いていた「120円になったら大変なことになる」って、いったいどうなるのという質問を受けました。この話はすぐフォローするようにしますが、今回はアメリカ金利の続きです。

  前回からアメリカの金利低迷の分析を始めました。前回指摘した金利に影響を及ぼしそうな要因は、

金利上昇要因;物価の上昇、雇用の回復、

  これらはおよそ予想の範囲で動いている

金利低下要因;需要サイドと供給サイドの要因があり前回はFRBと海外投資家の需要を数値で把握しました。
  
①需要;FRBによる国債購入が続いていた。額は14年の年間で36兆円

②需要;世界経済のスローダウンからアメリカにとっては海外投資家である世界の投資家がリスク資産から安全資産であるアメリカ国債にシフトしている。額は48兆円でこれは巨額

 そして私が見逃していた要素として以下があると指摘しました。それは

③供給:連邦予算の赤字削減

  ではその赤字額がどの程度か数字を見てみます。ピークだった09年度からちょっと飛ばしますが年度ごとに並べますと、

2009年度 :1兆4130億ドル               
  ---
2013年度: 6800億ドル
2014年度: 6490億ドル(前年比でマイナス4兆円、率にして5%)
2015年度: 5640億ドル (前年比でマイナス10兆円、率にして13%)
2016年度: 5310億ドル


  14会計年度(14年9月終了)の赤字は09年のピーク時から比較すると半減以下です。前年比での赤字削減額は4兆円程度でした。金利は将来を織り込んでいますので、すでに10月から開始されている15年度も見ますと、赤字は前年比で10兆円削減されることになっています。海外投資家の買いやFRBの買いに比べると要素としては小ぶりですが、発行見込み額が13%減少するのは小さい率ではありません。

  ということで15年はFRBの36兆円の買いがなくなりますが、予算上の赤字が10兆円減るので、差し引き額は26兆円です。もし海外勢の買いが今年と同じ程度継続するとしても26兆円の減少はかなりの額です。

 では、今後を見通していきましょう。インパクトの大きな海外勢の需要はどうなるのでしょうか。それを見通すのはとても困難ですが、にも関わらず金利に影響を与えそうな要素の大まかな見通しを、私なりに並べてみます。

世界経済の動向・・・欧州経済が低迷気味で、物価上昇もゼロ近辺。中国の成長鈍化。IMFの世界経済予測も今年より来年の成長率鈍化を見込む。これらはリスク資産か安全資産かの選択に影響し、米国債への選好は継続しそう

ドルをめぐる為替動向・・・経済の好調から株も買われ、世界経済のリスク回避から債券も買われる。通常は一致して買われるより、片方が買われ片方は売られるが、投資家が世界に及ぶため、このような動きになっている。ドルの選好は米国債需要につながる。ユーロは今後さらに緩和策が実施されるため、対ドルでは弱含む。安全通貨と言われた円は危険通貨になりドル高の流れに変化なし

資源価格の動向・・・価格低迷は資源国の成長を鈍らせ、オイルマネーなどの先進国への還流が鈍化し米国債への需要を減らす。ファンダメンタルズ的には資源消費国アメリカの経済を潤し、他の先進国もプラスの影響を受ける。しかし物価の低迷につながるため、金利を抑制する

  これらは独立して動くものではなく相互に影響しますのでクリアーな数量的な予測は困難ですが、いずれも今後アメリカ金利には抑制的な働きをしますので、要注意です。

  以上、金利を低下させるいくつかの要素を取り上げて見てみました。

  次にアメリカ国内の要素の先行きを見てみます。

  上昇要因であるはずの物価と雇用のうち、雇用は堅調さが持続することが見込まれますので、こちらは問題なし。一方物価はどうでしょうか。アメリカは貿易赤字国ですから、米ドルの強さは輸入価格の低下を通じて物価の抑制要因になります。その上世界の商品相場、特に原油価格の下落は物価をさらに押し下げる要因です。

金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろうと私はみています。

つづく

コメント (1)
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