ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金利見通しについて、あとがき

2014年12月28日 | 2014年の資産運用
 金利の世界的低下傾向に関して、最近は歴史的視点からの指摘が多くなってきています。ご存知の方があまり多くないかもしれませんので、ちょっと紹介します。

  一つの象徴的本があります。「資本主義の終焉と歴史の危機」というたいそうなタイトルの本です。著者は水野和夫氏で、八千代証券から三菱証券等のエコノミスト、今は日本大学の教授です。この本は新書ですがダイヤモンド社の選んだ今年のベスト経済書に選ばれ、20万部も売れています。テーマはタイトル通り、資本主義が終焉に向かっていることを歴史的に検証している本です。

  その中で金利の歴史を数百年さかのぼりながら、現在の超低金利は資本の生みだす利潤の低迷を表していて、それが資本主義は終焉に向かっていることを象徴していると著者は主張されています。将来は資本主義以外の道を行かないと破綻は近い、特に総本山のアメリカが資本主義の終わりに近づき、それを様々な糊塗策で繕っている、という内容です。

  金利の世界的低下はそのとおりで、戦後徐々に上昇してきた長期金利が1980年あたりに跳ね上がってピークを作り、その後は今に至るまで長期の低下トレンドに入った。いまだにそれが終わっていないように見えます。下記サイトは英語ですが、30年物国債金利の1980年からのチャートをみることができます。
http://finance.yahoo.com/echarts?s=^TYX+Interactive

  ではそれが資本主義の終焉につながるのか。他人の書いたものを批判するのは私の趣味には合わないのですがあえてコメントします。この本の内容は全般的に突っ込みどころ満載で、これがベスト経済書ですかと大きな疑問を感じました。

   まず著者は資本主義の行き詰まりはアメリカがベトナム戦争に負けたところから始まったというのです。そして、そもそも資本主義の成長の本質は物理的に地域を拡大するからで、それができなくなったら終わりだと主張しています。ということは、まずベトナム戦争自体がアメリカの帝国主義的侵略戦争だと言うことになりますね。大学時代にクラブの友人が「べ平連」(ベトナムに平和を、市民連合)に参加していたのを思い出しました。もちろん私はこの方の学生時代のことは全く知りません。今のベトナムの発展は資本主義世界にすり寄ってきたことによると思いますが、世界経済には貢献していないのでしょうか。アメリカは中国に侵略していませんが、大きな市場になっています。

  この方は歴史書に出てくる植民地拡大による帝国主義を現代のアメリカ資本主義に当てはめているのです。地域拡大が行き詰まったので資本の利潤率は低迷し、資本主義は終焉するのだそうです。もちろんそういう方ですから、アメリカ的グローバリズムこそ悪の元凶だという、よくある感情論があちこちに出てきます。

  私は「グローバリズム」という言葉を聞いたとたんに、「この人大丈夫か?」と思ってしまいます。理由は、グローバリズムなどというイズム、主義はないからです。グローバリゼーションはありますが、グローバリズムは別物です。グローバリゼーションは歴史の自然な流れであって、「イズム・主義」などではありません。それに反感を持つ人たちにとってグローバリゼーションとグローバリズムの区別はなく、一律に否定すべき宗教的主義なのです。そうした人達はだいたいが鎖国主義ですから、もちろんこの本の著者も含めTPPなどとんでもない、ということになります。

  来年からは時々書評もこのブログに書いてみようと思っています。対象は例えば今大評判のトマ・ピケティ著「21世紀の資本」などです。この本、8千円もするので買うのも躊躇します。大部のため正月にでもと思い本屋で手に取っては見たのですが、基本的論理構成がおかしいところがあるため、買うまでもないかと今は思っています。その理由はまたの機会に述べます。


  金利の話から逸れました。金利の長期低下傾向を資本主義の終焉と捉える主張が多くなっていますが、それは違うと私は思っているというお話です。もちろんその世界的低迷は事実ですが、それには構造的な理由があるからです。要は資本が供給過剰になって金利が低下しているということです。だからといって資本主義が行き詰まったということではありません。供給過剰ということは資本が力を失っているということですから、安い資本を使い倒せば労働者は労働分配率を上げることができるかもしれません。99%側にとってそれは朗報で、それこそマルクスが泣いて喜ぶ「万国の労働者よ、バンザーイ」ではありませんか(笑)。ダブついて安くなった石油を我々がエンジョイするのと同じことで、金利低下・物価低下は庶民の味方です。住宅ローンを安く組め、クレジットをどんどん使え、サラ金すら成り立たなくなる世界が到来しています。

  ということで、私は金利低下は少なくとも資本主義の終焉などとは無縁だと思います。では金利の上昇はありうるのか。長期のトレンドは別ですが、循環的に見れば大いにありえます。この長期トレンドのテーマは別の機会に。


  話は変わりますが、前回の記事の内容でわかりづらいところがあるのではないかという指摘をいただきました。それは物価と金利の関係です。「物価が上がると何故金利が上がるか、わからない方がいるかもしれない」という指摘です。そこでちょっと解説します。

  物価の上昇は物に対する需要が供給より多いことから生じます。物価上昇は国民にとってはとても不都合で窮乏化の原因です。今のロシアやかつての途上国全般がそうでした。それを抑えるには中央銀行が金利を上げて企業活動を抑え、景気を悪くすることで物価上昇を抑える。それが経済原則に則ったやり方です。ロシアも最近政策金利を10%から17%にしています。ロシアの場合、利上げの理由の一つは通貨防衛ですが、それも通貨下落は輸入インフレとなり国民生活に跳ね返るからで、物価鎮静を目指しています。もちろんその間に不景気になるので、プーチンも「2年は耐えろ」と言っています。ジンバブエのように物価が年率1兆%だったら不況のほうがはるかにマシでしょう。

  以上、物価と金利の簡単な説明でした。


  今年もあと数日になりました。来年に向けて私は当ブログのテーマを少し拡げることと、整理の仕方に工夫を加え読みやすくしていきたいと思っています。それほど大きな変更ではありませんよ、念のため。

  今後のブログに関するご意見ご要望は大歓迎ですので、是非みなさまからコメント欄に気軽にご意見をお寄せ下さい。

よろしくおねがいいたします。

コメント (1)
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