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アメリカ国債と日本国債、どちらが安全か、2

2014年09月28日 | 2014年の資産運用
 アメリカ国債と日本国債のリスクを比較するにはまず前提となる経済力に関して見ておく必要があります。前回は両国の潜在成長力には大きな差があるというお話を差し上げました。最後の部分をおさらいしますと、

アメリカ
IMF見通し2.5%+シェール革命0.3%+イノベーション?=3%程度

日本
IMF見通し0.7%+アベノミクス?+イノベーション??=0.7%±?


そして(?)となっているイノベーションについても、ベンチャービジネスの状況を見ると、日米の差はさらに開きそうだ、と申し上げました。

 
 今回は日米の国債の安全性を、債務残高と返済能力から見てみましょう。政府の債務残高のGDP対比はOECDのEconomic Outlookにある2013年末ベースによりますと、

アメリカ= 106%
日本  = 232%


  累積債務の返済能力はどう推定するのかと申しますと、まずはGDPの大きさから見ます。その理由を簡単に説明します。

  GDPの6割を占める最大項目である消費の額に消費税率を掛ければおよその消費税収入額となります。(厳密には非課税のものが多いこともあり金額は大きく違いますが、傾向はちがいません。)そして消費の裏付けとなる所得に税率を掛ければ所得税収になります。法人税も利益に税率を掛けるのですが、両者ともにおよそGDPに比例的に動きます。

 そのベースとなるGDPは毎四半期ごとに発表される実質GDPではなく名目GDPのため、デフレはGDPを縮小させ税収を縮小させる効果を持ちます。ですのでインフレ率が常に日本を上回るアメリカの返済能力はより高くなります。日本はこれまでデフレが長く続いたため返済能力は実は年々小さくなっていったのです。ちなみに7年前に515兆円だった名目GDPは、直近(4‐6月期の年率換算)で487兆円。5.4%も減少しています。

 ということは、日本のように名目GDPが減ると債務が増加しなくともGDPに対する債務比率は増えてしまうのです。債務返済の原資となる名目GDPはなんとしても増やさなければいけません。その意味である程度のインフレが必要という政策の方向性は間違っていません。

 しかし何度も申し上げ、山ちゃんも言っていましたが、賃金が増えてのディマンドプルインフレならみんなが幸せになれても、賃金が増えないのに物価が上がり消費税が上がるのは単なる不幸の連鎖なのです。私を含めベースアップのない世界に暮す人達は、物価上昇、消費増税に対しては財布のひもを締めるしかないのです。

  そしてこの不幸の連鎖は高齢者を中心に預貯金の食いつぶしにつながり、日銀が買わなくても預金を取り崩された銀行が国債を売ることにもつながるのです。

  もう一つ大事なことがあります。
ここんとこ、テストにでますよ!古いか(笑)

  インフレで税収が上がったとしても、物価や人件費が上昇すれば財政支出も増えてしまい、財政健全化にはつながらないことです。

  特に日本の場合、財政支出の大きな割合を占める社会保障費は医療・介護など人件費の割合が大きいため、インフレと賃上げで財政収支は悪化するというジレンマを抱えているのです。

 このことは将来ハイパーインフレで国が借金の実質踏み倒しに成功した暁にも、財政の健全化は容易には達成できないということにもつながるので、テストに出るほど重要なのです。


 こうして一国の経済を分解したり、潜在成長力までしっかり見たりすると、日米の国債のリスク差は今後も間違いなく拡大の一途をたどるのがよくご理解いただけると思います。

 さて、私は以前から「アメリカに失われた10年など来ない」と言い続けてきました。リーマンショックの吸収力の高さがそれを証明しています。それでも、「現在の先進国経済は中央銀行によるカンフル剤注射で生きながらえているので、それをなくせばまた不況に戻る」と言う人がいます。先進国を一緒ごたに考えてはいけません。アメリカは10月で緩和策を停止することが決定しました。それから半年後には金利の引き上げが始まるかもしれません。欧州は周回遅れでこれからが中央銀行の勝負どころだと言われています。

 それに対して日本はどうか。すでに手を出し尽くしてしまっています。なのに「まだ買えるものはいくらでもある」と、大本営発表を続けている方がいます。しかしその効果はチョー怪しい。このところの円安はこうした潜在成長力の差から来る安全性の差も大いに反映しているのだと私は思っています。

 11月に7-9月期のGDPが発表されると12月には消費税の再値上げと来年度予算でてんやわんやになるでしょう。できれば目白のおっちょこちょいさんやたかさんのようにドルを握りしめて、アベチャンとクロチャンのお手並みを拝見といきたいところです(笑)


コメント (51)
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