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アメリカ国債と日本国債、どちらが安全か

2014年09月25日 | 2014年の資産運用

 プチ炎上の議論では日本の将来とともに、アメリカの将来についても議論の的になっていました。ここでアメリカの将来をどう見ているか、日本と比較しながら私の考えをお示ししたいと思います。といっても、これまでとは特段の変化はないことをあらかじめ申し上げておきます。

 アメリカの格付けと成長力に関して、9月19日にロイターが以下の記事を書いています。

タイトル;アメリカの成長力

格付け会社フィッチ・レーティングスは19日、米国の長期外貨・自国通貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「AAA」に据え置いた。見通しは「安定的」。フィッチは声明で、米経済の回復ペースは他の多くの先進国を上回っていると指摘。米成長率は、2014年は2%、2015年は3.1%、2016年は3%になるとの予想を示した。また、米連邦準備理事会(FRB)によるぜロ金利政策解除時期は2015年半ばになるとの見方を示した。


 一国の信用格付けは債券の安全性を見る上で重要です。ソブリン格付けでは調査力からみて信用をおけるのは、フィッチ・レーティングス、ムーディーズ、S&Pの3社です。そのうちS&Pだけが3年前にアメリカの格付けをAAAからAA+に引き下げています。私はこれを「ミス」だと申し上げてきました。何故はっきりミスといえるのか。

 私の著書が出版される直前の11年7月にアメリカ議会が大混乱した「財政の崖」問題を巡って、S&Pはそれが政争ではなく深刻な財政危機だと見誤ったのです。その後崖が来るたびに私が何度も何度も「たとえ本当に利払いや償還が延期されても、そんなものは単なるスリップダウンで、ノックアウトではない」と言い続けたあのバカ騒ぎです。先日コメント欄で書かれていたダイヤモンド・オンラインでの私の連載でもそのことを書いています。

 その時にS&Pはアメリカの財政赤字の将来見通しの数値を100兆円も計算間違いをしてそれを財務省などから指摘され、発表からわずか2週間後に会長の首が飛びました。それでも挙げたコブシを下ろさずに、いまだに「ダウングレードは間違っていなかった」と言い張ってAA+にしたままです。今後またどこかで「財政の崖が・・」とか言い出したら、みんなで笑い飛ばしてあげましょう(笑)。

 先ほどの引用にありましたが、フィッチ・レーティングスは将来のアメリカ経済の成長力見通しを3%程度と見通しています。証券会社のイケイケ見通しよりも常に物事を慎重に見るクセのある格付け会社の見通しのほうが、信頼がおけそうです。ではその妥当性を私なりに見てみます。

 それぞれの国の経済にはその国が潜在的に持っている潜在成長率というものがあります。それはまず2つの指標で計られます。
1. 労働人口増加率
2. 資本増加率(設備など)


 そして同じ一人の労働者が生産性を上げれば経済にはプラスアルファを生みだせます。設備も同じで、設備の生産性が高くなればプラスアルファを生み出せます。そこで上の2つに加えて

3. 2つの要素の生産性向上率


 これら3つの足し算が一国の潜在成長率と言われる指標です。IMFが見ている今後5年ほどのアメリカの潜在成長率の見通しは2.5%程度で、日本は0.7%程度です。アメリカと日本は仮に資本の増加率や生産性の要素に違いがないとしても、労働人口の増加率がかたやプラス、かたやマイナスという、いかんともしがたい差があります。安倍政権が女性の労働参加を前面に取り上げているのは大いに評価されてしかるべきです。

 加えて、シェール革命の影響については、今後アメリカにかなりのプラスの影響をもたらすものと思われますが、大和総研がそれによる将来の潜在成長率への寄与はプラス0.3%と推定数値を出しています。数字は小さく見えてもとても大きなインパクトを持っています。それを単純に加味すると日米の潜在成長力差は2%を超えてくることになります。IMFがそれをどの程度加味しているは不明です。
 
 今後の成長率はここで示した潜在成長力に現在は想定できていないイノベーションによる生産性向上や競争力を足し引きし、さらに景気循環や世界経済の動向などを織り交ぜた数値になります。私はベンチャービジネスの大きさと幅の広さが、今後のアメリカに大きなプラスアルファをもたらすと見ています。とすると先ほどのフィッチ・レーティングスの経済見通しである3%程度の成長は、十分に実現可能な数値に思えます。

アメリカ
IMF見通し2.5%+シェール革命0.3%+イノベーション?=3%程度

一方日本はどうか。

IMF見通し0.7%+アベノミクス?+イノベーション??=0.7%±?


アベノミクスは不成功の確率もみておく必要があるため±と書きました。

 ということでひとまず潜在成長力の観点からみた日米の将来の成長力較差は、かなり大きいと言えます。

 国債の安全性を考える際に最も直接的に重要な債務残高や返済能力については次回に述べることにします。


コメント (27)
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