秋生さんからこんなコメントをいただきました。ありがとうございます。
>日本のように借金で真っ赤なわけではなく、あくまで政治闘争が理由だから、ギリギリのところで妥協案か他の策が出されるのでしょうね。自国の打撃になるのにデフォルトなんてさせないですよね。しかし日本のマスコミはなぜ両面を報道しないのでしょうか。
私もおっしゃるとおりだと思っています。日本のマスコミの取り上げ方は常に面白おかしく過激に、政争と経済・金融問題の区別もせずに報道しますね。でも冷静に見る目を失わなければ、逆に投資家にはチャンスとなります。なにせドルも96円台ですから。
一方、格付け会社は事の性質上どうしてもウォーニングは出さざるを得ないので、S&Pの苦い教訓もありますが、各社ウォーイングは出しているようです。これは当然の基本動作です。
さて今回は、デフォルトが瞬間的にでも起こると、いったい何が起こるのか、普段はみなさんがご存知なくてもよい、金融のプロの間の取引を中心に解説してみましょう。
その1.CDSのデフォルト判定と処理
CDSの場合「デフォルトした」と判定されても、実際の保険金は全損として払われるのではなく、損失分に対してだけ支払われるので、実損がなければ一銭も精算は起こりません。
そもそもCDSは便宜的に「保険みたいなものだ」と言われますが、実際は保険会社が存在していて契約に基づき保険金支払いをするわけではなく、基本的に任意の2者の相対スワップ契約にすぎません。デフォルト認定の仕方なども、実は契約時に合意されています。どんなに時間がかかっても、破綻した対象の損失金額の確定まで待って精算されます。
会社倒産に関わる社債のデフォルトを例にとります。破綻会社の残余財産をすべて売却して得た現金などは、銀行などを含む全債権者で山分けし、社債権者の取り分が確定します。それが社債の5分の一の価値しかなかったら、残りの5分の4をCDSの支払い側の契約者が、受け取り側の契約者に払う、という仕組みです。
国債の場合も基本は同じで、認定や精算額確定までは大変に時間のかかるプロセスになると思われます。
ということは、精算額の確定に時間をかけている間に政争がおさまると、一度デフォルト認定はしたものの、実際には期限後ですが利払いや償還が行われ、CDSの精算などは生じないということが大いにあり得ます。償還が遅れたことによる金利分は遅らせた国が支払うことになるでしょう。
この場合のダメージは、「米国債は政争リスクを抱えた資産である」という認識が投資家に広がることです。
その2.担保価値の判定
米国債はさまざまな金融取引の担保に世界で一番使われている資産です。CDSも含め様々なスワップ、デリバティブ、借入、先物・信用取引(株でもFXでも)にかかわり、担保として提供されています。その価値が大きく低下したり、損なわれると、担保恐慌が起こりかねません。
デフォルトの瞬間、担保価値をどう判定して、いくらの積み増し要求をするか、世界的に大問題になります。しかも担保割れの場合は即時追加差し入れを要求されるので処理は混乱します。
リーマンショックでは米国債の担保価値は上昇一方だったので、当然全く問題にはなりませんでした。また11年8月のダウングレード騒ぎの渦中でも、米国債の価値(価格)は全く下がりませんでした。
各国でリスクフリー資産と呼ばれる国債は、信用取引の担保の要です。担保を提供する取引というのは、結局レバレッジを掛けた取引形態であるため、担保価値の低下の影響度合いもレバレッジ分自然に増幅されることになるのです。
さてこんなことを書いてはいますが、米国債のデフォルトは実際には起こるとは思っていませんのでご安心を。
私はむしろ「今後起こりうるのは日本国債のデフォルト、もしくは担保価値の大きな低下だ」と思っています。その影響のシミュレーションの一つと考え「プロの世界ではこんなことも起こる」ということをみなさんにお知らせする目的で今回は書いています。
以上です。