ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

国債デフォルトの影響はこんなところにも

2013年10月08日 | ニュース・コメント

 秋生さんからこんなコメントをいただきました。ありがとうございます。

>日本のように借金で真っ赤なわけではなく、あくまで政治闘争が理由だから、ギリギリのところで妥協案か他の策が出されるのでしょうね。自国の打撃になるのにデフォルトなんてさせないですよね。しかし日本のマスコミはなぜ両面を報道しないのでしょうか。

 私もおっしゃるとおりだと思っています。日本のマスコミの取り上げ方は常に面白おかしく過激に、政争と経済・金融問題の区別もせずに報道しますね。でも冷静に見る目を失わなければ、逆に投資家にはチャンスとなります。なにせドルも96円台ですから。

 一方、格付け会社は事の性質上どうしてもウォーニングは出さざるを得ないので、S&Pの苦い教訓もありますが、各社ウォーイングは出しているようです。これは当然の基本動作です。

 さて今回は、デフォルトが瞬間的にでも起こると、いったい何が起こるのか、普段はみなさんがご存知なくてもよい、金融のプロの間の取引を中心に解説してみましょう。


その1.CDSのデフォルト判定と処理

CDSの場合「デフォルトした」と判定されても、実際の保険金は全損として払われるのではなく、損失分に対してだけ支払われるので、実損がなければ一銭も精算は起こりません。
 そもそもCDSは便宜的に「保険みたいなものだ」と言われますが、実際は保険会社が存在していて契約に基づき保険金支払いをするわけではなく、基本的に任意の2者の相対スワップ契約にすぎません。デフォルト認定の仕方なども、実は契約時に合意されています。どんなに時間がかかっても、破綻した対象の損失金額の確定まで待って精算されます。

 会社倒産に関わる社債のデフォルトを例にとります。破綻会社の残余財産をすべて売却して得た現金などは、銀行などを含む全債権者で山分けし、社債権者の取り分が確定します。それが社債の5分の一の価値しかなかったら、残りの5分の4をCDSの支払い側の契約者が、受け取り側の契約者に払う、という仕組みです。

 国債の場合も基本は同じで、認定や精算額確定までは大変に時間のかかるプロセスになると思われます。

 ということは、精算額の確定に時間をかけている間に政争がおさまると、一度デフォルト認定はしたものの、実際には期限後ですが利払いや償還が行われ、CDSの精算などは生じないということが大いにあり得ます。償還が遅れたことによる金利分は遅らせた国が支払うことになるでしょう。

 この場合のダメージは、「米国債は政争リスクを抱えた資産である」という認識が投資家に広がることです。


その2.担保価値の判定

 米国債はさまざまな金融取引の担保に世界で一番使われている資産です。CDSも含め様々なスワップ、デリバティブ、借入、先物・信用取引(株でもFXでも)にかかわり、担保として提供されています。その価値が大きく低下したり、損なわれると、担保恐慌が起こりかねません。
 デフォルトの瞬間、担保価値をどう判定して、いくらの積み増し要求をするか、世界的に大問題になります。しかも担保割れの場合は即時追加差し入れを要求されるので処理は混乱します。

 リーマンショックでは米国債の担保価値は上昇一方だったので、当然全く問題にはなりませんでした。また11年8月のダウングレード騒ぎの渦中でも、米国債の価値(価格)は全く下がりませんでした。

 各国でリスクフリー資産と呼ばれる国債は、信用取引の担保の要です。担保を提供する取引というのは、結局レバレッジを掛けた取引形態であるため、担保価値の低下の影響度合いもレバレッジ分自然に増幅されることになるのです。


 さてこんなことを書いてはいますが、米国債のデフォルトは実際には起こるとは思っていませんのでご安心を。

 私はむしろ「今後起こりうるのは日本国債のデフォルト、もしくは担保価値の大きな低下だ」と思っています。その影響のシミュレーションの一つと考え「プロの世界ではこんなことも起こる」ということをみなさんにお知らせする目的で今回は書いています。

以上です。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカのデフォルト騒ぎをどう見るか

2013年10月04日 | ニュース・コメント
ななしさんと秋生さんへの回答です。

ななしさん、お久しぶりです。
賢いお母様の賢い運用方法こそ、普遍の真理に通じるかもしれませんよ。その血を受け継ぎ、数字に強いななしさん、向かうとこ敵なしじゃないですか。

テール・リスク、今の米国債デフォルト騒ぎがちょうど「まさかのテール・リスク」のように見えますね。

日本の重税リスクに対して、何をもってヘッジするか?

円資産のリスクはドル資産でヘッジできますが、重税に対しては移住以外に手立てなしでしょう。最近私の友人夫婦がリタイア早々、突然マレーシアに移住しました。移住は本当なら高い円を上手く使えたら一番いいのでしょうね。

さて、ななしさんの質問にあったCDSですが、以下のサイトで見ることができます。

http://www.markit.com/en/about/news/commentary/cds/cds.page

markitという金融情報会社のサイトです。英語ですが、国名と数字だけなので、見るのに困難はないと思います。

最近の動きを見ますと、米国のCDS5年物は、9月20日ころまで落ち着いていて22bp(日本60)だったのが、9月27日に31(日本61)と上昇、10月2日に35(63)になりました。

日本がプラス3なのに対して、プラス15ですから、デフォルト騒ぎに一応敬意を表しているというところです。しかし、本当にデフォルトが近付くと数百bpにもなりますので、いまだ「ピクリ」とした程度と言ってよいでしょう。
(注)CDSはデフォルトに対して掛ける保険で、料率の35bpとは年率0.35%を払えば、倒産の時は損失分の保険金を払います、というもの。プロ同士の相対取引です。

しかし一方肝心の米国債の金利ですが、11年8月同様、ピクリともしていません。きのうのNYで、10年物の金利は前週から引き続き2.6%台です。

ではこの先をどう見るのか。秋生さんのご質問にも回答させていただきます。

私は今の騒ぎの本質は、11年8月の初めての騒ぎと同じだと見ています。その時、S&Pだけがあわてて格付けを下げましたが、最近になり先行きの見通しをネガティブから安定的に変更しました。そのせいか、またデフォルトが近付いたようです(笑)。なんだか彼らはいつも逆を行っていますね。

「人の行く、表に道ありS&P」

では何故私がいつも楽観的に見ているのか?

別に「米国債を買え」と言っちゃったからではありません(笑)。安全だから「米国債を買え」なのです。

11年8月出版の著書に書いたのは、
「デフォルトなんかしっこない。たとえしてもそれはスリップダウンだ」

つまりダウンはカウントなどされないスリップしたダウンだということで、その見解は今も全く同じです。

日本の報道は特に面白おかしく書きたてます。今日メールをいただいた方からは、「産経新聞を読むとリーマン以上の世界恐慌になるぞと書いてある」そうです。NYタイムズには共和党の反対派急先鋒の議員10人程度の顔写真入りで、「このバカ騒ぎをいいかげんにヤメロ」と書いてあります。

本質的に政争であって、経済・金融問題ではありません。

ですので心配いりません。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雪風ファンドさん、訂正とおわびです

2013年10月03日 | 2013年からの資産運用
 雪風さんは金利のことを念頭にいれているのに、私はそれを誤解していましたので、訂正してお詫びいたします。

 きのうは朝からゴルフに行っていましたので、ブログにはアクセスできず失礼しました。雪風ファンドさんとのやりとりで、彷徨さんや俊平太さんからもいろいろコメントいただき、ありがとうございます。

俊平太さんいわく「そろそろ話を元に戻しませんか?」

そうですね、やめましょう。


きのうのゴルフのウレシー報告です、また自慢です(笑)

 私の住む世田谷には世田谷区ゴルフ連盟という組織があって、昨は晴天の中第38回大会が山梨の河口湖に近い「富士桜カントリー倶楽部」で行われました。先月プロのトーナメントのフジサンケイクラシックで松山英樹くんがプレーオフで勝った、あのゴルフ場です。

 参加者は一般男子(60歳以下)23人、60歳以上のシニア男子65人、女子26人のトータル114人の大コンペです。平日なので私を含めシニアが多いですね。私は今年になって連盟に参加した新参者で、2回目の参加です。これだけ参加者が多いとほとんど貸切り状態にできるので、「ショットガン・スタート」という普段は見られないスタート方式をとります。4人一組の30組ほどが各ホールに2組ほどばらばらになって待機して、8時をもって一斉にスタートする、それがショットガン・スタートです。

 私は14番ホールのスタートでしたのでキャディさんの運転するカートに乗って10番ホールからカート道をたどり14番に行き、そこからスタートしました。この方式の欠点は、14番から18番までわずか5ホールをプレーしたあと、9時過ぎにハウスに戻るのでランチをとらなくてはいけないことです。その上、ランチ後は1番から13番まで連続でプレーするのです。1番や10番からのスタートの人は通常どおりなので、その問題はありません。それと、朝の練習場は混雑してまともにはできないこと、そしてお風呂はいっせいに入るのでイモ洗い(笑)になります。

さて、注目の結果は

 なんと私のグロスのスコアが3オーバーの75で1位。しかもシニアの部だけでなく一般男子も含めて1位だったのです。70台のスコアはあと77の方が一人、79が一人のわずか3人でした。富士桜は富士山の麓にあり、パットが超難しいので有名ですが、「パットの神様の教え」を守り(笑)、18ホールで3パットは一度もなく、1パットが7回もあったという上出来。ショットでもドライバーがすべてフェアーウェーを捉えたという素晴らしいできでした。

 しかし驚くのはまだ早い。実は114人で最高のスコアは、女子の部でプレーした若い方の72だったのです。つまりパープレーです。もちろん男子と女子はだいぶ距離が違います。それはプロと世田谷区コンペの距離が違うのも同じですが、どんなに短くても、パットの難しさに変わりはなく、パープレーには「恐れ入りました」のひとことです。

 以上、またゴルフ自慢の一席でした(笑)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

債券投資とインフレについて 雪風ファンドさんへの回答

2013年10月01日 | 2013年からの資産運用
 コメント欄で議論の続いている雪風ファンドさんとのやりとりで、債券投資の重要なポイントが出てきました。せっかくですので、債券投資をこれから考える方にもよい勉強になると思いますので、本文で解説させていただきます。

雪風ファンドさんのコメントは

>債券を満期まで持ち切ったときに受け取る金額は、名目では変わるリスクは(ほぼ)無いものの、実質では償還時のマネーの価値次第で変動する。以上の定義づけは、私は正しいと思うのですが、林さんは正しくないとお考えでしょうか?

ハイ、正しくありません(笑)

 理由は簡単なことです。それまでにもらった金利を忘れています。ゼロクーポン債を考えればわかります。現在の30年米国債の金利は3.69%です。30年後には複利でちょうど3倍になります。

 雪風ファンドさんの議論は、フィクストインカムで一番重要な金利の原理を抜かしている議論です。なのでインフレヘッジにならないと信じ切ってしまうのです。

 みなさんにも勉強していただくため、「そもそも」からいきます。

 債券金利の決定要素で最重要ポイントは

「将来のインフレ率(期待インフレ率)」です。

 将来のインフレ率が高くなると予想されれば、足元のインフレ率が低くても現在の長期金利は上昇してしまう。この半年のアメリカの金利上昇がそれです。低インフレなのに金利が高くなりました。今年1月から9月の平均インフレ率は1.6%です。10年物の金利で見ると年初は1.6-1.8%くらいだった金利が、5月以降上昇し始め、2.6-2.8%くらいで推移しています。

 フィクストインカムは原理的にインフレヘッジができていて、それにプラスアルファがついてくれば万歳という商品なのです。私の著書には長期間で債券、株(S&P500)、そして金などの投資結果を比較した表がP.256にあります。それをよくみてください。インフレの数値は比較していませんが、債券でもインフレには簡単に勝っているのです。

 例えば、2000年代の10年間のアメリカのインフレ率は約2%です。米国10年債の平均金利は4%で推移し、インフレ率を平均的に2%上回っていました。

次にこれからの債券投資を考えます。

 30年債の現在の金利は3.69%です。インフレ率がその金利レベルを将来に渡り上回り続けることはありえないでしょう。インフレはそれよりずっと低くなったままかもしれません。
 ドイツは昔から2%を上回ると警戒警報が発令されますが、アメリカも警戒をおこたらないので3.7%が2年も続くことはFRBが許しません。ときどきインフレが3-4%になったとしてもあとは2%前後なら、元本が3倍になるので簡単にはインフレに負けません。

 株には価格の保証もないし、倒産が増えれば分散投資をしていても大負けすることがありえます。アメリカ政府より安全な投資先がたくさんあればよいのですが、というより、現在の株価を必ず上回る株がいくつかあればよいのですが、私にはそれはみつけられないので株式投資はしません。

 以上、フィクストインカムの実力をご理解いただけましたでしょうか。著書のP.256にある投資結果の比較表を是非頭に入れていただき、今後の投資を考えてみてください。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする