ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日本の金融資産を世界遺産に!

2013年10月23日 | 2013年からの資産運用
「金融ニッポン」という特集が本日(10月23日)から日経新聞で始まりました。第1回目の記事は「成長マネーを創る」と題して、以下のような書き出しで始まります。

引用
ニッポンの財産は世界でも指折りの金融資産。家計には1,590兆円、事業会社には845兆円もの残高がある。だがこれが生かされていない。6月末時点で銀行などに預けられた預貯金は1,261兆円。融資に回っているのは682兆円と54%にすぎず、残りは主に国債で運用されている。成長分野にもっとお金が回るようにならないか。
引用終わり


 こうした議論はかつての首相で現財務大臣の麻生氏をはじめ、与野党の党首からヒラの議員、そしてチマタのエコノミストまでが頻繁に使う、日本のジョーシキです。

 いま一度最初の記事をよく見てみましょう。単なる無知か、それとも意図的かわかりませんが、初歩的なミスを指摘することから始めます。

 「事業会社には845兆円もの残高がある」とのことです。

これはウソです。そのうちの408兆円は企業間信用(売掛金など)や子会社への出資金、またその他の直接投資などで、ほとんどがカウント外で、すぐ現金化できる金融資産などではありません。

 実際の現預金は220兆円しかありません。しかも企業は当然融資を受けていて、それが326兆円あります。ということは

企業の現預金220兆円 ― 借金326兆円 = ▲106兆円

企業のふところの純キャッシュはマイナス106兆円で、お金は余ってなどいません。

 日本経済新聞のジョーシキはこの程度です。私の計算とは950兆円も差があります。みなさんもご興味があれば、日本銀行の発表する資金循環勘定の6月版を見てみてください。日銀のサイトですぐ見つかります。URLは
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf


 では次に、マイド・マイド私にバカにされている家計の金融資産のお話しに移ります。

 家計の預貯金は1,261兆円。「融資に回っているのは682兆円と54%にすぎず、残りは主に国債で運用」と書いてありますので数字を確認しますと、

 家計の預貯金1,261兆円 - 682兆円 = 579兆円

国債で運用されている約580兆円は無駄に眠っているので、それを活用しろという議論です。

 しかしこれは無駄などではなく、まさに日本国の命脈をつなぐ大事な資金です。それをもし他の投資に使ったら、売りにだされる580兆円の国債は誰が受け皿になるのでしょう。外人ですか?ありえません。

 麻生氏は借金大国の財務大臣で、常にこの国の財政を心配して、夏以降「消費税は必ず上げなければならない」と何度も言っていました。なのに家計の金融資産を有効活用するとはどういう意味なのでしょう。580兆円の国債を売却されてもいいのでしょうか。

 もっとも今年4月以降は異次元緩和のクロちゃんがちょっとだけ応援してくれています。毎月数兆円、合計70兆円を国債購入に充てると言っています。しかし異次元程度のはした金ではとても足りません。その8倍、8次元緩和でもしますか(笑)。

 預貯金の1,262兆円ですが、預金を下ろせば返って来ると思っている家計のみなさんはとてもしあわせですね。

 ある晴れた日、アソウ君の言うとおりにみんなで預金を下ろしに行くと

「ごめんなさい。お金はコンクリートに化けてしまったので返せません」

と言われて、しあわせな日々は終わりを迎えます(笑)。

 それでも「返して!」と叫べば、きっと「少し待っていただけば、クロちゃんが『半分返す』と言っています」と言われ、泣きべそをかいて帰ることになるでしょう(笑)。

 このブログをお読みのみなさんは数字ヲタクの私の議論の一端くらいは信じている方が多いと思いますので、日経新聞の記事を鵜呑みにはされないと思います。しかし世の中では、日経新聞の方をはじめ、大臣からエコノミストまで、このナイーブな議論に染まっているのです。

 日本食が世界遺産に登録されることを記念して、この際「ニッポンの財産は世界でも指折りの金融資産という幻想」を、世界遺産に登録しようではありませんか!

 
コメント
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