一昨日のアメリカのトップニュースは、またまた「トランプのウソ」でした。先日来トランプの不倫が問題化しているのですが、一人はポルノ女優、一人はプレーボーイの女性モデルで、プレーメートと呼ばれる女性の一人です。70年代のアメリカではこれぞ全既婚男性の憧れであった不倫相手なのですが、それを彼は2000年代でまだやっていたというのです。もちろん彼はメラニア夫人と結婚していましたので、口止めしようとしました。ウソとはトランプは自分の「弁護士がプレーメートに口止め料を支払ったことなど知らないし、指示もしていない」と言っていたことです。弁護士事務所を捜索した検察官がトランプと弁護士のその件の会話テープを発見し、それをCNNが入手して放映してしまったのです。動かぬ証拠を突き付けられたトランプですが、どう言い訳するのでしょう。
と言っても、かわいいトランプちゃん、不倫相手がプロのポルノ女優であったりプレーメートだと、自慢げに一緒に写真を撮ってしまうので、早くからバレバレなのです。彼にとって不倫程度のウソはウソのうちに入りません。トランプの最大の支持母体はアメリカの福音派キリスト教徒ですが、不倫を自慢しまくるおバカなトランプをよくぞ支持できるなと感心します。
一方で天に唾したトランプに、予想通り大きな2つの唾が戻ってきました。一つは中国によるアメリカ産農産物への対抗措置が効いて、ア「メリカの農業がすでに打撃を受けはじめたため、政府が120億ドル、1.3兆円もの救済補助金を出すというのです。今一つはハーレーダビッドソン製造工場の国外逃亡です。欧州がハーレーのバイクに課す関税を、自社が負担するという決断、そして今後工場を国外に脱出させるというのです。農業もハーレーも、トランプの支持母体ラストベルトにあって、彼の自爆テロで大きな被害を受けつつあります。
前回のシリーズ記事「トランプでアメリカは大丈夫か?」の最終回に、私のような楽観論に対してかなり悲観的に今後の世界を見ている人がいる。その議論とは
「アメリカのトランプ、イギリスのBREXIT、イタリア、オーストリアなど、反グローバリゼーションを掲げるポピュリズム政党・政治家が、今後も資本主義・民主主義世界を揺るがすことになる」というこわい議論です。
この議論をリードするのは、世界的人口動態歴史学者であるエマニュエル・トッド氏などですが、今回から今後の世界を占う意味で、こうした議論を私なりに検証したいと思います。
ではエマニュエル・トッド氏の「グローバリゼーション限界論」に入ります。16年6月に行われたイギリスの国民投票によるEU離脱と、その秋のトランプ当選が米英2か国のポピュリズムへの転換点として歴史に刻まれそうな雲行きです。その後欧州ではオーストリア、イタリア、ポーランドなどEU加盟国でも反移民を旗印にポピュリズム旋風が吹き荒れていますが、ドイツとフランスの選挙ではその動きを阻止しました。ポピュリズムを選択した各国は反EU、あるいはもっとはっきり言えば反ドイツを政策の中心に位置づけているように思えます。
その上トランプが世界中に突き付けるアメリカ・ファースト=保護貿易やNATOの軍事費負担問題、そしてアメリカのイラン核合意からの離脱が、欧州や世界に大きな混乱をもたらしています。日本も例外ではなく、今後さらに貿易や防衛費負担をめぐり、いずれトランプから激しい攻撃を受けるに違いありません。
こうした昨今の問題の元をたどると、政治学者の間では「グローバリゼーションの行き過ぎ」に原因があるといわれています。それを確かめる意味で最近私はフランスの歴史学者、エマニュエル・トッ氏の近著をまとめて読んでいます。何故なら彼こそ「行き過ぎ論」の本家本元だと言われているからです。エマニュエル・トッドは人口動態分析をベースとした歴史学者で、歴史の転換点を言い当てることに長けているといわれます。これまでに彼が言い当てたことを並べると、
・ソ連、東側諸国の崩壊
・イギリスのEU離脱
・トランプの当選
こうしたことを予想したといわれています。彼の人口動態分析理論は人類の歴史をさかのぼり、共同体構成の分析から始まり家族構成や婚姻形態など、百年単位での動きの分析を数量的に行うことで歴史上の大きな出来事の背景を説明しています。歴史を数量分析する彼の手法を、数字ヲタクの私は評価はするのですが、百年単位で起こることの分析でトランプ当選を予想できたとはどうしても思えません。
私が読んだ本は学術的な大部のものではなく新書版程度のもので、タイトルを並べますと、
1.「問題は英国ではない、EUなのだ」16年9月(BREXIT後、トランプ当選前)
2. 「世界の未来」18年2月 これは数人の学者へのインタビューをまとめたもので、彼へのインタビューは一部分です。
3. 鹿島茂氏による「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」17年4月。彼のこれまでの学術的功績をダイジェストで示しています。
このうち3はエマニュエル・トッドの歴史分析の方法論や彼の一番の得意分野である家族構成分析などがメインのため、ここでは対象から除きます。グローバリゼーションの与える影響に関してもっとも直接的に分析しているのは1.の「問題は英国ではない、EUなのだ」です。そこでその本の核心部分を紹介することにします。
そもそもタイトルにあるとおり、彼はグローバリゼーションの行きついた先がEUという個々の国家主権を制限した統合国家であるが、実態はドイツによるEU支配で、それが強まることが様々な問題を引き起こしているとしています。以下が超簡単ダイジェストです。
戦後世界は3つ目の局面に分かれていて、現在は3番目の局面に入ってきた。
1.1950年―1980年 成長局面・・・アメリカが先行し、日本と欧州が追い付いてきた。消費社会の到来した時代
2.1980年―2010年 経済的グローバリゼーションの時代・・・ここ数世紀の様々な世界的潮流は、例えば民主主義、自由主義などと同様、グローバリゼーションもアングロ・アメリカン、すなわち英国と米国によって推進された。ソ連と中国の共産主義はそれに対抗できなかった。
3.2010年以降、グローバリゼーションのダイナミズムが底をついてきている・・・その兆候は本家のイギリスとアメリカも例外とせず、むしろとりわけこの2国で限界が表われてきている。
それが現象面としてあらわれているのが、
1.アメリカでは不平等の拡大、支配的白人男性グループにおける死亡率の上昇。社会不安の一般化により、ナショナルな方向への揺り戻しが始まり、その象徴がトランプやバーニー・サンダースの登場である。
2.イギリスもアメリカ同様にグローバリゼーション行き過ぎの影響を受けた結果BREXITを決め、欧州統合プロジェクトから抜ける決断をした。
これらを起こした理由は彼によれば、グローバリゼーション・ファティーグ、行き過ぎたグローバリゼーションによる疲れである。彼はグローバリゼーションの推進は経済理論の中でもネオリベラリズム(新自由主義)によるものだと断定し、それが移民問題を生起させたとしています。
つづく
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