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グローバリゼーションの行きつく先 その2

2018年07月30日 | グローバリゼーションの行きつく先

   トランプの打ち出した政策で唯一評価されているのは法人減税だと以前申し上げました。しかし数日前それに対してアメリカ政府自ら冷や水をあびせました。アメリカの国家予算を計画・管理する行政予算管理局が税収のひどい落ち込みを明らかにしたからです。法人減税は1月から実施され、35%が21%になっています。その結果1-6月の半年の法人税収が3割も減収になったというのです。そのニュースで米国債金利は一昨日上昇しました。

    減税を単純計算すると、21%÷35%=69% なので、当然約3割の減収になります。しかしトランプ政権はその減税が企業に蓄積され、将来の投資に向かったり賃金の上昇につながるので、税収は逆に増えるという皮算用を持っていました。ではそうしたプラスの波及効果を含んで、将来の見通しはどうなるのか。それを行政管理予算局が10年単位で計算し予測した結果は、10年間で財政赤字は円で110兆円の減収、年11兆円のマイナスだという結果を示しました。どうやらトラタヌだったようです。

 

  さて、前回はグローバリゼーションの行き過ぎが「疲れ」という症状を起こし、その反動で以下の二つの現象が起きたというエマニュエル・トッドの解説を紹介しました。二つとは、

 1.アメリカでは不平等の拡大、支配的白人男性グループにおける死亡率の上昇。社会不安の一般化により、ナショナルな方向への揺り戻しが始まり、その象徴がトランプやバーニー・サンダースの登場である。

 2.イギリスもアメリカ同様にグローバリゼーション行き過ぎの影響を受けた結果BREXITを決め、欧州統合プロジェクトから抜ける決断をした。

   グローバリゼーションのどこが行きすぎで、どこが悪いのかと言いますと、彼は不平等の拡大移民問題を取り上げています。それらの解消はトランプの選挙公約で、その公約こそ彼を当選させた原動力だと一般的にも分析されています。

 トランプ当選直後私は当ブログでもグローバリゼーションへの批判が多かったので、逆にグローバリゼーションの擁護論を展開しました。ちょっと長い引用ですが振り返ります。その時のタイトルは「グローバリゼーションについて語ろう」でした。

引用

日本は鎖国から世界に門戸を開いたことによって、大発展を遂げた。日本国内の過去を振り返ってみよう。グローバル化による競争だけでなく、一国内の同一産業でも、競争に破れた企業の従業員は失業する。ある産業全体でも、不要になれば産業全体が衰退し、失業者が出る。日本で言えば石炭産業は壊滅したし、繊維産業や縫製業はかなりの程度衰退し、失業者はたくさん出た。

   石炭産業を防御するために石油の輸入を抑えたりしたら、エネルギー効率を悪化させ産業全体が競争力を失うことになる。中国やバングラデシュからの繊維製品の輸入を制限したりしたら、国民服ユニクロを着ることはできない。それでも制限することに意味はあるのか。

   それよりも石炭産業をあきらめ新興自動車産業の発展に賭け、人手を使う縫製は中国にまかせ、エレクトロニクス産業に賭けたことで日本は大発展を遂げた。では、日本に利用された中国はどうか。グローバリゼーションにより日本に吸い尽くされたか。

   閉じた共産主義の国から貿易立国へと大変身することで人々の所得は爆発的に増加し、天安門広場にあふれかえっていた自転車はすべて自動車にとってかわられた。所得が増えたことで逆に高品質・高価格の日本製品が中国でも売れ、中国人旅行客が来日して日本のデパートで爆買いし、ホテルが儲かり観光地にカネが落ちた。結局、日本にまで大きな恩恵をもたらした。

   利用する側もされる側も、グローバル化の恩恵に浴したのだ。

引用終わり 

 鉄鋼とアルミに高関税をかけることからスタートしたトランプの保護主義は、アメリカ国内の主要産業団体や経済団体はもとより、世界の指導者などからも非難を受け、一昨日はトランプの放火で火の粉をかぶった農家に対して政府が補助金を出すという決断までしています。つまりトランプの保護主義は国内のためになっていないし、農家は実害を受けるところにまでいっていることを政府が認めたのです。

   アメリカで鉄鋼産業が復興することなど、多少の例外はあっても本質的にはありえないのです。ハイテク分野へのシフトが成功したのですから。一方アメリカの低賃金労働者の多くがサービス産業などで働いています。アメリカでマックに入っても白人労働者はほとんど見かけません。多くはアフリカ系、あるいはメキシコなど中南米系の人たちです。ハイテクとサービス産業の賃金格差は非常に大きいものがあります。その解決はハイテク産業をやめて鉄鋼産業にシフトするのではなく、高額所得者への課税強化と最低賃金の引き上げなどで解決すべきですが、トランプは反対に高額所得者の優遇税制を導入しています。言っていることとやっていることは相変わらず真逆です。

  では移民問題はどうか。

  欧州の「グローバリゼーション・ファティーグ」はトッドが指摘しているように、主に移民問題から発生しています。その証拠にBREXITは中東やアフリカからの難民問題が焦点でした。でも彼はその「グローバリゼーション・ファティーグ」と移民の関係を説明していません。私にはグローバリゼーションが海外からの移民を増加させているとは思えません。ちょっと深堀します。

 

  今一番問題になっているのは単なる移民問題ではなく、難民と移民の二つです。それを分けて考える必要があります。一つ目は中東やアフリカからヨーロッパへの「難民」で、その原因は部族間や宗教間の対立による内戦や、ひどい独裁政権による虐殺などから逃れることによるのであって、これらはグローバリゼーションとははっきり言って関係ないと思います。

 

  二つ目の経済的理由からの移民も、むしろこれらの国々と先進世界が貿易でつながり共生関係が構築できれば、つまりグローバリゼーションが十分にワークすれば、移民しなくても自立の道が開けるかもしれません。こちらもグローバリゼーションが原因で経済移民が生じているとはいいがたく、むしろグローバリゼーションは解決手段だと私は思っています。

 

  彼の著書「問題はイギリスではなく、EUなのだ」では移民問題がエマニュエル・トッドの論旨の核心部分ですが、はっきり言って説明不足です。もし「オマエの読み方が不足している」、という方がいらっしゃれば、是非解説をお願いします。

   長くなりましたのでここまでをまとめますと、

   エマニュエル・トッドによる歴史の人口動態分析からすぐに移民問題は導けないし、移民問題からグローバリゼーションの限界論もすぐには導けない。彼は歴史の転換点を的確に予想したが、それと彼の百年単位の人口動態分析は別物ではないか。というのが私なりのエマニュエル・トッドの読み方です。

   では例えばアフリカからの移民問題はどうしたら解決できるのか。次回はその提案をしたいと思います。

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