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グローバリゼーションの行きつく先 その3

2018年08月10日 | グローバリゼーションの行きつく先

  日本ではヤクザまがいの独裁者が一人、負けを認めました。辞任の会見では力なく、ロレツも回らず意味不明。見るも無残な最期でした。

   もう一方のアメリカのヤクザは世界を敵に回して依然として意気軒昂です。しかし彼にも隙間風が吹き始めました。秋の中間選挙に影響を与えるオハイオ州の下院議員補欠選挙で、民主党候補が5分5分の戦いぶりを示したからです。

   16年の大統領選挙では、このオハイオ州と隣のペンシルベニア州でトランプが勝利をおさめたのが勝因と言われた元々共和党の強い選挙区です。いわゆるアメリカのラストベルト(錆びついた地帯)の中でも大きな州です。大統領選挙ではトランプ対クリントンの差は11ポイントありましたが、今回の補欠選挙では共和党候補50.2%対民主党候補49.3%となかなか当確が出ないほどの接戦なのです。

   トランプは選挙中と限らずこの州には頻繁に足を運び、支持者集会をおこなっていました。にもかかわらずこの接戦です。最近時々トランプの支持率が改善しているというニュースを見かけますが、私が見ている多くの世論調査のおまとめサイト、Real Clear Politicsの平均値は改善などしていません。特定のメディアで特定日の調査数字を使うとトランプの支持率は悪くない言えないこともないのかもしれませんが、「平均値は変化なし」です。以下はおまとめサイトでの各種調査の平均値を半年ほど見たものです。(四捨五入)

       支持  不支持

2月2日   42%  54%

4月1日   42%  53%

6月2日   44%  53%

7月1日   43%  52%

8月8日   43%  52%

 

  恣意的に特定の日を選んではいません。2か月ごとの月初と直近は1か月前の7月と8月です。数字はほとんど動いていないのが実態で、こういうのを表現するにはベタなぎと言うのが適切でしょう。ということは、4割ほどの人が支持率の岩盤を形成し、5割ほどが不支持率の岩盤だということになります。

  毎日あれだけひどいことを世界中でしでかし、ニュースで批判されても支持率は落ちないし、逆にそれをツイッターでトランプが反論しまくっても、支持率を上げることはできない。貿易戦争や北朝鮮問題、イランやロシアへの制裁など、アメリカ国内の有権者はどこ吹く風と思っているのでしょう。しかし隙間風以上の逆風が彼のあのフェイク・ヘアーを逆なでしているように思われます。

   フェイクと言えば遂に身内からも彼の「フェイクニュースだ」というメディア攻撃を非難する声があがりました。私は何度かイバンカなどの家族がパパのセクハラや傍若無人ぶりに「パパ、いい加減にして。もうやめてー!」と何故言わないのか、と言い続けていましたが、遂にそれが出たのです。8月3日のBBCニュースを引用します。

 「ドナルド・トランプ米大統領が折に触れて、メディアを「国民の敵」と呼び、支持者集会でもメディア攻撃の勢いが高まるなか、娘のイバンカ・トランプ氏は質問に答えて、自分はメディアを国民の敵とは思わないと回答した。」

   こうしたトランプの隙間風とは別に、世界のそこかしこでは怪しい風が吹きつつあります。それらを順不同に箇条書きにします。

まず海外では、

 ・トランプの保護主義が中国経済に悪影響を及ぼし、それが世界へ波及する恐れがでている

・トランプのイラン制裁が欧州・日本を含むイラン関係のビジネスを後退させているが、イラン指導者が制裁に対抗してホルムズ海峡封鎖を言い始めている

・トランプ減税の第2弾・第3弾が選挙対策に使われる懸念が出てきている

・イギリスの無秩序なEU離脱が現実味を帯びてきている

EU内の各国議会で右派が議席を伸ばし、結束が乱れかねない

 

日本では、

・日銀の異次元緩和に手詰まり感が強く出始めている

・金融機関の収益、特に地銀以下がボロボロになり始めている

 これは金融秩序を保つ役目を日銀が放棄し、混乱を促す側に回っているためです。

   今後金融市場などで大きな異変が起こらないか、心配です。

 

  では、シリーズの「グローバリゼーションの行きつく先」に戻ります。

欧州が立ち往生し、EUが崩壊の危機に陥るかもしれないほどの問題の原因は、アフリカ・中東からの移民問題です。

  8月9日付の日経新聞は、「欧州で勢いづく極右」というタイトルの記事で、「スウェーデンで極右政党が第1党をうかがう」というニュースを流していました。極右台頭の最大の原因は「反移民」です。記事はこう続きます。

「欧州で第1党が極右になれば戦後初めて。主要政党は極右との連立に否定的なため、極右政権が誕生するハードルは高いが、各国で移民排斥・反イスラムを掲げる政党が勢いづく兆しが出てきた。」

  移民問題の解決は一朝一夕にできるものではありません。そんな方法があれば、もちろん実行されているに違いありません。でもじっくり構えれば解決への道筋は描けます。それはごく当たり前のことですが、グローバリゼーションに背を向けずに利用し尽すことです。

  日本は明治の開国により発展を遂げました。それに異論はないでしょう。

  明治維新後フランスから機織機を導入し絹織物業を発展させたのが世界遺産に登録された富岡製糸場です。その後綿織物にも広げ、さらに機織機自体を作るところに至ったのがトヨタ自動織機です。戦後のアメリカとの貿易摩擦は繊維産業から始まりました。沖縄の返還交渉は、「縄と繊維の交換」だと言われましたが、沖縄を返還する代わりに繊維の輸出を制限しろというものでした。

  日本は繊維産業の対米輸出をあきらめ、繊維産業は壊滅的打撃を受けましたが、豊田自動織機はトヨタ自動車へと転身することで、会社も日本も大発展することができました。しかしその繊維・縫製産業はその後人件費の安い中国に流れ、それが中国発展の踏み台になっています。

  さらに中国の人件費が上昇すると中国で作っていたユニクロなどがベトナムやマレーシア、そしてミャンマーからバングラデシュへと製造拠点を移して行き、それが各国をテイクオフさせつつあります。これがまさしくグローバリゼーションの果実で、それにより国民所得を向上させることで国内の安全・秩序が保たれるようになり、アジア各国では大きな内乱などがほぼなくなっています。

  シリーズでは前回の最後に「アフリカからの移民問題解決の提案をします」と申し上げましたが、以上のようなアジアでの成功例をアフリカでも実行したらどうかというのが提案内容です。部族間の紛争や宗教対立は根が深いため、それ自体の解決の手立てはとても思いつきませんが、経済から攻めていけば道が開ける可能性は大いにあると思います。

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