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トランプは何故支持され続けるのか? その1

2017年11月15日 | トランプのアメリカ

  昨年11月8日の大統領選挙から1年がたち、トランプの1年を振り返る報道がたくさん流れました。その中で最大の話題だったのは、

  トランプは何故支持され続けるのか?

という疑問でした。もちろん支持は4割前後しかないのですが、底割れはしていません。それに対して明確な回答が示された報道は見当たらなかった、というのが私の印象です。

  多くの報道は大統領選挙で決定打となったアメリカ中西部のラストベルトのその後を取材。選挙から1年経ち、果たして投票者の支持に変化はないのかを探っていました。そして結論は、トランプがそこに暮らす白人労働者層の支持を依然として失っていないから、全体の支持率も下がっていない、という結論を述べていました。選挙中トランプは彼らの鬱積した不満を煽り、支持を得ました。「オレ様が石炭産業を復活させる」とか、鉄鋼業界で「海外に流失した雇用を取り戻す」という公約です。

  しかし実はこうしたラストベルトに対する公約のほとんどは実現できていません。その他の内政問題・外交問題を問わず選挙公約のほとんどは、いまだに実行できていません。

  TPPやパリ協定からの離脱はサイン一つなので、私は彼の実績のうちにカウントしません。単なる破壊行為です。支持者はそれも実績だと喜んでいるでしょうが、例えば予算の裏付けが必要な大幅減税などを実現しているなら評価してあげます。それは破壊ではなくある意味創造だからです。創造は全くできていません。


  では就任以来の支持率の推移を簡単に見ておきましょう。各種の世論調査を時系列で並べて見ることのできるおまとめサイト、リアル・クリアー・ポリティックスによる移動平均の推移です。移動平均とは、個々の世論調査は偏りもあり変動も激しいので、最新の調査10件の移動平均を取り平準化した数字です。もちろん個々の調査を見ることもできます。以下は平均値の推移です。

    1月27日  8月14日  9月24日  11月14日

不支持  44.3    57.4    52.4     56.8

支持   44.2    37.4    41.7     38.1

  就任直後の1月には不支持と支持が拮抗してスタートしました。これは投票率でヒラリーがトランプを若干上回ったことと符合します。しかしその後は一貫して不支持が20ポイント近く上回っています。

  8月14日は不支持が最高値57.4%に達しました。就任以来側近をどんどん首にし続けましたが、8月はあの首席戦略官バノンを首にした時で、政権内部の混乱がピークに達した時期です。

  9月24日は逆に就任時点を除くと支持率が41.7%とピークを迎えました。その時期は北朝鮮の挑発が激しくなり、トランプもそれに対して吠えまくった時期です。独裁者政治の常とう手段、「敵を作って支持率を得る」を金正恩同様、トランプが実行していました。

  そして現時点は支持率が38.1%と、最低の支持率に近い数字です。と言っても、実際には支持率はとても狭い範囲で動いており、彼が何をやっても支持率は低迷し続け、その逆で何をやっても不支持率は高位安定しています。推移のグラフを見たい方は以下のサイトで見ることができます。

https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/president_trump_job_approval-6179.html

 

  選挙後1年の報道で多くのメディアが焦点としたのは、トランプの支持率が4割を若干割り込むところから、何故それ以下に落ちないのか、という点でした。理由として挙げていたのは、結局選挙での支持層が依然として支持を続けているから、ということでした。

  私にはその理由は理由になっていません。何故なら公約は全く実現できていませんから、失望があって当然。どの国の政権も公約を実現できなければ、時間の経過とともに支持率はじり貧になるからです。フランスのマクロンがいい例で、あの熱狂が覚めると支持率はまさにつるべ落としになっています。

  報道だけでなく、アメリカ政治の専門家もトランプの支持率安定に様々な分析を提示しています。その内容は例えば、アメリカの地方に脈々と根付く保守層である農民やブルーカラーが、都会的でITを駆使する高所得者のリベラル層を常々苦々しく思っている。それを今回トランプが代弁し、生意気なリベラル層を蹴散らしてくれた、というような分析。また、本来ブルーカラーの代弁者は労働組合などの組織票を支持基盤とする民主党のはずだが、アメリカ・ファーストを掲げるトランプに低所得の労働者は切り崩され支持に回ってしまった、などの分析です。

  しかしそうした分析は1年前の投票行動の分析であって、1年経った現在の支持率が低位ながらも安定している説明にはなりません。国内外のほとんどのマスコミが毎日のようにトランプの蛮行を非難し、国際社会からも批判されっぱなしなのに、何故支持率は激減しないのか。

  公約をまったく実現できないトランプは今でも時々ラストベルトに行って、選挙期間中と同じ赤い帽子をかぶり、「アメリカ・ファースト」と吠えまくっています。これは支持層が離反しないためのメンテナンスであり、またホワイトハウス内やマスコミへのフラストの彼なりの解消法でもあります。アメリカ大陸の真ん中にいて海を見たこともない多くの中西部の人たちは、北朝鮮問題など全く関心がないし、米中関係など知ったことかなのです。

  公約実現のできないトランプの支持率が何故落ちないのか、次回は私なりの分析をトライします。

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3 コメント

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Unknown (Owls)
2017-11-19 04:17:47
こんにちは

アメリカの民情についてはよくわかりませんが、
マスコミが安倍内閣・自民党政権批判をどんなに展開しても
意外にも選挙には大勝してしまう事情ななんとなく理解できます

こういう言い方は良くないとは思いますが
左派マスコミとそれに共感する人が多い団塊世代中心とした老齢世代に対して
バブル崩壊後に社会に出た人達の不信感はかなり強烈なのです

なにせ社会に出たとたんバブルのツケを押し付けられ
中には正規雇用になれず中年期を迎えた人も少なくありません
そうした人たちは常にその日暮らしみたいな生活を長年強いられました
しかし、マスコミなどは若者の○○離れとかいって物欲が無くなったような言い方をします
物欲が無くなったのではなく収入がないことをまるで理解しない無神経な分析しかしません
消費が低迷したの物欲がない若年層のせいだといわんばかりです

ほぼ社会に出てから良い思いもしたことがなにも関わらず
さらに財政が大変なことになってます、現役層はそれを負担してくださいと言われても
それが正論であっても容易に受け入れるわけがありません
薄々は怪しいとは思っても異次元緩和で何でも解決みたいな都合のよい話にも飛びついてしまいます

国際情勢でいえば左派マスコミとそのシンパの人達は
反米、親ソ連・中国・北朝鮮というスタンスだったと思います
それがソ連は崩壊し現実に日本の脅威となったのは中国や北朝鮮です
バブル崩壊後に社会に出た人たちには左派マスコミとそのシンパの人達が
いかに甘く間違っていたかを目の当たりしているのです
加えて反自民の政界再編ごっこにもうんざりしています

ようやくバブル崩壊後に社会に出た人たちが
数的にも年齢的にも社会の中核になってきたのですから
当然のことながら政治や選挙の投票へも反映されるのは自然な流れです
ご老体の評論家がテレビ等に出演して右傾化を嘆いてみせますが
それの原因をつくったのは誰だったかを反省した方がよいと思います
そして社会の中核世代になってきたバブル崩壊後に社会に出た人の感情を利用する政治勢力が出るのは当たり前です

私が安倍内閣や黒田異次元緩和が時代の必然だったというのはそういう一連の流れがあると思うからです
現在の中核層はバブルのツケを押し付けられたあげく、
今度は財政悪化のツケを負担しろという話を容易には受け入れません
だから異次元緩和みたいな非常識な金融政策が必然的に出てきます

こうなってしまうと政治的に財政問題を軟着陸させるのは難しいと思います
ほぼ個人レベルで対策を考えるしかないでしょう

返信する
米国の緩和姿勢 (ひであき)
2017-11-19 08:24:43
日頃より楽しみに拝読しています。
最近米国の金利上昇が緩慢です。
新しいFRB議長はトランプの意向を汲み取り低い金利のままとするのではないか?であるとか、それでも国債の買い入れは減らしておりその影響は何処かに出ざるを得ないという話も聞いています。
米国の経済は間違いなく堅調で、このまま低金利が続くとリスクはバブルということですが、そのリスクを放置することが可能なのでしょうか?
近々の状況を見るとしばらく金利も上がらず円安にもならない状態が続くのではないか、と懸念しています。
返信する
ひであきさんへ (林 敬一)
2017-11-19 16:44:03
>日頃より楽しみに拝読しています。

楽しみにしていただいているとのこと、ありがとうございます。

ご質問の趣旨がイマイチ理解できないため、うかがいます。

>米国の経済は間違いなく堅調で、このまま低金利が続くとリスクはバブルということですが、そのリスクを放置することが可能なのでしょうか?

可能か否かが質問の主旨ではなく、放置したら問題になるかが質問なのでしょうか?

それともうひとつ。

>近々の状況を見るとしばらく金利も上がらず円安にもならない状態が続くのではないか、と懸念しています。

懸念されているということは、金利も上がらず円安にもならないと、なにかまずいことがあるのでしょうか?




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