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アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その6

2015年10月14日 | 新3本の矢

  前回のレビューをしておきます。農水省がこれまで伝統的に発表していた食料自給率はカロリー換算で39%だが、実は生産金額ベースでは64%だともう一つの数字を併記するようになった。ちなみに64%は、けっして低くない数字だと言われています。そして食料自給率がとても高く100%を超える国々は、日本の友好国であるオーストラリア、カナダ、アメリカ、フランスなどで、そうした国々を敵に回して戦争をすることなどありえず、現実的に考えれば自給率をこれ以上上げる意味などあまりない、ということを申し上げました。

  いま一つは、TPPの農業分野の合意内容は本当の自由化からは程遠く、コメと牛肉ですら実質的影響はほとんどない内容だとお伝えしました。むしろ日本は黒船が来るという場面になると競争力を強化してきた歴史のある国だともお伝えしています。

  TPPの話の初めのころに、ここからは農業をされている方には耳の痛い話をしますと宣言したのですが、こうして見てくるとそうでもないことを理解いただけると思います。

  では次に、農業問題の核心である政府の補助金についてです。いくら自給率が高いと言っても、政府からの莫大な補助金で高くなっていては、疑問符がつきます。国際的に比較すると、農業への補助金は生産額に対してどの程度の比率になっているのでしょうか。この数字もけっこう様々な数字があるようなので、中立的機関とおぼしきOECDの発表数字でおよそのところを見ておきましょう。OECDのサイトにある14年調査の実績値です。

日本;49.2% アメリカ;9,8% 中国;20.2% オーストラリア;2.3% EU平均18.0%

  この数字を見て、どう思われますか。日本は断トツですね。やはり自給率の高い国は補助金が少なく、日本のように自給率が低いと補助金の率も大きくなるというごく当たり前の結果が見て取れます。ちなみに前回記載した自給率は以下のとおりでした。重なっていなくてすみません。

オーストラリア173%、 カナダ168%、 アメリカ124%、 フランス111%

  ちなみに補助金率2割の中国の自給率は日立総研のレポートによれば、2000年代初めには100%前後だったものが、現在は90%を割るところまできているそうです。このところ私の大好きな「さんま」を中国と台湾漁船が沖合で獲ってしまい、沿岸で獲る日本漁船の水揚げが激減しているというニュースがあります。水産物に異常なほど執念を見せるわけが、このへんにもありそうです。

  さて、私が気になるもう一つの数字は、補助金の累積額はどれほどになっているか、ということです。もちろんそれが財政上の大きな負担になるからです。例えば90年代初頭にまとまった関税引き下げのためのウルグアイ・ラウンドの対策費は当初3兆円くらいといわれましたが、最終的には6兆円も出してしまいました。そして効果はほとんどゼロだったと言う評価が定着しています。競争力アップなどなく、ただのバラマキに終わったとの評価です。今回もTPPには対策費がつきもののはずです。我々はウルグアイ・ラウンドのことを念頭に、しっかりとウォッチする必要があります。

  では補助金のことをコメについて見てみます。例えば非常に長期間に及んでいるコメの買い取り価格維持の施策費はいったいいくらになっているのでしょうか。関税率700%ということは、そのぶん国際価格を上回る額で買い上げているという単純な想定を置くと、700%分すべてが補助金だとも言えます。何故ならもし同じ様なコメを海外から買えるのであれば、我々は8分の1の価格で済む。つまりコメの価格の8分の7は補助金だということです。まるでタバコの話をしているようですね。昔は政府の買い取りと消費者価格が逆ザヤで政府が損しているということもありましたが、いまはほとんど消費者価格に転嫁されています。それを数十年も続けていればコメだけでも莫大な金額です。もちろん消費者はコメを買う時に政府の補助金を補てんしているので、結局はコメとは税金の塊を買っているようなものだとも言えます。

  ここまでコメについて非常に単純化して話をしてきましたが、みなさんもご存知のように実はコメの流通はそのような簡単なものではなく、間に農協が入り市場価格を操作したりできなかったり、自主流通米もあったりと言う複雑な問題もかかえているため、消費者には訳のわからないものになっています。複雑であることは農協と農水省の思う壺です。こころある米作農家の中には農協と政府に反旗を翻す勇敢な農家が現れ、ますます複雑さを増してしまいました。こうした補助金行政こそ、TPPで打ち破る必要のある言わば日本の伏魔殿です。その意味でTPPは評価できるものだと私は思います。

  補助金の話に戻りますと、残念ながら過去の農業補助金の累計がいくらくらいなのか、きちんとした数字を探すことはできませんでした。農業施策は実にさまざまなものが存在し、どこまでが補助金と認定できるか難しいからなのかもしれません。ある農業研究者の文章に、「これまでの補助金の累計は約九十兆円だ」という記載があったことだけみなさんにはお伝えしておきます。これが当たらずも遠からずなら、日本の累積赤字の約10分の1は農業補助金だということになります。

つづく

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